バイト初日!
「全員揃ったな!」
アルバイト初日に俺はダンジョンコアのある部屋を見渡した。
「へい! 本日からよろしくお願いしまっせ!」
「ぁ……よろ……ス」
「おう! 今日から実績作りまくるぜ!」
「よ、よろしくお願いしますなんだよ!」
そして・・・
「私達もいますよ!」
「今日は私もお手伝いしますわ」
ぷる!
今日から本格的に人手が増える。
「それじゃあ」
俺は手を叩いた。
「まずは新人研修から始めよう」
「シンジンケンシュウ?」
クロエルが首を傾げる。
「初めてダンジョンで働くやつもいるからな!今日は基本的な仕事の流れを教えるぞ!もちろんわからないことがあったら質問してくれてもいいし、今日で全てをできるようになる必要もないからな!」
いきなり仕事を任せてもいいが、最低限このダンジョンがどう動いているのかくらいは知ってもらわないと困る。
「まず一番大事なことだ」
俺は四人を見る。
「勝手に戦うことは禁止な!」
「な、なんでだ?ダンジョンは人間を倒す場所じゃないのか?」
即座にクロエルが戸惑いの声を上げる。
「もちろん、必要なら倒すぞ」
「じゃあ、なんで勝手に戦っちゃ駄目なんだ?」
「まず大きな理由は罠や他の仲間との連携を用いて戦った方がいいからだ」
ダンジョンは一対一で戦う紳士の決闘場ではない。
「一人で倒せる相手でも、罠を使って弱らせてから狩る。」
「なるほど!」
深く考えていないだけかもしれないが理解が早い。
「まず一階層から見ていくぞ」
俺達は転移陣を使った。
◇
一階層。
そこでは今日も人間達が魔結晶を掘っていた。
カン
カン
カン
壁際では冒険者が楽しそうに採掘を続けておりその近くをスライム達がぷるぷると移動していた。
「……」
クロエルが冒険者達を見る。
「なあ」
「なんだ?」
「なんで人間がダンジョンを我が物顔で歩いているんだ?」
やっぱり気になったか。
「普通、ああいうのって殺すんじゃないのか?」
「クロエルさん!」
エリシアが慌てる。
「指差しちゃ駄目ですよ!」
まあクロエルの疑問自体は正しい。”ダンジョンにとって人間が中にいるメリット”はほとんどない。
よく”冒険者が魔法を使うことで、ダンジョンへ魔素が還元される”なんて話もある・・・それ自体は間違っていないのだが得られる魔素は本当に微々たるものだ。
「そうなのか?」
俺は採掘している冒険者を見る。
「まともにダンジョンを運営できるほど魔素を稼ごうと思ったら……数百万人単位の人間を毎日集めて、大魔法でも撃たせ続けないと話にならない」
少人数の冒険者が火球を一発、治癒魔法を一回とそんな程度ではほとんど誤差に等しい。
「じゃあ、どうして追い出さないんだよ?」
「あの魔結晶を見てくれ」
俺はこの一階層へ人間達が殺到している最大の理由である高純度の魔結晶を指差した。
「こいつを掘れるって噂が広がれば」
人が来る。さらにそれを見た商人が来てつられて冒険者が増える。
ー噂が広がるー
「つまり今すぐ排除するより、人を集める餌として利用した方が都合がいいということなんだよ!」
「そういうことだ」
別に・・・歓迎しているわけではない。むしろ俺のダンジョンの壁を勝手に掘って魔結晶を持ち帰っていると言う事実は個人的に面白くはない。
ただ今は人を集める方が重要だ。
「今はその方が都合がいいからな……まあ安心してくれ、クロエル」
「おう?」
「もしあいつらの必要がなくなったら」
クロエルの肩へ手を置く。
「君に殲滅を頼むことにするよ。騎士団へのいい手土産になるだろう?」
「本当か!?」
クロエルの顔が輝いた。
「任せろ!一人残らずぶっ飛ばしてやるぜ!」
「ただし今は駄目だぞ」
「分かってる!」
そう言うとクロエルは素直に拳を下ろした。
「一階層での基本方針は放置だ」
俺は説明を続ける。
「向こうから重要設備やスライム達へ多大な危害を加えない限り、こちらから積極的に手を出す必要はない」
一階層は今のところ集客装置だ。だが・・・
「二階層から先は別だ。そこから先へ来る奴は・・・お前達のお仕事さ!」
◇
階段を下りた瞬間に雰囲気が変わる。
一階層と違い壁には複数の魔方陣が並び、床には罠が張られ、通路の各所に監視用のスライムが配置されている。
「ここからが本格的な防衛区画ですわ!みなさんにはビシバシ働いて貰いますわ!」
「おお!」
ヴェルグが壁を見る。
「こいつぁ細けえ仕事してやすな!」
「分かりますの!?」
「へい!」
ヴェルグが壁際の機構を覗き込む。
「この歯車で床板を戻してるんでっせ?」
「その通りですわ!」
早速ミレイアと話が合っている。
「ヴェルグは基本的にミレイアの補助だ。こういった罠の点検とその報告を頼む。もしできるなら修理まで頼みたいな!」
「任せてくだせえ!」
罠や設備の壊れた部分の修理などこの辺りを頼むことになる。
「ミルザ」
「っ!」
呼んだだけで肩が跳ねた。
「お前も最初はミレイアと一緒に設備点検」
「ぁ……ス」
こくこく
「資格いっぱい持ってるんだろ?」
こく
「使えるものがあるか、実際に見ながら探そう」
「……!」
ミルザが少しだけ顔を上げた。
「セヴェル」
「はいなんだよ!」
「セヴェルは住み込みで基本的にフルタイム希望とのことだったな...巡回と警戒・・・あと掃除」
「ボクが?」
「鼻が利くんだろ?」
ダンジョンでは匂いで気付ける異常も多い。
「何かに気付いたらすぐ報告してくれ」
「分かったんだよ!」
「そしてクロエル!戦闘員!」
「よっしゃあ!」
やっぱり一番嬉しそうだ。
「ただし、さっきも言ったけど勝手に突っ込むなよ。そして待機中は罠の位置を覚えたり、自動人形との連携訓練を行って貰うからな!」
「分かってるって!」
……本当か?
少し不安だが・・・
「そして」
俺が壁際を見るとぷる吉が小さな帳簿を確認していた。
「ぷる吉は今まで通り彼らの勤務管理と連絡をよろしくな!」
ぷる!
「人事部長なんだから当然でっせ!」
やる気満々のプル吉を見てヴェルグが笑う。
そんな説明をしながら俺達は二階層を歩いていたその時だった。
――カァン!
壁に設置されていた魔石が赤く光った。
「ん?」
クロエルが振り返る。
続いてダンジョン全体へ低い警告音が響いた。
《第二階層への侵入を確認》
「……」
新人四人が一斉に立ち止まった。
《侵入者数――四》
「来ましたわ」
ミレイアの表情が変わる。
さっきまでのおっとりとした顔ではなく階層管理者の顔だ。
「侵入者ですわ」
「おお!」
クロエルが拳を鳴らした。
「早速オレの出番だな!」
「待て・・・いや、研修にはちょうどいいな」
そのまま近くの管理室へ入った。
◇
壁には二階層の簡単な見取り図と複数の魔石が置かれている。そこには監視用のスライムからリアルタイムで侵入者の情報が届いていた。
「まず人数は四人。そして次に侵入場所は北側階段だ。中央通路から真っ直ぐ北側に向かっている。装備から推察するに前衛二名、後衛二名だな」
・・・よくある構成だ。
「じゃあ問題。次に何をすると思う?」
「……見る?」
ミルザが小さく言った。
「正解」
ミルザが目を丸くする。
「まず見る」
相手が何をするか、どこへ行くか、罠に気付いているか。
「全部の罠を一気に使う必要はない」
罠を使えば壊れるし消耗する。そうなると修理が必要になり出費が増える。
「罠一個で倒せるならそれが一番なんだ」
「なるほどでっせ」
ヴェルグが頷く。
「戦いにも経費が掛かるんですな!」
「その通り!だからできるだけ安い罠で戦果を狙うのが基本なんだ!」
さすが転職しまくっているだけあってこういう話は早い。
「ミレイア!第一防衛区画に入った!」
「了解しましたわ」
ミレイアが魔方陣へ手を置く。
「起動」
床の一部が淡く青く光った。
◇
侵入者達が慎重に床を確認しながら進んでいる。
「罠を警戒してるな」
「冒険者ですもの」
ミレイアが答える。
だが数歩進んだ瞬間。
床から魔力水が吹き出し瞬時に水が凍る。
ガキィン!
先頭二人の足が床へ固定された。
「なんだ!?」
映像の中で冒険者が叫ぶ。そして後衛が魔法を使おうとする次の瞬間。
「第二陣!」
ミレイアが操作すると狭い通路の奥から熱風が噴き出した。
ゴオオオオッ!
「うわああああ!」
足下が凍結して動けない前衛へ高圧の熱風がまともに直撃する。
「おお!すげえ!」
「元は人間の生活魔法ですわ!」
目を輝かせるクロエルにミレイアが誇らしげに言う。
熱風が止まり氷も魔力水へ戻っていく。
「おお!再利用できるのか!」
「はいですわ!従来では考えられない魔力効率のおかげで3連続で使用しても故障いたしませんわ!」
「オレいらなくないか?」
クロエルが俺を見て呟く。
「戦わなくて済むなら、それが一番いいだろ?」
俺は画面を見る。
四人のうち二人が倒れていてさらに一人は動けない。だが最後の一人が今来た道を走り出した。
「逃げますわ!」
階段へ全力で戻ろうとしている。
「ライムさん!もう一人いるんだよ!」
セヴェルが突然声を上げた。
「何?」
俺達が振り向くとセヴェルは鼻をひくひく動かしている。
「人間の匂いがする!」
「四人だろ?」
「違うんだよ!」
セヴェルは首を振る。俺が監視映像を見ると確かに映っているのは四人だがセヴェルは通路の端を指差した。
「そこ!」
ミレイアが別の監視スライムへ切り替える。すると壁際のほんのわずかな景色が揺れた。
「隠密魔法ですわ!」
姿を消した五人目の斥候役はどうやら四人を先に行かせて後ろから罠を確認していたらしい。
「すごいですよ、セヴェルさん!見えなかったのに!てか、映像からも匂いが分かるんですか?」
セヴェル自身が一番驚いている。
「だから言っただろ」
俺はセヴェルの頭を軽く撫でる。
「鼻が利くのは仕事になるって」
「……はいなんだよ!」
撫でるのに合わせて尻尾がものすごい勢いで動き始めた。
さて問題は逃げる二人だ。一人は普通に走って逃走しており、もう一人は隠れている。
「みんな!研修の仕上げだ!」
クロエルの顔が輝く。
「二階層へ踏み込んだ時点でこいつらは侵入者だ」
「つまり?」
「逃がす必要はない!」
「よっしゃあ!」
クロエルが飛び出した。
「待ってましたぁ!」
◇
逃げる冒険者が階段へ向かう。
だがその前に
ドンッ!
天井近くからクロエルが降ってきた。
「なっ!?」
「おらあっ!」
ゴッ!
冒険者の身体が壁へ叩きつけられてそのまま動かなくなる。
そして
「もう一人!」
クロエルが周囲を見る。
「見えないぞ!」
「すぐ右なんだよ!」
後ろからセヴェルの声が響く。それに答えるよりも早くクロエルが右へ拳を振る。
ブンッ!
「ぐあっ!?」
何もない場所から人間が現われ吹き飛び隠密魔法の効果が消える。
「いた!」
「もう一発!」
ドゴンッ!
「……」
ヴェルグがクロエルを見る。
「強いでんなぁ」
「ですわね……これは、本当に逸材ですわ・・・」
ミレイアも頷く。
「よっしゃあ!」
クロエルは拳を高く上げた。
「実績一個目だぜ!」
◇
戦闘終了後に俺達は罠を確認しているとヴェルグが床へしゃがみ込む。
「熱風を出したせいで、この留め具が少し歪んでやすぜ」
「まあ!本当ですわ!」
「これぐらいなら五分で直せまっせ」
その横ではミルザが魔方陣を見ていた。
「どうした?」
「……ここ」
指差す。
「あっ……規格……古い……ス」
「規格?」
ミレイアが確認して目を丸くした。
「本当ですわ!」
昔の規格を使っていた部分らしい。動作に問題はないが今の規格へ変更すれば魔力消費を少し抑えられる。
「なんで分かった?」
「……魔導設備……三級……」
ミルザが。
小さな資格証を出した。
また資格か・・・でも
「使えるじゃないか!この資格!」
「……!」
ミルザの顔が少し赤くなった。
こうして初日の研修は思った以上に順調に進んだ。
「やっぱり雇って正解だったな!四人とも!」
「……」
エリシアが恨めしそうな顔で俺を見る。
「なんだ?」
「いえ・・・」
そう言いながら少し悔しそうに頬を膨らませる。
「面接で全員採用した時は、絶対適当だと思っていました」
「失礼だな」
「今も半分くらいは思っていますけどね!」
その時。
――カァン!
また警告音が響いた。
《第二階層への侵入を確認》
「……」
全員が壁を見る。
《侵入者数――六》
クロエルが嬉しそうに笑った。
「また来たぞ!」
ヴェルグは工具を持ち上げる。
「修理したばっかなんですがねぇ!」
ミレイアは新しい監視映像を開き、セヴェルは鼻を動かす。
ミルザも魔方陣の前へ座った。
……なるほど。
人手を増やして本当に正解だったらしい。新人アルバイト達の初日はまだ半分も終わっていないが、それでも期待ができる成果が確かにあった。
もし少しでも
「続きが気になる!」
「面白かった!」
と思っていただけたら、
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それではまた次回!




