第12話 お誘い
本日は諸事情により一話のみの更新です(o*。_。)oペコッ
「このお菓子、とても美味しいですね」
「そうですか! では、今度からたくさん買い込んで……」
「いえ、それはやめてください。食べられる分だけにしましょう、ね?」
それから数分後。私はアルベール様といつものお茶会スペースにいた。月に二度は来ていたこの場所のことはすっかりと覚えている。でも、景色はいつ来ても変わっている。なんというか、お花一つとっても毎回変わっているし、見ていて飽きさせないというか……。
そして、私はそんな景色の中目の前に出された紅茶とお菓子をいただいていた。カイレ子爵家で飲むものよりも、数倍高価な味のする紅茶と、最近街の方で有名だという洋菓子店の焼き菓子。食べたり飲んだりするのは、最高。目の前で、アルベール様が私のことを凝視していらっしゃらなければ。
「アルベール様。私のことを凝視するのは、止めてください。あと、視線が怖いです」
「そ、そうですか……。では、出来る限り優しく見つめますね」
「アルベール様。私を見るよりも、お菓子を食べればいいじゃないですか」
出来れば、私のことを凝視するのはやめていただきたい。そう思って、私は手に持っていた次に食べようとしたマドレーヌを、アルベール様の口の中に突っ込んだ。ふぅ、これで少しはお菓子に意識を向けてくださるだろう。そう思って、私はフィナンシェをつまむ。あぁ、美味しい。
その後、しばらくの沈黙が続き私がふとアルベール様を見つめると、アルベール様は私から露骨に視線を逸らされた。いや、凝視したり逸らしたり、忙しいですね。そう呑気に考えていた私だけれど、アルベール様の頬は何処か赤く染まっていて。……なんだか、すごい勘違いをされている気がした。
「シュゼット嬢が食べさせてくれて、すごく美味しいですね……!」
「違いますからね!? 私から気を逸らすためにお菓子を突っ込んだだけですからね?」
「照れ隠ししなくても、いいのに」
「どれだけポジティブなのですか!」
ネガティブになったり、ポジティブになったり忙しいお方だ。そう思いながら、私はとりあえずと紅茶を口に運ぶ。美味しいわ。そう言えば、アルベール様は先ほどから何か私にお話ししたいことがあるのではないだろうか。だって、ずっと口を軽く開いては閉じている。
「……アルベール様。何か、私にお話ししたいことでもあるのではないですか?」
カップを元の位置に戻し、私は静かにそう問いかける。う~ん、でも、アルベール様が改まって私にお話ししたいことなどあるだろうか? ここ数日、叫ばれていることが多いし、自分がして欲しいことは泣きつきながらおっしゃるし。……本当に、婚約の解消をお願いする前とは別人だ。
「う……そ、その、一つだけ、お願いがありまして……」
「お願い、ですか?」
言いにくそうにそうおっしゃるアルベール様を見て、私は何だろうかと考えを張り巡らせる。婚約の続行についての条件は納得していただいたし、大体のことは遠慮なくおっしゃると思う。ここまで言いにくそうにされている意味が分からない。
「どうぞ、お話しください。出来る限り、叶えようと、思いますので。あ、婚約の続行に関してはこの間の通りですよ」
「ち、違います! その……一緒に、行ってほしいところが、ありまして……」
「行ってほしいところ、ですか?」
「はい、テーリンゲン公爵家で開かれるパーティーに、一緒に参加してほしくて……」
私から視線を逸らして、アルベール様がそうおっしゃる。……テーリンゲン公爵家で開かれるパーティー、か。
テーリンゲン公爵家は、このセロー王国でも屈指の名門家系だ。その家の主催のパーティーには、伯爵以上の爵位を持つ貴族しか参加できない。そんな場所に、私が……? 私、子爵家の娘ですよ?
「テーリンゲン公爵家のパーティーには、伯爵以上の爵位を持つ貴族しか招待されないのでは……? 私、子爵家の生まれなので、あまり……」
「いえ、今回のパーティーはパートナー同伴という条件がありまして。だから……シュゼット嬢に、俺のパートナーとして参加してほしくて。母様に同行を頼んだら、父様に殺されますので」
「……あぁ」
私はそのお言葉で納得してしまった。ほとんどのパーティーは単独で参加できるけれど、中にはパートナー同伴が条件のパーティーもあるのだ。アルベール様には兄弟姉妹がいらっしゃらないし、母親にも頼めない。そうなると、私を誘うのが妥当か。
「……私、子爵家の娘ですけれど、良いですか?」
「えぇ、そこは主催側のオフィエルに許可を得ていますので」
アルベール様はそうおっしゃって、私の返答を待たれる。……う~ん、アルベール様が主催者側の許可を得ているのならば、私が断る理由もないか。そもそも、アルベール様も人前だとあまりべたべたされないだろうし。うん、別に参加してもいいや。
「分かりました。では、パートナーとして参加させていただきます」
「そうですか……! では、当日のドレスとかアクセサリーの類はこちらで用意しておきますね! パーティーには、俺と一緒に向かいましょう!」
「……待ってください、まさか、それが狙いでは……?」
「まさか!」
そうおっしゃるけれど、表情は先ほどとは違って明るい。そうですか、そうですか。私を着飾るのが目的ですか。……嵌められた気がする。でも、まぁ……。
(そんな高位貴族主催のパーティーになんて、滅多なことでは出られないからいい経験になるか)
心の中でそう思って、私は一人はしゃぐアルベール様を冷たい視線で見つめた。うん、ですが、人前ではこんな風にはしゃがないでくださいね。そう思って、私はアルベール様にあとで注意しておこうと心に刻み込んだ。




