二海由樹について妄想にふけって後悔する
二海からのメールを閉じる。
俺は自分のデスクから立ち上がり、ネクタイを緩め、コーヒーを口に含む。
ーやれやれ、この頃肩凝りが酷くて、ああ、やだやだ。
そんなことを考えながら、窓から夜景をのぞむ。
会社のオフィスから見える街の風景はすっかり夜の帳をおろし、夏場は薄明かるいこの時間帯も、秋の夕暮れはとっくに終わっている。
地方都市といえど、それなりに夜景は明るく、人々の行き交いも活発に行われている。
二海由樹のことを考えていた。
ここのところ、毎日メールをしている。職場では事務的なやりとりがほとんどだが、メールだとお互いに饒舌になる気がする。
何かメールがないと淋しい気がする。そんな時にメールがくると自然に頬が緩むのだ。
二海由樹。
商業高校で情報処理を学んでいたらしい。ダントツで成績優秀で「本校初の首都圏のこくりつか有名私立への進学を!」と高校は望んでいたらしいが、父に先立たれ家計が大変なことを理由に、就職活動を選んだ。
いち早く目をつけた我社の社長がひっぱったらしい。
さすが一代でこれだけの規模に会社を成長させた男。普段は呑んだくれのオッサンにしか見えないが。あ、それは俺もか。
きゅっと後ろでひとつに束ねた栗色の髪。透き通るような白い肌。やや目尻の下がった人懐っこそうな眼。小さめだが形のよい唇。
やや細身だが痩せすぎてはいない健康的な体。
…あー!!いかんいかん!!こんなことを考えてる俺はやっぱり変態かもしれない(泣)
そして、俺はふーっとため息をつき、再びデスクに向かう。
その時、ドアが勢いよく開いた。
事業部の北木が飛び込んできた。
「よかった!まだいたか。」
北木の顔が真っ赤になっている。よほど急いだのだろう。
「どうした。血相を変えて」
はあはあと北木は息を整えて話す。
「た、大変だ!山内工業の社長が急死だ!」
「なにぃ!?」
我社にとって最大の顧客。
山内工業の社長の急死は我社を揺るがしかねない事態だ。




