表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

10.風呂

どうも、明日の朝からやっと外出できる夜陣月です。体は毎日拭いていたけど、髪が臭いような気がして毎朝悲しい気持ちになっていました。それが明日で解消されると考えるとマジでうれしいです。


「おい」


「はい。」


「集中しろ」


「ハイ。」


「無駄なことを考えるな」


「ハイ」


「返事をしている暇があったら集中しろ。」


「……サーちゃん。」


「……なんだ」


「俺がデリカシーなかったことは理解しているからさ……そろそろ機嫌直してください!!」


「レディーに年齢を聞くやつが悪い。集中しろ。」



                    ※



一週間が経過した。


初日――はあの通りだったが、次の日はスキルの測定と魔法の適正の測定を行った。


測定といっても簡単なもので、水晶と印刷機が合体したような魔道具に手を当てるとその人の適正と固有スキルを測って印刷してくれる。


ただ、この魔道具も全知全能ではない。あらかじめ設定しておいた固有スキルしか測定してくれないのだ。つまり初発見の固有スキルはわからない。固有スキルの欄は『???』になる。


ただ、幸いというべきか、期待外れというべきか、俺らの中に初発見の固有スキルを持った人間はいなかった。みんな既出だったのだ。


お決まりでは一見弱く見えるスキルが覚醒して無双とか、そもそも無双とかありがちなのだが、俺らにはそれは当てはまらなかったようである。みんなが強いと言われたのだ。


『異世界で最強スキルで無双』――にはならなかったが、誰も落ち込んでいなかった。意外なことである


まあそもそも、どんな固有スキルでも使い方だし、固有スキルを持っていない人でも強い人はいるらしいからね。


その後リスタ団長に言われたことだが、異世界人の中には初発見の固有スキルを持っている人間が多いらしい。そのたび苦労しているのだとか。本人にも使い方も発動の仕方もわからないスキルを教えるのは骨が折れるらしい。


それと、あいつらはあんまりラノベとか読まないからお決まりとかわかっていなかったのだろう。異世界系は俺と優しか読んでいないのだ。それに優は一つのジャンルとして読んでいるだけであり、お決まりとかはあんまりわかっていないだろう。


つまり、みんなシラフなのだ。俺だけ酔うわけにはいかないから静かにしてたし。


そんな感じで全く波乱のないスキル測定を行った後、魔法の適正も測った。こちらはまあ、少しだけ荒れた――というか、きっかり分かれたのだ。


そもそも、魔法というのは基本の4種類と少し珍しい2種類があり、それらの派生形が複数存在する。


基本の4種類は、火、水、風、土。珍しい2種類は光と闇である。派生形は有名なところで、氷、というものがある。水の派生だ。


そんな中で俺らの適正はというと――


如月が『全属性』。優も『全属性』。俺は『闇』オンリー。剛はというと、適性『ナシ』、である。


適性ナシといっても、魔法が使えないわけではなく、自己強化魔法のような属性がない魔法は使えるのだ。まあ、剛はかなりショックを受けたみたいでその日一日全然話さなかったが。


ていうか、如月と優の全部ってなんだよ!!??俺と剛が荒れた。かなり荒れた。


リスタ団長が言うには、全部に適性を持っている人は1%にも満たないらしい。そして、ほぼ例外なく天才であると言っていた。思わず俺と剛は納得してしまったね。だって天才なんだもんあいつら!!


それから毎日、朝はリスタ団長の鬼のしごきに耐えて、昼はおっとりしているけど、寝ると笑顔のまま爆速チョーク投げつけてくる騎士団の人に講義を受けて、夜はサーちゃんのところに行って魔法を鍛えたり話を聞くという生活を繰り返してきた。


集団生活が心配だったけど、そんな心配する暇もないほど怒涛の毎日だった。



                    ※



やっと外出できるようになった。


なので、鬼のしごきとチョークを投げられた後、みんなで街に出て風呂に行っている。俺らだけじゃ危ないからお守りとして副団長付きだ。


「……どうした。元気がないな。初めての外だから優みたいにはしゃいでもいいと思うぞ。」


「いや、怒涛の毎日だったなって。なんで優の奴あんな元気なんだ。頭おかしいんじゃないか?」


「月君大丈夫??初めての連続で疲れちゃうよね。」


「そうだな。……いや、お前なんかスキップしてないか?」


「僕はすべてが目新しくて、疲れたけど楽しいよ!!外も日本とは全く違う景色でテンション上がっちゃうよね!!!あ!!あの店なにかな!!??」


「あ、おい!!」


どっか行っちゃった。テンション高いな。ちなみに優は走りながらいろんなところを物色している。今は街中で女の子に声かけている。どうでもいいけど、あんまりナンパとかしないほうがいいと思うけどな。俺らは特殊な立場の人間だし。


「はっはっは!!優は元気がいいな!!」


副団長が笑っているならいいのか。


……なんて笑っていたら、優が引きずられて帰ってきた。引きずっているのはリスタ団長と雰囲気が似ている女の人である。名前は知らないが優の専任の人らしい。


実は俺らには一人一人に騎士団の団員がお守りとしてついている。対番のようなものである。相談も聞いてくれるし、魔法の自主練も見てくれる。


ただ、優はあの人だいぶ苦手にしているらしかった。見ていても笑顔ないし、相性が悪いんだろうな。


ちなみに俺の専任の人はあの――


「……月君はナンパしてもいいですよお~。かわいい子見つけましょうね~~」


「っっ!!……フローラさん。驚かさないでくださいよ!!ついてきていたんですね。」


「はい~~ごめんなさいね~~。私たちはいつでもそばにいますよ~~」


……この人、フローラ・フィオレさんである。ちなみに笑顔でチョーク投げてくる人でもある。


垂れ目で笑顔。160cmくらいの身長で緑色の髪を腰まで伸ばしいる。服も緑を基調としたふわふわしたものを着ておりどこか精霊のような雰囲気を持つ女性である。


「お風呂まではついてこないでくださいね……ってもういねぇ!!」


騎士団の人たちは基本神出鬼没である。いつも見守っていてくれているらしいが、正直恐怖である。


余談だが、あの人めちゃくちゃいい匂いする。香水とかの匂いは正直あんまり得意ではないのだがあの人の匂いは好きだ。花のような香りで心が休まるのだ。なので時々――


「月っ!!何してんだぁ!!??風呂についたぜぇ!!」


「あ、ああ。ごめんごめん。……これが風呂か。でけぇな。」


「なあぁ。一週間も風呂入れなかったんだし、さっさと行こうぜぇ!!」


煙突もあって、まるっきり銭湯そのものである。この世界でも銭湯を見られると思わなかった。


そう思ったのは俺だけじゃなかったのか、ほかのみんなも目をキラキラさせて見ている。


ここまで30分くらい歩いたと思うが、時間がたつのが早かったな。でも、これからはちょっと遠いし来るのが億劫になりそうだ。


実は俺らが今住んでいる第零騎士団の寮舎は町はずれにある。それは第零騎士団が特殊な立場にあるからであり、ほかの騎士団の駐屯所と寮舎は街の真ん中にあるらしい。


街を歩いている間、俺らが異世界人とばれているのかいろんな目を向けられたし疲れた。早くお風呂に入りたい。


そう思って入ろうとすると、右側から声をかけられた。


「おーい!!そっちじゃないぞ!!こっちだ!!」


そう言って腕を振っているのは副騎士団長。その後ろには俺らの目の目にある銭湯を数段小さくしたような施設がある。……まさか。


「こっちが男風呂だぞ!!」


なんだと……!??





どうも。銭湯に入った夜陣月です。中も普通の銭湯です。


「納得いかねぇよなぁ……女尊男卑じゃねぇのかぁ!!??」


「仕方ないよ優君……。需要が薄いんだろうね……」


優が体を洗いながら憤り、如月も言葉では優をなだめているもののちょっと不満そうな顔をしてる。風呂が男のほうが小さいことに対してである。


まあ俺もあの旅館並みにでかい銭湯に入ってみたかったし、気持ちはわかる。


そう思っていると、すでに湯舟に浸かっている剛が目を閉じたまま声をかけてくる。こいつは髪が短いからすぐに湯舟に入れるのだ。


「俺はこっちのほうがいい。下町のこじんまりとした雰囲気の銭湯が好きだ。」


「でもよぉ剛ぃ。建物まで分ける必要あるのかぁ……??ここはずいぶんと新しいけどよぉ。どう思うよ月ぃ……」


「……やっぱ髪黒くなってんな。俺の魔法適正が闇だからか……?……いや、優。やっぱ仕方ないんじゃね?如月も言う通り需要が低いんだろうな。多分こっちの建物は後から建設されたものだろうし。」


「ああその通りだ!!元々銭湯という施設は女性専用だったからな!!」


そう声をかけてくるのは剛と先に湯舟に浸かっていた副団長である。この人も髪が短いが、それ以上に一つ一つの行動が早い。


俺も体を洗い終わったので湯舟に浸かることとする。優と如月も洗い終わったのか、後ろからついてくる。いくら施設が小さいと言っても、女子風呂に比べての話だ。湯舟は俺ら5人が使ってもかなり余裕がある。


「専用だったんすか……??」


「ああそうだ!!男はそんなに風呂に入りに来ないからな。この施設にはこの私も初めて来たぞ!!何せ出来たのが三日前だからな!!」


三日前……??つい最近じゃないか!!……ということはまさか。


「もしかして僕たちのためですか??」


「まあそうだな!!異世界人は風呂が好きだと聞いてな!!リスタ団長が大急ぎで作ってくれたんだ!!」


リスタ団長が……。確かにあの人は訓練の時は鬼だが、それ以外の時は異世界人である俺らをかなり気にしてくれている。ありえないことではないが意外ではあるよな。


「あの人が……しかし、男がいくら入りに来ないとはいっても需要は少なからずあるでしょうに。やはりこの国では男性の立場が低いのでは??」


「剛君。この国……いや、この世界は多分……ね!!優君!!」


「あぁ。神童ぉ。この世界は男がだいぶ少ないんだと思うぞぉ。街中歩いてても男に全然会わなかったしなぁ。人間じゃないやつも見たが、そいつらも女ばっかりだったなぁ。」


「異世界人の男女比率が極端なのもその影響かもな。」


そうなのだ。俺は先に聞いていたがこの世界は男女比率が女性に傾いている。それもかなりの割合でだ。サーちゃん曰く、女性:5 男性:1らしい。つまり、女性のほうが男性よりも5倍多いということになる。剛にとっては地獄の環境だな。


確かに異世界人である俺らも、男が4人で女性が20人だったはずだ。まあ、彼女らとは一週間全く会っていないので現状は知らないが。


「そうだぞ!!第零騎士団も男性は私含めても3人しかいないからな!!」


確かにリスタ団長もフローラさんも女性だし、ほかのみんなの専任の人も女性だったはずだ。じゃあほかの男性の団員の人たちはどこに行ったのかというと、今は遠征に行っているらしい。


そんな人たちもいるので第零騎士団が何人いるのかはわからないが、少なくとも50人はいるはずだ。そんな中で3人しかいないとは……。

この世界の男女比率でいっても少ない。もしかして、女性のほうがこの世界では強いんじゃないか??


そんな中で副団長まで出世したこの人はものすごいのでは……?


そう伝えると副団長はそんなことはないと首を振った。


「私は、男性の団員のまとめ役としてこの地位にいるだけだ。強さでは騎士団長に遠く及ばない。」


と、あまり信じられないことを言ってくる。絶対嘘だと思うんだけど。騎士団長がおかしいだけで多分この人も強いと思う。体の傷がそれを物語っている。


「やっぱすごいんだなぁあの人。俺も固有スキル使いこなせるようになって強くなりてえなぁ……!!あの女に全く使いこなせてないって言われちまったしなぁ。」


「俺たちではまだ扱いきれてない。訓練がもっと必要だろう。」


「僕も……全然使えないんだよね……もっとできることがあるはずなのに……。……そういや月君は固有スキルの訓練っぽいことしてないよね……。……も、もしかして、もう使いこなせるの……??」


「いや、俺はサーちゃ……大賢者様に訓練をつけてもらっているんだ。なんか暴走すると危ないらしくてな。」


一週間は立ったが、俺らは基本的な魔法を使えても、固有スキルなんかを使いこなすまでは行ってない。


なのでみんな、自由時間に練習しているのだ。朝の訓練の時間は肉体的なことしかしないので、勉強終わりとかの時間だ。もちろん専任の人がついてくれている。


ただ、俺の固有スキルはちょっと特別であり、専任のフローラさんではなくサーちゃんこと大賢者様が訓練をつけてくれている。


だけど、あのロリは偉いらしいので、こんなことに本当は付き合っている暇なんてなんじゃぞ……なんて毎回言われるがちょっと褒めると顔をほころばせて喜んでくれるので、扱いは楽である。端的に言えば、ちょろい。


まあ、昨日のように機嫌損ねてしゃべってくれなくなる時もあるけどね!!結局あの後、褒め倒したら一発パンチされた後、機嫌を直してくれた。よかったよかった。女性に年齢は聞いちゃダメ。これ絶対。


そんな話をしていると、副団長の顔が曇る。如月も気付いたようで、顔を向けている。


「……副団長さん。どうかしましたか……??」


「いや……君たちは訓練をつけられることに、見ず知らずの人に戦いを強要されることに、嫌悪感はないのか……??」


なんの話だろうと顔を見合わせる。強さとは男の子のロマンだ。魔法もあるのに嫌なわけないのである。


「私は、君たち異世界人にはのびのびと……好きなことをしてこの世界で生きてほしいと思っている。そんな中で、君たちが教えられているのは『殺し』の術だ。……君たちの世界は平和だと聞いている。いきなりそんなもの教えられて……平気なのか??」


……この人はずいぶんといい人だな。他人の対場に立ってものを考えられる。国を守る騎士ではない。民を守る騎士なのだろう。


だが、これに関しては、少なくとも俺ら4人で話し合って納得したことがある。それを伝えたほうがいいだろう。この人は自分を責める人間だ。


そう思いみんなを見ると、お前が話せと目で訴えてくる。


「ゲオル副団長……。俺らは、孤独ですよ。たとえ何人でいようと、ね。」


「……そうだろうな。だからこそっ」


「だから、俺たちは強くなりたいんですよ。強さというものは安心感をくれるんです。特に、孤独な環境では。強くなる機会をくれるというのに、俺たちがみすみすそれを逃すのは……ばからしいでしょう。魔法なんていう知らないものもあるのに……俺らが弱くなる時は、この世界に安心できた時です。」


うまく伝えられたか??つまり俺らは強くなる義務があるということなのだが……


そう思い、顔を見ると納得は行ってないが、ひとまず安心したという顔をしている。


そして、湯舟から立ち上がりながら言った。


「そうか。ならいい……!!だが、団長は鬼だから気をつけろ!!今はまだ異世界人ということで手加減しているが、そのうちもっときつくなるぞ……!!」


「「「「!!??」」」」


今度は俺たちの顔が曇る番であった。もっときつく……!!??



よろしければ↓にある星押してってください!!あと、ブックマーク、コメントもお願いします!!どんなものでも参考になります!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ