おまけ:同じ学校(火澄視点)
覚醒したら、『能力』を使うことができる。『能力』は、一般的に『超能力』と言われるものに似ているかな。
でも、万能ではない。『世界の関係者』でも、世界に対して都合良くできていなかった。
瞬間移動できるのは、プログラム関係者と鮮華だけ。今世で現れた『創造の司の長』もできるようなので、長では2人になるのか。
(火澄、今どこにいるんだ?)
突然、頭の中に響いた。鮮華の声だ。
『能力』の一つ、テレパシーは、『関係者』が使う連絡手段の一つで。携帯電話もあるけど、テレパシーが手っ取り早い。
(屋上。運動部の選別中だよ)
今度、部活紹介の特集を組むことになっている。一人三つの部活を担当することになっていて、どの部に取材するかは、早い者勝ちだ。決めたら、部室の掲示板に書くことになっている。
今、屋上から校庭を眺め、どの部を取材しようか迷っていたところだった。
(じゃあ、そこに行くから)
(うん、待ってる)
声は途切れた。鮮華の声に、笑みがこぼれた。周りに人がいないから、笑みを隠す必要はない。
輪廻転生して、違う人間として生まれ変わるから、声は毎回変わる。それでも『鮮華』の声は特別だった。存在が、特別だった。
早く来てくれないかな。期待で、階段と屋上を隔てるドアを見ていた。
「鮮華じゃなくてごめんね?」
控えめに開けられたドアから覗いた顔は。
「夜宵?」
隣のクラスの夜宵は、にっこり笑って頷いた。
お互い覚醒した今だからわかる。彼は僕たちと同じ『世界の関係者』で。その中で上位に位置する『プログラム関係者』で。
神の側近の『従者』だ。
隣のクラス、という壁は厚く、『プログラム事件』から一ヶ月経つけど話したことはなかった。
「久しぶり。今世でもカッコイイね」
「ありがとう。夜宵は相変わらず神のそっくりさんだね」
夜宵は、ふふっと笑った。
従者の容姿は、神と同じになる。従者はニ人いて、神と同じ容姿が必ず三人いるから、『自分と同じ顔の人が二人いる』という噂がある。
加えて、関係者は必ず美形に生まれる。夜宵は、今世では可愛い部類に入るかな。
「火澄は鮮華と待ち合わせ?」
「うん。もうすぐ来ると思うよ」
夜宵は、僕と鮮華がパートナーだということを知っているようだった。初めに「鮮華じゃなくてごめん」と言ってたし。
パートナー同士は、纏う空気が違う。恋人のような甘いものではなく、強い繋がりを感じる。見ている方が幸せを感じるような、綺麗な空気を纏っている。オーラが違う、という感じで。
夜宵は、僕と鮮華が一緒にいるところを見たことがあるわけだ。
「同じ学校の生徒になった縁で、良いこと教えてあげる」
突然、夜宵は学ランの首のホックを外した。
いきなり何を。何か言おうと思っても、言葉が見つからなかった。夜宵は第二ボタンまで外し、中のシャツのボタンも外した。
シャツの隙間から覗く肌には。
「これが従者の紋様なんだけどね。関係者が紋様に触れると、光るんだよ」
ほら、と夜宵はシャツを広げた。
鎖骨に浮かび上がった紋様は、緻密で精巧なデザインだった。さすが従者の紋様だ。
触れると光るということだから、触れということか。
紋様にそっと指を当てた。
「うわ……」
紋様は淡く光った。紋様自体は茶色で、光ると赤っぽく見える。
指先から伝わる体温が、一層神秘的に見せた。
「うーわーき?」
近くで聞こえた鮮華の声に、思わず手を引いた。
疚しいことはないのに。夜宵の恰好と僕が触れているのを見たら変に思うかな。
鮮華は瞬間移動で、僕の背後に立っていた。
「なんてな。何やってたんだ? 夜宵が素敵な恰好してるけど」
「内緒話かな」
夜宵は可愛らしく首を傾げた。
うん、嘘じゃない。嘘じゃないけど、誤解を招く簡潔すぎる答えだ。
夜宵は意地悪じゃないから、種明かしはすぐにしてくれた。
「紋様は、関係者が触ると光るんだよっていうルールをね。鮮華も触ってみる?」
夜宵の提案に、鮮華は頷いてすぐに触った。即行動は、鮮華らしい。
さっきと同じように、紋様が光った。
「見たことない色だ」
鮮華らしい感想だ。
さすが色の司の長。鮮華は、暫くその光を見ていた。僕には『見たことない色』というのはわからないけど、神秘的な光は特別だと思えた。
夜宵と視線を合わせて苦笑した。今日は肌寒い気温だから、夜宵は寒く感じるだろう。指をパチンと鳴らし、屋上の一部に狭い範囲の四角い結界を張って、その中の四隅に火を起こした。換気もできる、簡易暖房部屋というところだ。
夜宵は笑みを深めた。火を司っているんだから、これくらいはさせてもらわないと。迷惑かけているのはパートナーだし。
やっと鮮華は満足したのか、手を離してシャツのボタンを止めた。
「ありがと。でね、火澄。君の紋様はどこに出るのかな?」
「右の頬だよ」
紋様は普段見えなくなっている。自分の意志以外で表れるのは、覚醒の瞬間だけだ。頬にタトゥーなんて、変に目立つし。
右頬に手を当て、紋様を出した。
「へー知らなかった」
そういえば、鮮華には見せたことがなかった。そもそも、見せる必要がない。紋様を見せる必要がある状況っていうのが考え難い。鮮華の紋様も見たことがない。
夜宵には、長として神に挨拶に行ったときに見られたと思うけど。挨拶のときには、紋様を見せるのが礼儀になっている。
「なんか火、ってわかる紋様だな」
鮮華は興味津々といった感じで頬に左手を伸ばした。
触れられるのに抵抗はない。既に鮮華には何度も頬を触られたことがある。紋様が出た状態では初めてなだけで。
さっきと同じように、光るだけだと思っていた。
「青? それに温かい」
直接見えなかったけど、視界に入る光が青いことはわかった。触られた箇所が温かいのもわかる。
鮮華が紋様をなぞるのがくすぐったかった。
「パートナーが触れると、青く光るんだよ」
「青……世界の色か」
温かい色なら、暖色系を思い浮かべる。でも、光は青だった。
青は地球のイメージで、確かにパートナーとの関係を表すのに適当な色かもしれない。
鮮華の表情が柔らかいのが、嬉しかった。
「あ、そろそろ行かなきゃ。じゃあ、またね。隣のクラスに遊びに来てね。僕も行くから」
夜宵はパチンと指を鳴らし、結界を消した。人が作った結界を消すなんて、さすが従者。結界が消えて、肌に冷えた空気が触れた。
バイバイ、と手を振って、夜宵は屋上のドアを閉めた。
鮮華は頬から手を放し、右手で左手の甲を撫でた。紋様が浮かんだ。
「……こんなに近くにいたとはな」
パートナーだけじゃなく、従者が同じ学校にいた。『プログラム関係者』で神、使徒、賢者は全員同じ学校だということだし、やっぱり今世は異常だった。
それでも、世界が続いている。世界は滅ぶのを止めた。それなら、僕は、僕達は司の長として、『世界の関係者』として、世界を護ろう。
そっと鮮華の手を握った。
「いろんな長に出会おうね。今世は思いっきり楽しまないと」
鮮華の手が青く光っていた。




