スライム飼育係のライム
三十あるS級ダンジョンの一つ
厄災の洞穴
その名を聞けば泣く子も黙る。数多の冒険者を呑み込み数多の国家を震え上がらせてきた魔神連邦が誇る超大型ダンジョンだった。
その最下層から少し離れた場所・・・そこにあるのは巨大な牧場だった。
無数のスライムがぷるぷると跳ね回っている。
「よしよし。今日は元気そうだな」
厄災の洞穴〈餌やり担当〉ライムは笑いながらスライム達を見回した。
するとぷにっと足元に何かがぶつかる。
視線を落とすと小さな青色のスライムがはねている。
ぷる吉だった。
「おう、ぷる吉」
ぷるっ!
ぷる吉は嬉しそうに跳ねた。
「どうした?ああ…飯か?」
ぷるるっ!
「さっき食っただろ」
ぷるぅ……
しょんぼりとする姿にライムは苦笑する。
「まったく・・・仕方がないなぁ。ー魔力水精製ー」
そう言いながら手元から魔力水を精製するとぷる吉は大喜びで飛びついてくる。
ばくっ。
そして一瞬で魔力水を呑み込んだ。
「お前、本当に食い意地だけは凄いな」
ぷるっ!
ぷる吉は褒められたと思ったのか誇らしげに身体を揺らした。
そんな時だった。
ドゴォォォン!!
遠くから轟音が響きライムの顔から笑みが消えた。
「またか…」
同時に慌てた様子のスケルトンが走ってくる。
「ライムさぁぁん!!」
「今度は何だ?」
「ミノタウロス隊と岩石ゴーレム隊が喧嘩を始めました!」
「はぁ……」
ライムは額を押さえ
「今月だけで三回目だぞ?」
と呟く。
原因は簡単ー餌だー
ミノタウロス達は
「最近餌が少ない!」
と怒りを表し、ゴーレム達も
「オレタチへのハイキュウがすくないゾ!」
と怒る。
結果起こるのは大乱闘。
厄災の洞穴ではもはや日常茶飯事だった。
「行くぞ、ぷる吉」
ぷるっ!
ライムは急いで現場へ向かうとそこでは巨大なミノタウロスと岩石ゴーレムが本気で殴り合っていた。周囲の魔物達も大騒ぎがおこっており、このままでは被害が広がることは一目瞭然だった。
だがライムは慌てなかった。
「おい!」
その一言でミノタウロス達とゴーレム達が振り向く。
「ライム殿……」
「ライムサン……」
全員が動きを止めた。その中心に立ったライムは呆れたように言う。
「餌が足りないなら喧嘩する前に俺に言えっていってるだろう?」
「いや…最近やたらお腹が減ってな…」
「オレタチもゼンゼンタリないぞ!」
ミノタウロスやゴーレムたちが口々に言うとライムは頷いた。
「わかった、わかった。ちょっと待ってろ。」
そしてスライム牧場へ向かって手を振ると、次の瞬間大量のスライム達が現れる。
ぷるぷる。食べて―。ぷるぷる。
ぷるぷる。おいしいよー。ぷるぷる。
数百匹。
数千匹。
厄災の洞穴を支える食料達だった。
「今月分だ。まだまだ増やせるから足りなくなったらすぐに教えてくれ。」
ミノタウロス達の目が輝きゴーレム達も安堵する。
「流石ライムさん!」
「タスカッタ!”スライムマスター”サマサマだな!」
歓声が上がる。
ライムは頭を掻いた。
「おれはただのスライム飼育員だよ」
その時、後方から低く重い声が響く。
「フフ…」
全員が跪くとそこにいたのは厄災の洞穴の主であるS級ダンジョンマスター”ファンリル”その人だった。
「ライム」
「なんです?」
「やはりお前がおらねばこのダンジョンは回らんな」
ライムは苦笑した。
「そんなことないですよ。スライムに水と魔力をあげるなんて誰にでもできますよ。」
「そんなことはない…お前はこのダンジョンを立派に支えてくれている。」
ファンリルは即答した。
「お前は自分の価値を知らん。…私の命はもう長くはない。このダンジョンの行く末を私は見れないのだ。しかし…ライム、お前がいれば私はこのダンジョンを残して安心して逝けるよ。」
そう言ってどこか寂しそうに笑った。
ライムは首を傾げる。
意味が分からなかった。
だがその言葉が二人の最後の会話になることをこの時のライムはまだ知らなかった。
翌月
厄災の洞穴を揺るがす知らせが届く。
S級ダンジョンマスターファンリル逝去
享年三百八十七歳。
その知らせは厄災の洞穴の運命を大きく変えることになる――。
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