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鎮痛計画 / プロジェクト・ペインキラー  作者: 雨時
エピローグ アフターテイスト / Aftertaste
43/43

終章 最後に書き残したこと

最終章です。ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。


この章は、著者から皆さんへの、少し長めのあとがきです。物語はすでに終わっています。これからは、その物語が生まれるまでの話をさせてください。


 一年と三か月。ここまで、ようやく辿り着きました。


 まず、ここまで読み続けてくださった読者の皆さんに、心からの感謝を。私の文章は、おそらく気軽に読めるものではなかったはずです。皆さん、本当にお疲れさまです。


 ずっと「いつか物語を書きたい」と言い続けてきた私が、ようやくその一つ目を語り終えました。ここからは、自分自身のために、いくつかのことを書き留めておこうと思います。たいした中身はありません。思いつくままに、どうぞお付き合いください。



 『鎮痛計画 / プロジェクト・ペインキラー』の出発点を振り返ると、実は二十年前にまで遡ります(笑)。あの頃私はまだ海外に出る前で、臺灣でのびのびと小学生時代を過ごしていました。皆さんにも、子どもの頃のこんな経験があるでしょう。眠る前にいくつかのキャラクターを頭の中で組み立てて、その子たちにいろんな物語を演じさせながら、いつしか眠りに落ちていく。あの感覚です。そう、本作の主人公、琪との出会いは、まさにそんな偶然から始まりました。


 いくつもの作品が私に影響を与えているはずですが、いちばんに思い浮かぶのは、やはり『のび太と鉄人兵団』でしょうか。


 それから長い年月をかけて、登場人物たちは少しずつ肉付けされ、物語の重要な節目がひとつずつ定まっていきました。あとは、それらを繋ぐだけになったのです。そうして昨年の五月、博士論文審査(PhD viva)を目前に、ちっとも準備をする気になれなかった私は、突然の思いつきで第一章を書き始めました。それが、いま皆さんが読んでいる『鎮痛計画 / プロジェクト・ペインキラー』の始まりです。


 当初は「KadoKado角角者」(臺灣・角川グループ運営の小説投稿サイト)で連載を始めたのですが、ちょうど公式の書評企画が行われている時期に当たり、何人かの先生方から好意的な評価と励ましをいただいたことで、書き続ける決心がつきました。その年の暮れには「Penana」(香港発の小説投稿サイト)というサイトへも少しずつ作品を移しながら、そこでもまた多くの親切な読者と、面白い議論に出会うことができました。この過程で、私の背中を押してくれたすべての人に感謝しています。



 いくつか、裏話を。


 瑾というキャラクターは、私の最初期の構想では実は日本刀を武器にしていました。御堂家もまた和風の貴族で、物語全体がより東洋的な趣の強い蒸気機関世界だったのです。この着想は、おおよそ十年前に放送された『甲鉄城のカバネリ』という作品の絵柄から受けた影響です。もしあのとき、あのバージョンを書き上げていたら、まったく違う物語になっていたでしょうね。


 それが一変したのは、二〇二五年のはじめ。余暇に『Expedition 33』というゲームをクリアし、その物語に深く心を打たれた私は、ヒロインのマエルに倣って、瑾の得物を刺剣レイピアに改めました。美しく、気品があって、これこそが瑾だと。余談ですが、このゲームは満点でお勧めします。私の胸の中では、本当に完璧な一作です。



 『鎮痛計画 / プロジェクト・ペインキラー』の三人の主人公には、それぞれ私自身の一部を宿しています。


 本業は科学に携わる研究者なのですが、その見た目の穏やかさの裏で、私は実は長年にわたって気分障害(中等度から重度の不安症・うつ状態)に悩まされてきました。精神科の薬とは、あまり気持ちの良い付き合い方をしてこなかった記憶があります。あの小さな錠剤を飲み込んでから効き始めるまでの、身体と心のゆるやかな変化。不安発作に襲われるたび、自分の意思では止められず、一粒、また一粒と飲み続けて、ついには過剰摂取に至ったこと。意識の混濁の中で自分を傷つけてしまい、手を強く握るたびに血がこぼれ落ちて、木の床に滴る音と、あの甘く錆びた匂いを覚えています。そして、後から病院の救急外来で自分自身を嫌悪したことも、いまも昨日のことのように覚えています。


 それと、普段の生活では、私はコーヒーを勧められない体質でもあります。


 つまり、こういうことです。私が持っていたものと、持っていなかったもの。経験したことと、憧れ続けたこと。人に見せられる部分と、見せられない部分。そのすべてを、私は登場人物たちへ惜しみなく分け与えました。


 瑾には、痛みと薬を。琪には、真実への問いと迷いを。そして亮には、きっとあの眼鏡と、いつも不安でいっぱいの頭と、どうしても直らないあのコーヒー店を。


 彼らの中には私の欠片があります。でも彼らは私ではありません。彼らの方が、私よりずっと勇敢だからです。



 結末について、ある友人と話をしたことがあります。彼女は読み終えたあと、ほのかな哀しみが残ると言っていました。少し、切ないね、と。


 結局、あの結末はなんだったのでしょう。死んだはずの琪が、予想もしなかった形で生き延びて、左右で色の違う瞳で、この世界を見続けることになった。一方の瑾は、最後に赦しを選んだのか、それとも和解を選んだのか。


 彼女は結局、火の海へ落ちていくという方法で、「プロジェクト・ペインキラー」の最後の一人を自らの意思で処分し、その上で、終わりのない肉体の苦痛を仇敵へと引き渡した。そう読む人もいるかもしれません。


 いいえ、彼女はそうではない。あの壊れた身体こそが、あの時点で彼女に残されたすべてで、琪が生き延びるための唯一の手段だった。彼女が贈ったのは希望であり、琪がずっと追い求めてきた「本当のもの」そのものだった。そう読む人もいるはずです。


 ここまで読んでくださったあなたは、どう思いますか。


 どちらの答えだとしても、瑾はきっと気にしないと思います。彼女は、誰かに結論を決められるのが、昔から大嫌いでしたから。



 ここから先の予定についてお話します。


 『鎮痛計画 / プロジェクト・ペインキラー』は、本文全体をもう一、二度ほど推敲し、これから出会う新しい読者の皆さんに、より良い形で届けられるようにしたいと思っています。また、登場人物のデザインを描いてくださるイラストレーターさんを探しています。もしご自身が絵師の方でしたら、あるいは絵師さんをご存じでしたら、ぜひお声がけください。


 そして今、その物語は日本語となり、ここ日本の「小説家になろう」と「カクヨム」で、こうして皆さんに読んでいただいています。


 さらに、『鎮痛計画 / プロジェクト・ペインキラー』の番外編と続編を、二つほど構想しています。ひとつは本編のある重要な脇役の視点から、この物語のもう一つの側面を補完する予定です。もうひとつは、この世界のその後を、皆さんに少しだけお見せするものになるでしょう。今のところはまだごく初期の構想で、形になるまでには時間がかかりますが、どうぞ気長にお待ちください。


 それから、この物語の登場人物たちには、作者としてかなりの力を注ぎました。もし読者の皆さんの中に、二次創作や同人の着想が生まれたとしたら、とても嬉しく思います。本文では光の当たらなかった場所で、彼らにさらに血の通った命と絆を吹き込んでいただければ、これ以上の喜びはありません。



 さて、ここで日本語版について、少しだけ訳者としての話をさせてください。


 私は日本語の母語話者ではありません。その過程でいちばん頭を悩ませたのは、登場人物たちの自称や敬語といった日本語独特の距離感の表現でした。


 この主人公二人の顔が同じであるという物語の核を支えるためには、同じ見た目の二人が、言葉を発した瞬間にまるで別人だと感じられること。これはもう、翻訳の出来不出来を決める最初と最後の問題でした。


 そして日本語には、中国語や英語にはない敬語の体系があります。感謝の言葉、謝罪の言葉を、どの高さまで崩すのか。それだけで人物の品格も、二人の距離感も、物語の空気も変わってしまいます。訳語を選ぶたびに、その場面の温度を壊していないかを、何度も何度も確かめました。


 それでも、不自然な表現や、より良い言い回しがきっと残っているはずです。お気づきの点があれば、どうぞ遠慮なく指摘してください。



 最後に、執筆の過程で私を支えてくれたすべての人に。名前はここに書きませんが、あなた方は、私が誰について書いているのかを知っています。


 そして、皆さん、私の愛する読者へ。


 この本を最後まで読んでくれて、ありがとう。歯車と蒸気に満ちたこの世界へ足を踏み入れ、あの少し古びたコーヒー店に腰を下ろして、不完全な三人の物語を聞き届けてくれた時間に、改めて感謝を。


 物語は終わりました。店は、まだ開いています。


 次にあなたがコーヒーを飲むとき、それが苦くても、甘くても、角砂糖を入れても、何も入れなくても、どうか思い出してください。それが、生きているという味なのだと。


 星野亮は、機械と人間がうまくやっていくための方法を、まだ研究しているそうです。もし彼が成功したら、いつか皆さんにお伝えします。


 それまでのあいだ、どうか、自分自身を大切に。


 雨時


 西暦二〇二六年夏、琥珀時光にて



 P.S. この物語を書き終えたあと、ある一曲の歌に出会いました。偶然なのですが、まるで彼らの物語を歌っているかのようでした。ここには書きませんが、もしどこかで、数字が一から十まで、逆に数えられていく歌に心当たりがあれば、それを彼らに重ねて聴いてみてください。


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