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リオンとルシアが戻ってきた!

しばらくすると、足音が遠くから聞こえてきた。


タッタッタッ……!


それは少しずつこちらへ近づいてくる。俺たちは自然と耳を澄ませた。


「リオンとルアか……?」


俺が立ち上がりかけたその時――


コンコン、コンコン……!


急ぎを感じるノックの音が部屋に響いた。


「……はぁ、はぁ……アルトくん、僕だよ」


ドア越しに聞こえたのは、走ってきたのか息遣いの荒いリオンの声だった。


「リオン!入ってくれ!」


急いでドアを開けると、そこには、肩で息をしているリオンと――


その背中に、少し隠れるように立つ女の子の姿があった。


長いピンクベージュの髪をなびかせ、遠慮がちにこちらを見ている。


「は、はじめまして……ルアこと、ルシアって言います」


ぺこりと深く頭を下げながらも、視線はまだ地面に落ちていた。


「以前は、お城を勝手に抜け出して……本当にすみませんでした……っ」


そう言いながら、ルシアはリオンの背中にスッと隠れた。


見ていて、なんだか小動物のようにおどおどしている。……でも、それが逆に愛らしい。


「ルシア、こうして会えて嬉しいよ。俺はアルト。堅苦しくしなくていいから」


そう言って笑いかけると、ルシアが驚いたように少しだけ顔を上げる。


その隣で、サクラも一歩前に出た。


「ルシア、気軽に話して。私はサクラ。よろしくね」


優しい笑顔と柔らかな声。女王としての威厳というより、友達としての温かさが滲んでいた。


「……あっ……サクラさん?女王さま……?」


ルシアがそっとリオンの背から顔を覗かせた。


「形は女王かもしれないけど、私たちは仲間であって友達だよ」


サクラは笑いながらそっと近づいていく。


それに合わせて、リオンがルシアの手を取って、そっとサクラの前に促した。


「大丈夫だよ。サクラちゃん、すごくいい子だから」


「う、うん……」


ルシアは小さく頷きながら、おそるおそる手を差し出す。


「よ、よろしくね……サクラちゃん……」


「うん、こちらこそ。これから、たくさん話そうね」


サクラがその手をやさしく包むように握ると、ルシアの頬にふわっと赤みがさした。


その和やかな空気を――


「私はミリだ」


……無表情のまま、ぬんっとルシアの横に顔を出したミリが破った。


「きゃっ……!?」


ルシアがビクンと肩を跳ねさせて、驚いたように目を丸くする。


「あ……ミ、ミリさん……よろしくお願いします……」


「よろしく」


ミリの淡々とした返答に、ルシアは一瞬固まったようだったが、なんとか頷いてみせた。


「アルトさんも……よろしくお願いします」


今度は俺の方をしっかりと見て、少しだけ勇気を振り絞った声で言ってくれた。


「こちらこそ!もう、仲間だからな」


俺は笑いながら親指を立てた。


ルシアの瞳が、その瞬間少しだけ揺れた。


そして、ほんの少しだけ、緊張が解けたような、柔らかな笑みが浮かんだ。


その時だった――


部屋のドアを閉めたリオンが、ほんの一拍遅れて俺たちの前で足を止めた。


「……アルトくん、みんな……伝えたいことがある」


俺たちがリオンの言葉に耳を傾けたとき、彼の瞳にはさっきまでの軽快な笑みではない、真剣な色が宿っていた。


「ここに来る途中、少し街を通ってきたんだけど……なんか、おかしかったんだ」


「……連絡もらった時、言ってたことか?」


リオンは短く息を整えてから、まるでその光景を思い出すように静かに語り始めた。


「うん。最初は、微妙に揺れてる感じだった。地面がふわふわしてて、歩いてる感覚が変だったんだ。で、そのあと、急に空の色が滲み始めた」


「……滲む?」


サクラがわずかに眉を寄せた。


「うん。まるで水彩画を濡れた筆でぼかしたみたいに、青がじわぁって広がって、重ねた絵の具が滲むように歪んで見えた」


ミリがスッと端末に指を走らせる。


「視覚異常の可能性……いや、それは魔力による空間歪曲の初期兆候かもしれない」


「それだけじゃない」


リオンの声が少し低くなった。


「音がしたんだ。……バチバチッて。雷でも静電気でもない、不自然な破裂音みたいなのが、空気の中に散ってくような音」


「……それって……」


「僕も初めて聞いた。でも、感じたんだ。あれは……境界が開いてきてる音だって」


俺は思わず、ぐっと拳を握る。


「……それってつまり、外の異常が……もう街に迫ってきてるってことか……?」


「そうかもしれない。でも、不思議だったのは……場所によって、まったく様子が違うってこと」


「違う……?」


「うん。街の中心、シュランズの花のモニュメントがある広場の手前までは、確かに揺れてた。でも、モニュメントの境目を一歩超えた途端、ピタリと揺れが止まったの」


ルシアがそっとリオンの隣から顔を覗かせた。


「それって……?」


「境界。間違いない。あの場所が、何かを食い止めてる。空も、風も、音も、全部が急に穏やかになった」


ミリの目が細くなる。


「物理的な結界ではない……地脈の収束点か、女王の感情影響域との干渉か……」


「でも、そのモニュメントの向こうに一歩でも踏み込むと、また世界が歪む。視界も、音も、風の温度も全部変わる。僕が立ってる場所と、ルシアから見えてる景色が違ってた」


「……えっ?」


「ルシアには、僕が普通に見えてた。でも、僕の方は……もう、言葉じゃ言い表せないくらい、空気そのものが違ってた」


サクラが息を飲んだ。


「そんな……同じ場所に立ってるのに、別の世界にいるみたいな感覚ってこと……?」


リオンは頷く。


「うん。僕たちは、すでに見えない境界の中にいる。今はそれが、じわじわと街を浸食してきてる」


部屋に、静かに重たい空気が落ちた。


誰もが、リオンの言葉を理解しようと必死だった。


「モニュメントの前に立ったとき、ルシアが言ったんだ。『同じ場所にいるのに、同じ景色を見てるはずなのに、感じ方が違うのは、苦しいし寂しい』って」


リオンが、そっとルシアの手を握る。


「僕は……そういうのを放っておきたくない。だから、どんなに怖くても、ちゃんと感じ取って、伝えて、戻すために動きたい」


ルシアは小さく頷いた。


「サクラちゃん……きっと、あなたの心が安定してるからこそ、この街の全てはまだ、飲み込まれずにすんでる。だから、今ならまだ間に合う気がする」


その言葉に、サクラの瞳が揺れた。


俺も深く頷きながら、リオンたちを見据える。


「詳しく伝えてくれてありがとう。今、君たちが見てきたことが……何よりの情報だ」


ミリが短く呟いた。

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