11.訓練
今日は風呂に入りに行った翌日。この世界に来て8日目である。
俺らの朝はまあまあ早い。朝6時起床である。8時間ぐっすり睡眠を取りたい俺としては結構辛いが、こいつらは結構余裕らしい。
考えてみれば元の世界でもそんなに変わらないくらい早く起きていたのだろう。特に剛は朝練なんかで早寝早起きのイメージがある。さらにこいつは電車通学で、家から駅も遠いという何重苦かわからないくらい早起きが染み付いているのだ。
だからといって今の状況は意味不明である。
「月!!もう5時だぞ!!起きて準備しろ!!」
余裕というか元気が有り余っている間違いだった。今はなんと5時である。剛は体育会系だからか時間に厳しいところがあるが、それにしても6時起床で5時起きとは意味がわからない。そもそもなんで5時に起きられるんだよ。
「いや、剛……まだ5時……」
「1時間前行動だ!!とりあえず顔を洗いにいくぞ!!」
1時間前行動!!??なんだそれ!!5分前行動は聞いたことがあるが、1時間前行動はマジで聞いたことがない……!!脳みそが筋肉でできているようだ。頭がおかしい。寝させてくれ。
ベッドに篭る俺の腕をとり、無理やり引っ張り出そうとする剛。俺も抵抗するが、ずるずると引きずられてしまう。筋肉の量が違うのだ。俺が抗うには力が足りないらしい。
「助けてくれ……」
「お、早いな!!おはよう!!よく眠れたか!?」
「朝から大声出さないでください……おはようございます。」
誰もいないだろうと思って食堂に来たが、今日は副団長がいた。食堂はご飯を食べる以外にロビー的な役割も兼ねている。俺らも暇な時、ここで本を読んだり駄弁ったり、後は騎士団の人と話したりする。
あの人たちは男子寮に平気でくるからな。でも命が惜しいので俺らが向こうに行くことはない。……できない。
「お。早いね!!ちょっと待っててね。今からちゃっちゃと朝ごはん作っちまうからね!!」
「ゆっくりでいいですよ。俺が早く起きてしまったので。」
食堂のおばちゃんがエプロンをつけてやってきた。副団長がいることにも驚いたが、この人も早いな。
なんというか、こっちが勝手に早く起きたの眠そうにしていると失礼だと思い、頑張って脳を覚醒させる。コーヒーなんかがあるといいんだが、この国では高級品らしい。
なので、おばちゃんに頼んで紅茶をもらうこととする。カフェインを取れればいいのだ。でも、この世界の紅茶は結構美味しい。まあ、多分おばちゃんが紅茶を入れるのだうまいだけだと思うけど。
「そういや副団長。それ、お弁当ですか?」
副団長はなぜいるのかと思っていたが、お弁当のようなものを食べている。3段弁当でめっちゃ大きいけどデフォルメされたクマのようなフォントがついており、かなり可愛い器である。副団長ってもしかしてファンシーなのか?
「ああ。妻が昨日のうちに作っておいてくれたのだ。……あげないぞ!!」
「いや、いただきませんよ……それにしても、副団長って既婚者だったんですね。」
「ああ。1人だがな。」
この世界では既婚者が指輪をつけるという文化はないそうだ。なのでどの人が結婚しているかがわかりづらいが、この人は結婚しているだろうなとは思っていた。紳士だからね。
後、よく知らないが、この世界……少なくともこの国は一夫多妻制だと思われる。流石に偏った男女比ではやっていけないだろうし。だから一人だと付け加えたのだろう。
まあ俺の予想でしかないからあとで誰かに聞いてみようかな。
ちなみにだが、リスタ団長やフローラさんは未婚らしい。リスタ団長が結婚していないのは副団長から聞いた。あんだけ美人で強いんだから男の1人や2人くらいいてもおかしくないとは思うのだが、怖すぎてみんな逃げていくのだろう。
そしてフローラさんというと、なんか初対面で開口一番に聞かされた。聞いてないのに。
もしかしたら結婚願望があるのかもしれない。美人だし若いし強いし、引き手数多だと思う……が、多分あの人は理想が空飛ぶ鳥より高いのだろう。
その後、副団長と雑談しているとおばちゃんが朝ごはんを持ってやってきた。おばちゃんおばちゃんと言っているのは、名前を知らないからである。
「はいできたよ。よく食べて頑張るんだね。……他の奴らはまだ起きてこないのかい?」
「ありがとうございます。あいつらは……そのうち起きてくるんじゃないんですかね。剛が起こしにいきましたし。」
「……ああ、いつものかい。」
そんな言葉と共に、部屋の方からどったんばったん聞こえてくる。これは毎日のことだ。あいつらは朝からゆっくりとはいかないらしい。優雅じゃないね。
俺は優雅にティータイムをとることとする。……いただきます。
朝8時。訓練開始の時間である。
「剛ぃ……テメェのせいで朝から無駄な体力使ったわぁあほがぁ」
「こっちのセリフだ。起きないのが悪いだろう。」
「いや、剛くん……5時に起こすのはやめよう……!!6時にはちゃんと起きるからさ……」
「いや、6時起床ならば5時には起きているべきだ。」
「はあぁ……あほやなぁ……月もよく耐えられるなぁ。このアホと一緒の部屋でぇ。」
いや、平気じゃないです……なのでやめてください。……そう伝えようと思ったが声が出ない。荒い息の中でもがいているだけになっている。
そう……こいつらは平気な顔をして話しているが、今は朝の訓練中である。初めは恒例の走り込みなのだ。走りながら喋れるわけがないので答えられるわけがないのである。俺に回答を求めないでほしい。
でも、平気だと思われたらたまらないので懸命に話そうとする。
「……はぁ……はぁ……お前らよく……話せるな……走りながらで……。5時起きでっ!!……平気なわけがっ!!ないだろ……!!」
「夜陣月!!手を抜くな!!遅れているぞ!!」
ひいぃ!!鬼!!手なんて抜いてないです!!いやでもスピードをちょっと落ちたかもしれないけど全力です!!
なぜなら、ランニング中の俺らの後ろにはペースメーカーとしてリスタ団長がついてきているのだ。そんな中で手を抜いたら蹴り飛ばされてもおかしくない。単純に体力がないだけなんです!!許して!!
そんな俺の心からの願いは聞こえなかったようで、後ろからプレッシャーをかけてくる。魔力で威圧しているのだ。魔力を外に出せない俺にはできない芸当である。泣きそう。
「……なんかリスタ団長って、月くんには特別厳しいよね」
「美人に目かけられて羨ましいぜぇ……!!」
「そんなことよりもっと手を動かせ。」
こいつも厳しいわ。あと、優が煽っているのか本心なのかわからない言葉を投げかけてくるが、俺はそれに反応できる余裕はない。でも、多分煽っているので後で一発しばく……
「そこまでだ!!」
それからどれくらい経ったかやっとストップの合図がかかる。
マジできつい。毎日走っているのだが、団長がストップというまでやるのでどれくらいで終わるのかがわからない。なので精神も削られる。
今日は何kmくらい走ったのだろう。訓練場の外周をぐるぐる回っているだけなのでそれもわからないのだ。キッツい。
走り終えた俺はいつも倒れてしまう。本当はクールダウンのために歩いたほうがいいらしいのだがその元気すら俺にはない。自分の体力の無さにいつもがっかりするのだ。
「疲れた……」
「お疲れさまです〜よく頑張りましたね〜」
そう声をかけてくれるのは我らがフローラさんである。柔らかい声といい匂いで、この場の雰囲気が一気に良くなる。
実は訓練の時にいるのはリスタ団長だけではない。団長の他に4人……そう、俺らに専任としてついてくれている方々もいる。
「これお水です〜ゆっくり飲んでくださいね~」
フローラさんが差し出してくれた水を、お礼を言って受け取って飲む。
専任の人たちは基本的に訓練には関わってこないのだが、こういう時に支えてくれる……と思う。うん、多分。
ほかの奴らはというと、如月の専任の人はフローラさんと同じくらい柔らかい雰囲気を持った人で、同じく水をもらって雑談しながら休憩している。
優の専任の人は……うん。まあ、うん。あいつは全く雑談なんてしてないな。結構気まずそう。かわいそうだからしばくのはやめてやろう。
剛は……なんで専任の方と一緒に腕立てしてるんですかね。似たもの同士で脳みそ筋肉かもしれない。
そんなことを考えているとだいぶ落ち着いてきたので端っこの段差に腰掛ける。フローラさんもついてきてくれて、俺の横に腰掛けてくれる。いい匂いがしてドギマギする。でも、俺が汗臭いから相殺だな。ごめんなさい。
フローラさんは本当に優しいのだ。俺のことをいつも気にかけてくれる。むしろ俺なんかが担当で申し訳ないと思ってしまうぐらいである。
そういえば、俺はフローラさんが専任で良かったと思っているけど、どうやって決めたのだろうか。
専任の人は初日に決められている。初日でよく知らないわけだし、実際、優みたいにあんまり合わない人もいるけど、どういう基準なんだ?
「どうかしましたか〜?」
おっと、疑問が顔に出ていたのだろうか。まあでもどうせなら聞いてしまうか。
「いや……今更ですけど、どうやって専任の方を決められたのかなって思いまして」
「ああ〜なるほど〜〜。それはですね〜〜、……直感です!!」
「直感!!?え、そうなんですか!?」
「はい〜〜私は月くんを見た時に、びびっ!!ときちゃいまして〜」
「……」
直感……ということはフローラさんが俺のことを選んでくれたということなのだろうか。なんで……と、思わず黙ってしまった俺を覗き込むようにして、フローラさんは話を続ける。
「納得していなさそうですね〜〜。難しく考えず、私が一目惚れした。と思ってくださればいいですよ〜」
「はあ。それは……光栄です。」
思いもよらない答えに固まってしまい、そんなことしか言えない俺を覗き込んでいたフローラさんだったが、ふと顔を上げると指を顎に当てる。
そこで俺も顔を上げてそんなフローラさんを見ると、眉を顰めてちょっと困り顔であった。かわいい。
「う〜ん。月くんは真面目すぎますね〜〜。もっと肩の力を抜きましょう〜〜!!」
真面目なのか、それ??いやだって流石に直感なんて言われてもあんまり信じられないだけなんだけど。俺は小心者だから裏があるのではないかと疑ってしまうのだ。
困惑中の俺の横で腕をグッとやって、「頑張りましょう〜!!」なポーズをしていたフローラさんだったが、なんか閃いたのか両手をパンっと叩いた。
「そうです!!今日もあれをやりましょう!!」
「え!!??いやいやいいですいいです!!」
あれ。フローラさんに初めて会った後強制的にされたことである。それからほぼほぼ1日1回拉致られてされている。
別にされること自体は嫌ではない、というか好き……なのだが、いかんせん恥ずかしすぎるのだ。1回人前でされたときは恥ずかしすぎて泣きそうだった。
「だめです〜強制です!!月くんの肩の力を抜くには〜あれしかありません!!」
「いやいやだってめっちゃ恥ずかしいんですよ!!あれ!!」
「楽しみにしていてくださいね~~」
「いやいやもう肩の力抜けたんで大丈夫です!!マジで!!」
そんな押し問答をしていたのだが、タイミング悪くリスタ団長から集合の合図がかかる。怒鳴られることはないが早く行かないとまたプレッシャーをかけられてしまうのだ。こわい。
「では後でお呼びしますので〜頑張ってくださいね〜」
結局フローラさんは聞く耳持たなかった。後で連れ去られてしまうだろう。フローラさんも騎士団の一員なので俺なんかより圧倒的に強いのだ。
でも正直、すごく恥ずかしいけど、絶対に言わないけど……楽しみではある。
訓練はあと3時間あるのだ。後々の楽しみができたと思っておこう。うん。
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