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第11話 いや、私普通の女性ですよ……


「母様! ……その、シュゼット嬢、には……」

「あぁ、大丈夫よ。貴方にとって都合の悪いことは、話していないわ」


 それから少しだけクールナン侯爵夫人と会話をした後。アルベール様が、慌ててこちらに駆け寄ってこられた。そして、私に飛びついてこられる。お、重い! 手加減してくださっているから倒れなかったけれど、重いのには変わりないわよ!


「シュゼット嬢! 母様に何か余計なことは吹き込まれませんでしたか!?」

「だ、大丈夫、ですよ……。ただ、重い、です……!」


 クールナン侯爵夫人からはむしろ励ましをいただいた。でも、アルベール様は「本当ですか!?」「余計なことは、吹き込まれませんでしたか!?」と問い詰めてこられる。しかも、私のことをぎゅうぎゅうと抱きしめられながら。いや、そもそもこれは問い詰めなんて生ぬるいものじゃない。尋問だ、尋問。犯罪者って、こういう気分なのかしら? 初体験だわ……って、そうじゃない。


「……アルベール。さっさとシュゼットちゃんから放れなさい。この子は私と違ってか弱いのよ? 今もほら……潰れそうになっているじゃない」

「あ……シュゼット嬢!」


 そうおっしゃって、アルベール様はようやく私から離れて私の顔色を窺ってこられる。うん、先ほどから私ずっと「重い」って言っていましたよね……? そんなに、何かを吹き込まれたと思っていらっしゃるのでしょうか? まぁ、ありえるわよね。母親って結構息子の黒歴史握っていることが多いから。それは、お兄様で実感しているわ。


「あのね、アルベール。女の子はか弱いのよ。誰もが私みたいだと思わないことね。……そうじゃないと、本当に愛想を尽かして逃げられちゃうわよ」

「……肝に銘じておきます」

「よろしい。じゃあ、私はこれにて失礼するわ。バイバイ、シュゼットちゃん。今度は二人きりでお話をしましょうね」

「はい……」


 クールナン侯爵夫人はそれだけをおっしゃると、さっさとこの場を立ち去って行かれた。そして、一度お屋敷の中に戻られる。大方、クールナン侯爵のことでも見に行かれたのだろう。……正直、クールナン侯爵夫人を見て感じたのは「猛獣使い」みたいだと言うこと。私も、あんな風になれるのだろうか? ……無理な気しかしないわ。


「シュゼット嬢! 本当に、本当に何も変なことは吹き込まれていませんよね!? 母様、何をするかわかったものではないので……!」

「いや、どうしてそんなにも自分の母親に怯えているのですか……」

「い、いえ、父様がしょっちゅう地雷を踏んでは罰を受けているので……。この間は、二階から落とされていました」

「……よく、ご無事でしたね」

「まぁ、日常的ですから。軽傷でしたよ」


 クールナン侯爵家とは、人外の家系なのだろうか? そう、思ってしまった。だって、普通二階から落とされたら大怪我を負うでしょう? ……うん? ちょっと待って? 今、二階から落とされたっておっしゃったわよね? 突き落とされたのでは、なくて?


「あ、あの、アルベール様。突き落とされた……のですよね?」


 大人の男性を持ち上げるなんて、普通出来やしない。きっと、言葉のあやだ。そう、自分に言い聞かせようとした。だって、クールナン侯爵夫人はとても細い。ムキムキではない。そんな女性が、大人の男性を持ち上げて落とすなんて、出来るわけがなくて……。


「いえ、持ち上げて落とされました。あの母様が突き落とすなんて生ぬるいこと、するわけじゃないですか。あの人、大人の男一人くらいならば余裕で持ち上げて運びますからね」

「……そう、ですか」


 何だろうか、聞いてはいけないことを聞いた気がした。うん、そりゃあ怯えるわよね。自分の父親が母親に持ち上げられて落とされる光景なんて日常的に見ていたら、そう思うのも仕方がない。怯えても当たり前だと思う。


「でも、きちんと軽傷で済むように計算して落としていますからね。死んだら目覚めが悪いとか、言っていました。なので、シュゼット嬢も俺を落とすときはぜひとも計算して落としてくれると、助かります」

「……落としませんよ。というか、普通の女性は大人の男性を持ち上げて落とすなんて芸当、出来ませんからね!?」


 いや、アルベール様の女性像おかしくありません? 私にもそんな力があると思っていらっしゃるのですか? まぁ、クールナン侯爵夫人とは背丈が似ているので、そう思っても仕方がない……わけないでしょう!?


「じゃあ、普通に半殺しぐらいでお願いします」

「どうしてそうなるのですか……」

「父様によると、爺様は喧嘩のたびに婆様に半殺しにされていたそうなので」

「……この家、とんでもない事故物件男の集まりですか……?」


 それを実感して、嫌になりそうだった。いや、もうすでに嫌になっている。先祖代々こんな感じとか、普通にやめてほしい。……つまり、もしも私とアルベール様の間に子供が生まれて男の子だったら、こうなるの……? 怖い。遺伝に抗いたい。そうなったらできれば頑張って、私の遺伝子。


(っていうか、そもそもアルベール様と婚姻する可能性がどんどん消えかけているわよ……)


 心の中でそう思いながら、私は隣で嬉しそうに笑っていらっしゃるアルベール様を見据える。……私、クールナン侯爵夫人のように、なれるかしら? そう思って、ため息をついた。すごく、逃げたい。ここ数日何百回思ったか分からないことを、私はまた思った。

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