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リオンとルシアが戻ってきた!2

俺たちはソファに腰を下ろしたものの、部屋の空気はどこか落ち着かず、各自がそれぞれの思いに沈んでいた。


「……今回の異変って、予言書と関係してたりするんかな」


俺がそう呟くと、ミリがすぐに応じた。


「可能性は高い。“女王の心が動いた時、森の奥で眠る闇の支配者の鼓動が動き出す”……まさに今の状況と一致する」


「黒い裂け目も、鼓動の一端かもしれないよね……」


サクラがそっと呟く。


その目には、どこか怯えが宿っていた。


「それと、もう一つ」


ミリが手元の端末をなぞりながら、静かに読み上げる。


「“その者、女王の痛みに呼応して目覚める。深き森の奥、眠りの檻の中。名を忘れられし影の王”」


「影の……王?……怖い響きだね」


ルシアが不安そうに口にした。


「それ、どういうこと?」


リオンが顔をしかめるようにして聞く。


「“鼓動”と“目覚め”、それに“痛み”、全部が繋がってるようで、今のところは断片的だ。でも、サクラの感情が動いたことで、何かが呼び覚まされ始めてる可能性はある」


「それって、サクラちゃんの心の変化が原因ってこと……?」


ルシアがサクラを見た。


サクラは俯き、膝の上で手をぎゅっと握っていた。


「……心が動くのは、悪いことじゃないはずなのにね……」


サクラの声が、かすかに震えていた。


「誰かを想ったり、誰かと繋がったりすることで世界が壊れるなんて、おかしいよ……」


「それでも、もし影の王ってのが目覚めようとしてるんなら、放っておけねぇ!」


俺は拳を強く握りしめた。


「名を忘れられた存在ってのも、何か嫌な引っかかりがある……記録にも記憶にも残ってない存在が動き出すなんて……」


「え、ちょっと待って、話がすごくシリアスになってるけど……そういえばレイルとユウラは?」


リオンが突然きょろきょろと辺りを見渡した。


「さっきから姿が見えないけど……まさか、また僕だけ置いてけぼりだったりする?」


「えっと……あいつらは今、先にタルに行ってる。ギルドの刻印を済ませるために」


俺が答えると、リオンは「ああー!やっぱり僕だけ置いてかれてるじゃーん!」と頭を抱えて悶絶した。


「……まぁ、これには色々あって……」


言いかけて、俺は慌てて口を閉じた。


……しまった。ケンカの話、まだこのふたりには伝わってない。


「色々って?」


リオンが不思議そうに首をかしげる。


「……え?いや、ほら。ユウラがちょっと迷ってた時期があって、それでタイミングがズレたんだよ。あはは……」


「でもさ……刻印って、ふたりの強い意志が必要なんでしょ?」


ルシアがぽつりと呟いた。


「お互いをちゃんと想ってないと、上手くできないのに……それでも、刻印しに行ったってことは……ふたりとも、想いが通じ合ったってことだよね」


その言葉に、サクラもそっと目を細めて頷いた。


「うん。想いって……不安にもなるけど、同時に誰かの支えにもなるから」


俺は、サクラのその横顔を一瞬だけ見つめた。


サクラの表情は静かで、でもどこか決意が滲んでいた。


「……予言書の痛みっていうのもさ、単純に悪いこととは限らないのかもしれない」


「え?」


ルシアが不思議そうにこちらを見る。


「痛みを知ったからこそ誰かを想えるようになるし、弱さを知ったからこそ強くなれる……俺は、そう信じたいんだよ」


サクラが、そっと俺の手を取った。


そのぬくもりが、今の俺にとっての答えのような気がした。


――でも、影の王が目覚めかけているなら。


それは俺たちの時間が、静かに終わりへと進んでいることの裏返しかもしれない。


「だからこそ……早くふたりとも戻ってきてくれよ」


俺は、心の中でそう呟いた。


あれからしばらく――

レイルたちの帰りを、俺たちはじっと部屋の中で待っていた。


空気の歪みのこと、黒い裂け目のこと、そして予言の意味。どれも答えが出ないまま、時間だけがゆっくりと過ぎていく。


そのときだった。


「……!」


ポケットの中で、通信端末が震えた。


「……レイルからだ!」


俺はすぐに手を伸ばし、画面をタップして通話をつなぐ。


――通信、接続中――


「……レイル?無事に刻印は済んだか?」


画面の向こうから、少し息を整えたようなレイルの声が返ってきた。


『ああ、それは問題ない。けど……今から、ライトとユウラと一緒に城に向かう』


「えっ……ライトが?それって……どういう……?」


思わず声が裏返った。あの人が自ら出てくるなんて想定外すぎる。


『この状況じゃ、リオンたちをここに連れてくるのは厳しい。けどライトが同行してくれる。姿を変えて城に潜入できるらしい』


「……すげぇな、あの人……。でも、巻き込んで悪いな……」


そう口にしながらも、俺の胸には別の思いが募る。あの人が動くってことは、それだけ事態が切迫してるってことだ。


『言っても聞かないタイプだ。俺たちも覚悟を決めた』


その一言に、覚悟と責任がにじんでるのがわかる。


『裂け目も広がってる。早めに刻印を済ませないと、明日の集会に支障が出る』


「了解。リオンもルアも、今ここにいる。説明しておくよ」


俺は短く頷いた。レイルの言葉の重みが、そのまま空気を引き締める。


『助かる。よろしく頼む』


「……気をつけろよ。無事に戻ってこい」


ほんの一瞬、返事の前に静寂があった。


『ああ。じゃあな』


通信が切れた。


静まり返った室内に、ピピッと軽い接続終了音だけが鳴り響いた。


「アルトくん、レイルなんだって?」


リオンが俺の顔を覗き込むようにして尋ねてきた。俺は手元の端末をそっと伏せて、軽く息を吐く。


「今から……ライトが来る。レイルとユウラと一緒に、ここまで」


「え……?」


一瞬、空気が止まったように感じた。


ソファにいた全員が同時に俺を見て、静まり返った室内には時計の針の音すら聞こえるようだった。


「ライト……あの、タルの店主の?」


リオンが、どこか信じられないような声で言う。


「ああ。リオンとルシアのギルド刻印を、この場でやるために来てくれるんだって」


「えっ、でも、それって……!」


ルシアが立ち上がりかけて、驚いた表情でこちらを見つめてきた。その顔には、明らかに動揺の色が浮かんでいた。


「そんな……わざわざ店を離れてまで来るなんて……!」


「それだけ、今、街の外が危険ってことだ」


俺は言葉を選びながら、落ち着いた声で続ける。


「タルに連れて行くことも難しいって判断なんだろうな。レイルの話だと、ライトが姿を変えて城に潜入できるらしいけど……それでも、無事を祈るしかない」


「姿を……変える?」


ルシアがリオンの袖をそっと掴んだ。彼女の細い肩が、ほんの僅かに震えているのがわかった。


「ライトさんって、そんなことまでできるの……?」


「ああ、俺も全部を知ってるわけじゃないけど……」


俺は、真剣な目で頷いた。


「ただの店主じゃない。ギルドの中では、戦闘要員としてもかなり上位だって噂されてる。変質個体の群れを一人で封じ込めたって話も聞いたことがある」


「……そんなすごい人なんだ」


ルシアがぽつりと呟いた。


その隣で、ミリが静かに口を開いた。


「ライトはギルドの特殊潜入部門に所属している。戦闘だけじゃなく、諜報、結界術、姿の変化や変装、幻影操作にも長けている」


「変幻自在ってことか……」


「そう。彼が自ら出てくるのは、本当に危険な時。彼自身の判断で動くことは滅多にない」


ミリの言葉は、どこか断言するような強さがあった。


「つまり……今って、それくらいまずい状況だってことだよな」


俺がそう言うと、リオンがそっと呟いた。


「影の王の目覚め……」


その言葉に、部屋の温度が少しだけ下がったような気がした。


「……でも、今は信じよう。ライトが来てくれるなら、きっと大丈夫。あの人、絶対に途中で倒れたりしない人だから」


ルシアがリオンの言葉に小さく頷いた。


「うん……私も、信じたい。ちゃんと、みんなで……明日を迎えるために」


その声はか細かったけれど、確かな決意が宿っていた。

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