5 関係者たち
後ろにかかった声に肩を震わせた。泉里は予想できていたのか、クスリと笑った。
泉里を抱きしめたまま、声の方へと向いた。
何故、彼が。
いや、この感じは。
「異変に気付いてた?」
「こんなときに覚醒したからね」
泉里はそっと腕から抜け出し、相模の方へ体を向けた。両手が支えを失って落ちる。
それを見ていた相模は、今まで見たことがない表情を浮かべた。ただの友人ではなく、親愛を込めたそれは。
「……火澄」
「そうだよ、鮮華。君のパートナー、火の司の長だ」
不敵に笑った相模こと火澄は指を鳴らした。
パチンと軽快な音と共に火澄の横に火が浮いた。
「なんで教えてくれなかったんだ」
「まだ覚醒していなかったからだよ。まあ、僕も泉里が来てから覚醒したんだけど」
火澄は火を消し、指を鳴らした手を前へ伸ばした。おいで、というように。待っていた、というように。
足を動かせずにいると、泉里が背中を押した。軽い力で、一歩が踏み出せた。
前世で初めて出逢ったパートナー。転生後に会うのは初めてになる。
運命のように、また彼だけを選ぶ。
「本当は何度も言いたかった。思い出してくれって。でも、泉里がいたから。だから、待っていたんだ」
「泉里が来る前から、俺たちは選んでいたんだな」
迷わずに火澄の手を取った。しっかりと、強く握った手は確かに火澄のものだった。姿形は違っていても、感覚が伝える。
魂が、片割れを求めている。
「抱きつけばいいのに」
「泉里の前で? それは嫌」
いーっと歯を見せて笑った火澄は楽しそうだった。
覚醒したから思い出す仲間意識。泉里と初めて会ったのは司の長になるときで、その儀式に彼はいた。それから転生する度に出会っていた。
泉里は司の長の中でも上位に位置し、神の指示で仲間を探すくらいの信頼がある。だから、泉里が『プログラム関係者』以外で一番辛い立場にいると思う。
「早くお前のパートナーが見つかると良いな」
「ありがと」
「そういえば、長が交代しているらしいね。案外、その中にいるのかも」
火澄は穏やかに泉里を見た。確かに、その可能性はある。
長の交代で、パートナーも交代する。先入観が無くなり、一から始める。その方が、見つけやすいかもしれない。
司の代替わり。それは突然で、きっかけなんてなかった。いきなり長としての役目を終え、新しく長が選ばれる。
新しい長は、そこから前世の記憶を持つ輪廻転生が始まる。『世界の関係者』としての運命が始まる。
「火澄の勘が当たっているといいな」
泉里の目が優しく細められた。
早く。早くパートナーを。見つけて出会って始めてほしい。運命の人に出会うための転生を。司の長の責務を分け合えるように。
前世でパートナーに出会った俺だから、出会った喜びは誰よりも強く覚えている。
「今回は珍しいケースがあって、一度心臓が止まった長がいるんだって。それから蘇生したんだけど、そのときに司の長に選ばれたんだって」
「それって」
「違う魂だってさ。道の司の長が言ってた」
道の司。人生を管理する者。生死を操ることはできないが、選択肢を増やしたり減らしたりしてくれる。一番良い方法を提示してくれる人だった。
その長が言ったのなら、正しいだろう。
「今世はそんな長もいるのか」
覚醒前に死ぬことは、『関係者』であることを否定する。『関係者』の寿命は決まっていて、それまでは死なないようになっている。どんな事故があろうと、『奇跡的』に助かるようになっている。
そんな中、蘇生して魂が違うなんて。そんな長の交代もあるのか。
「とにかく、全ては神が覚醒してからだよ。この世界の異変をどうするか。全部終わったら、残りの人生で彼を探すよ」
全部終わったら。神が覚醒したとき、何が起こるのかわからない。
ただ、いつもと違う変化が起こっていることだけがわかっていた。




