約束を守らない男ってどうよ
株式会社山内工業の社長、山内圭二氏は今日の18時30分、自宅の書斎で倒れているところが発見された。心不全による死亡と診断された。(株)山内工業は、創業50年。社員を300人以上抱える大きな会社だ。
会計・税務、経営支援、新規事業展開、社員教育に至るまで我社が請け負っている最大の取引相手で顧客である。
俺は直ぐ様、電話をとる。
「浦野係長、オレだ。山内工業の社長が急死した!君のところの係が支援担当だっだろう。係全員、大至急会社に集合させろ!」
21時に北木のいる事業部、会計部、そして我が経営支援部の担当課長はじめ、主だった社員を集合させ、事態の全容を把握する。
「山内工業は先代が創設した町工場を山内圭二社長享年58歳が承継し一代で築き上げた会社です。自動車部品や農機具の加工部品の製造を手掛け、特定の取引先を持たない企業です。専務取締役は妻の多香子氏、取締役顧問は母親の富美氏です。実質、圭二氏のワンマン企業といってもよいかと思います」
さすが浦野だ。顧客情報はしっかりとつかんでいる。
特定の取引先を持たないということは強みではある。しかし、どの大手企業もこの会社の維持に責任を持たないし、それだけ競合他社も多く、社長不在となり会社が停滞したときに一斉に仕事を奪いにやってくる。そうなったらあとは坂道を転がり、落ちるところまで落ちる。
ひとまず我々は23時に、急遽、山内工業の総務部長と会談。後継者について検討をした。
そのときに役立ったのが、二海のリサーチだった。
「圭二社長には他社に勤務しておられる光二さんという息子さんがいらっしゃいます。圭二さん名義の株式が先週末に光二さん名義へ譲渡されています」彼女が手帳を見ながら話す。
総務部長も把握していない情報だったが、顧客の経営分析を行うなかで、社長の資産が移動されていることに二海が気づいたようだ。
株主が同族が継いでくれたほうが社内も金融機関も納得が得られやすいと部長もほっとしていた。
24時、関東から急遽帰郷してきた息子光二氏と面談。
サラリーマンとして雇われる側だった光二氏は「経営には全く関心がない」と、固辞された。
俺は社員を路頭に迷わせないためにも、血縁者が後継をすることが最も安全策であることを強調し、引き続き我社がしっかりとサポートをすることを約束し、説得を行った。
翌20日はもちろん俺の休みは返上となった。しかし、二海はじめ他の社員で休みを希望していた者、昨夜遅くまで対応をしていた者については休ませた。
朝から光二氏の説得工作は続いた。
山内工業サイドからも説得を懇願されていたためだ。
ようやく通夜のはじまる19時。
「蒲生さんの熱意に折れました。オヤジの後を継ぎます。そのかわり、蒲生さん、ずぶの素人の私に手取り足取り指導をお願いしますね」
との言葉をもらい、我々も通夜に出席、喪主として仕切る光二氏の側で参列者を紹介してまわった。
来週の臨時株主総会で正式に社長職継承をする予定だ。
「終わったー!」俺は一人会社にもどり、喪服からスーツに着替えた。
ようやく解放されて、腕時計を見たときには20時45分を指していた。ヤバいよヤバいよ!
二海には遅れる旨は伝えたが、こんなに遅くなるとは思わなかった。ヤバい。急いで二海に電話を入れた。
「ごめん!!遅くなってしまった。今会社にかえってきた!
もう遅いし、また日を改めたほうがいいかな」
「部長、本当にお疲れさまです。私は大丈夫です。部長さえお疲れでなければ、ぜひお会いしたいです」
「遅くなっても大丈夫なのかな?」
「明日はお休みですので、朝まででも!ふふふ。」
なんだ!この天然ボケ!そしてなんだこのフラグ!
疲れはてた俺は乾いた笑いしか出てこなかったわけで。
「ははは(乾いた笑い) あ、朝までひっぱるわけにはいかないさ。じゃあ、駅前の金太郎像の前で」
「はい。お願いします!」




