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リオンとルシアが戻ってきた!3

俺はじっとしていられなかった。


「……レイルたちがここに来るまでに、俺たちにやれることはないのか?」


気づけば立ち上がって、部屋の中をぐるりと歩き回っていた。


心臓がざわざわする。落ち着かない。きっと――いや、間違いなく、みんな同じだ。


そんな沈黙の中、ふと思い出したことが口をついて出た。


「そういえば……ルカの動きは?」


その名前を出した瞬間、部屋の空気が微かに張り詰めた。


「え?今なんて……?」


ルシアが、ピクリと肩を震わせた。


驚きと、どこか怯えるような声色。俺はルシアを見つめながら、もう一度ゆっくりと口を開く。


「この城にいるルカだ。知ってるのか?」


「……うん。ルカさま、知ってる」


ルシアの声は、微かに震えていた。あの落ち着いた声が、まるで別人みたいに小さく、頼りない。


リオンがその様子に気づいたのか、そっとルシアの手を取った。


「……ルシア、何かあったの?」


その問いかけは、優しかった。けど、それ以上に真剣だった。


ルシアは少し俯きながら、リオンの手を見つめるようにして呟いた。


「……私、聞いたの……」


「聞いた?何を?」


「お城に来た日……人混みに流されて、他の人たちとはぐれちゃって……迷ってるうちに、ルカさまの部屋に入り込んじゃったの」


その瞬間、サクラも小さく息をのんだ。


「ルカの部屋に……?」


ルシアは小さく頷くと、言葉を選ぶように、ゆっくりと思い出すように語りはじめた。


「その時、部屋には誰もいなくて……すぐに出ようとしたんだけど、ちょうどドアの外から誰かが入ってきたの。慌てて隠れる場所を探して、奥のテーブルの下に……」


ルシアの指先が小さく震えていたけど、手を握るリオンは、何も言わずただ黙って耳を傾けている。


「ルカさまと、もうひとり……この街のお医者さんだと思う。名前はわからない。でも……その人、黒い長髪で、髪を後ろで結んでて……」


「……黒いの長髪の男?」


リオンがかすれた声で聞いた。ルシアはハッとしたように顔を上げ、息をのむ。


「う、うん……たぶん、そう……」


「その人、僕も見たことある。前に診療所で……ちょっと独特の雰囲気だよね」


リオンの言葉に、ミリが静かに頷いた。


「その医者……ノワールという名の男かもしれない。記録には曖昧な情報しかないけど、ギルドの過去報告には複数回名前が出てきている。研究者としてではなく、交渉不能の観察対象として」


「……観察対象?」


「つまり、監視下にある危険人物」


ミリの淡々とした口調が、かえって重くのしかかる。


「それで、ルカとノワールは……何を話してたんだ?」


俺が尋ねると、ルシアは目を伏せ、そしてぽつりと答えた。


「“もうすぐ手に入る”とか……“我々のものになる”って。あまり意味はわからなかったけど……それだけじゃないの」


「まだあるのか?」


ルシアは、ぎゅっとワンピースの裾を握りしめた。


「ふたりとも……“予言書にも、ほら、ちゃんと書いてある”って。まるでその通りに事を進めてるみたいだった……」


「……予言書を使って動いてる……」


サクラが、小さく呟いた。


「ルカは……やっぱり、予言に従って動いてるだけなんだな」


俺は、既に知っていた事実をあらためて思い返しながら口にした。


「でも、それなら……誰かがルカを、予言の通りに動かすよう仕向けてるってことだ」


「……操られてる?」


リオンが険しい表情を浮かべる。


「ああ。ルカは、自分の意思で動いてるように見えて……本当は、もっと上にいる何者かの鍵として使われてる気がする」


「サクラ、最近ルカと話してるか?」


俺がそう聞くと、サクラは少しの間だけ黙って、ぽつりと答えた。


「アルトが来てから……全く。前は時々話すこともあったのに……なんか、全部を知ってるみたいな顔をして、私を避けるようになったの」


「まさか……俺とサクラのことも、予言書に……?」


俺の胸がざわつく。


「はじめから、ルカは想定内で動いてるってことか?」


リオンが唇を噛みながら言った。


「とりあえず、ノワールは黒っぽいな」


「ライトが来たら聞いてみるといい。ノワールのことは彼の方が詳しい」


ミリが静かに告げる。


その言葉に、俺たちはわずかに息をのんだ。


「あの……突然、話を変えちゃってごめん」


突然、ルシアが口を開いた。


「お城でみんなが着てるこの制服って、なんなの? 私もここに来たとき支給されたけど……」


ルシアは自分の服の裾をつまむ。ベージュの落ち着いたワンピースが、彼女の柔らかな雰囲気によく似合っていた。


「あ!それ、僕も気になってたんだよね!ミリに聞こうと思って、ずっと忘れてた」


リオンが元気よく声をあげる。


「おそらく、それはルカたちが作らせたものだろうな。もしくは……」


ミリが少し首をかしげながら、淡々と答える。


「もしくは?」


俺が口を挟むと、ミリは真っ直ぐこちらを見据えて静かに言った。


「ルカが所属しているであろう世界の衣装……。この制服を着ているのは、この城の中で任務や暮らしをする者だけ」


「……そっか。じゃあ、私もこれからここに住む以上、この制服を着た方がいいのかな……?」


ルシアがふと呟いた。


「そうだね。その方が目立たないし、周りからも自然に見られるはず。ルシアの部屋と新しい制服、私の方で用意しておくね」


サクラが優しく微笑んで言うと、ルシアは小さく頷いた。


「え?ルシアは僕と同じ部屋でいいよね!?」


唐突にリオンが身を乗り出す。目をキラキラと輝かせながら、まるで当然といった様子で続けた。


「アルトくんとサクラちゃんが同じ部屋なら、僕たちもそうあるべきだよね? いや、そうでなくちゃ! これはもう世界の調和のためでもあるし――」


「ちょ……ちょっと、リオン、それはさすがにまだ早いんじゃない?」


ルシアが顔を赤らめながら言うと、リオンはその場でガーンと肩を落とした。


「えぇぇぇぇ!? ルシアまでそんなこと言うのぉぉぉ!? 僕、今日は立ち直れないかも……」


「とりあえず落ち着いて。部屋は別でも、お互いに行き来はできるし、希望すれば部屋を大きくもできるよ」


サクラが苦笑しながらフォローする。


「……うぅ、優しさが余計に心にしみる……。でもまあ、君たちの幸せのためなら、僕は一歩引こう。美学として」


胸に手を当ててキメ顔を作るリオンに、思わずみんながくすくすと笑った。


そんな風に、部屋の空気が少しだけ軽くなっていくのを、俺は静かに感じていた。

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