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31 アクシデント(カルテア&ロッシェ)

カルテア


 どうなっているの? 上手くいくはずだったのに、どうしてビルフェに敵対されているの? なにを間違えた?

 昨日偶然シルベローナとスフィナが墓地に向かっているのを見かけて、高所から二人の様子を窺った。そしたら二人が襲われていた。あんなイベントは知らないけど、悪役だから文章にされない隠された設定でもあったんだろう。もしかすると設定資料集には載っていたのかもしれない。

 シルベローナは襲撃をわかっているかのように対応し、スフィナを守っていた。いやわかっていたんだろう。でないと男複数から守り切れるわけなんてない。

 確信した。あれはスフィナに恩を売り、利用するためのシルベローナの策だって。このチャンスは逃すべきじゃない。シルベローナは早くに排除すべきだ。それによって攻略できなくなるキャラも出てくるかもしれないけど、放置している方がまずい。

 シルベローナの悪事の証拠を掴んだ幸運に感謝し、やはり私は主人公なのだと喜ぶ。

 翌日の学院でシルベローナを糾弾するため、モブたちに声をかける。するとたくさんのモブが従ってきた。それらのモブを気分良く引き連れて、授業後にシルベローナのところに向かう。

 中庭にいたシルベローナに彼女の罪を突きつける。モブたちの後押しを受けて気分よく喋る。ここまではよかったのに。専属使用人とかいうモブが出てきてから流れが変わった。彼女はごちゃごちゃ言っていたけど、正義は私にある。それなのに他のモブたちは動こうとしない。

 三流女優? 冗談じゃないわ。私は主人公なの。世界に認められた主人公なのだから多少不完全な主張でも流れはこっちにくるはずなのに。モブたちの中には被害者が設定されているはずでしょ。あの流れなら名乗り出てくるのが自然なのに。

 少しだけ焦る。するとビルフェの声が聞こえてきた。やはり私は主人公なのだ。ピンチにはこうしてヒーローが駆けつけてくれる。

 そうだと思っていたのに。どうしてビルフェは公平な立場をとるの? 私の味方になるはずでしょ。そうでないとおかしい。

 ビルフェの宣言のあとでもモブたちは動かなかった。なんでよ!? そのせいで私の言葉が疑われる。このままじゃ騒ぎを起こしたとして処罰されちゃう? 前世みたいに殺される? 嫌よそんなの! 私は幸せになりたいのっ。ならなくちゃいけないのっ。生贄なんて最後だった私は幸せになっていいはずでしょ!? だから主人公になったんでしょ!?

 でも流れは私に傾くことなく終わる。知っていることをほぼ全て話したのに、信じてもらえなかった。原作キャラたちはシルベローナの味方をする。私の味方は誰もいない。

 あまつさえ私の記憶と違うことが正しいとされている。そんなはずはない。原作は絶対。

 なんで、どうして。原作の流れを破ったから? シャベイやロッシェたちに関わるのが早かった? シルベローナの糾弾はもっとあとにすべきだったの?

 それとも私は主人公じゃなかった?

 心のどこかにヒビが入る音を聞く。誰かに連れられて、どこかに行く。この後私はどうなるんだろう。



ロッシェ


 騒ぎを起こしたカルテアが消沈して、いくら声をかけても元気にはならず、そのまま寮まで送る。寮に入らせてもらって、部屋に入って、ベッドに腰掛けてもらう。

 このまま一人にするには不安があるけど、今回のことをあいつに知らせて指示を仰ぎたい。

 こちらを見ないで俯いたままのカルテアに、ゆっくり過ごすように声をかけて寮を出る。

 待ち合わせの日じゃないから、いつもの店に行っても会えない。だがなにか緊急の連絡があれば会えるようにはなっている。あいつの屋敷まで走り、庭にいる警備兵に声をかけて、あいつから預けられた公爵家の印が入った手紙を渡せばいい。

 日頃から鞄の底に入れてあるそれを確認し、公爵家へと走る。

 正門に到着して、そこから庭を見て、警備兵に呼びかける。


「呼んだだろうか?」

「はい。私はロッシェ・ボルマン。伯爵家の長子です。この手紙をシャベイ様に急ぎで届けてほしいのです」

「中身を確かめるがかまわないな? もちろん内容は読まない。危険物が入っていないかの確認だ」


 俺が頷くと、警備兵は封を開けて中身をさっと確認する。

 そこに声をかけてくる者がいた。あまり会いたくない人物だ。内心舌打ちする。


「なにをしているんだ?」

「ガルフォード様。なぜここに?」

「鍛錬していたら声が聞こえてきてな」

「そうでしたか。こちらの方がシャベイ様に急ぎで手紙を届けてほしいということなので中身の確認をしていたところです」

「……君はたしかロッシェといったか。兄上の知人なのか?」


 名前を知られている? 学生としても貴族としても関わりはなかったのに。


「はい。少し前からよくしてもらっています。どうして僕の名前を知っているのでしょうか。あなたと知り合う機会はなかったはずですが」

「少しその機会があってな」


 そう言ったガルフォードは興味なさげにこちらを見てくる。シャベイとどういった関わりがあるのか聞かれたら嘘をつくしかないが、ガルフォードはそれ以上問うことなく視線を外す。

 あんたの婚約者のことを逐一シャベイに知らせていますとか、悪い噂を流してしますとか言った日にはどうなることか。

 ガルフォードをちらりと見ると落ち着いている。ということは学院であったことをまだ知らないんだな。知られるのを止めたい。カルテアが婚約者を責めていたと知ったら、カルテアになにをするか。でも情報を止める手段がわからない。きっと侯爵家から情報が流れていくだろう。それに干渉なんて俺ができるはずもない。

 去っていくガルフォードの背を見ながら対策を考えるけど、良い案は浮かばなかった。

 しばしその場で待つと、使用人がやってきて敷地内に入れてくれる。そのまま屋敷に入り、シャベイの部屋まで案内された。

 使用人がノックして、俺だけが入る。扉が閉じると、シャベイは穏やかな雰囲気から一変して真面目な表情になる。


「なんの用事だ」

「今日学院であったことは知っているか?」

「いや? なにか急ぎで知らせることでもあったか?」

「カルテアが学生を引きつれてシルベローナを糾弾した」

「なんだと? もっと詳しく話せ」

「俺も詳細を把握しているわけじゃない。タイミング悪く今日はカルテアと一緒にいられなかったからな」


 一緒にいたらなんとしても止めたのに。

 知っている範囲でいいからと言われて、話していく。


「大勢の前でシルベローナを糾弾し、それをビルフェ殿下に聞かれた。そして調査に動く、と。あとは夢か。それが本当なら子供の頃から見ていたんだろうな」


 聞き終わったシャベイが舌打ちする。

 まずいなこいつにとってカルテアが邪魔になった可能性がある。俺だけで助けられるよう動かないといけないかもしれない。


「カルテアは今後どうなる」


 少し考えてシャベイは語る。


「調査結果次第だが、まあ悪い方向に進むだろうな。俺が調べたかぎりでもシルベローナがなにか企んでいるという情報は掴めていない。となるとカルテアが偽りでシルベローナの名誉を傷つけたことになる。これまでみたいにこそこそとやるのではなく、目立つようにやったからには軽くない罰が与えられる。最悪処刑も覚悟しておけ」

「情報操作でシルベローナが本当になにか企んでいたようにでっち上げられないのか!?」

「事前にそのように動けていたら国でも騙すことはできたが、後手に回ってはな」

「くそっ」


 最悪の可能性とはいえ、死ぬこともありえるならこのまま黙って見ているわけにはいかない。


「助けることは諦めろ」

「諦められるか!」

「言い方が悪かったな。彼女の罪をなくすように動くのは無理だ。罪を負った状態でどうにかする方法で満足しろってことだ」

「そんなことがあるのか?」

「ある。まず彼女から貴族籍を抜く。そして実家から出て、貴族の監視のもと使用人として働かせる。それに加えて監視する貴族の領地から今後一切出ないと誓わせる。これなら十分な罰として認められる可能性は高い」

「どこの誰ともしれない貴族に預けるのはな。それに名乗りでる貴族なんているのか?」

「お前だ」

「俺? 俺にそんな権限なんてない」


 そう返すとシャベイは引き出しを開けて、まとめられた書類をこっちに放る。


「お前の父親の行動記録だ。これを使えば隠居に追い込めるだろ。あとはお前が後を継いで、カルテアを監視という名のもと、そばに置けばいい。ほかの男に渡さずにすんで、お前も満足だろ」

「それができるなら俺としては満足だが、どうしてそこまでしてくれる?」

「今回のことで俺にとってカルテアは邪魔になった。これ以上馬鹿をやられる前にどこか遠くへやってしまいたい。だからさっさと当主になって監禁でもしてしまえ。お前が引き取れるよう細工はしておく」


 助かる提案だ。これを使って俺がしくじらなければ、カルテアは俺だけのものに。大事な書類を鞄にしまいこむ。


「礼を言う」

「それのおかげでうちの利益も増えた。だから礼などいらん。ついでにカルテアには一つだけ恩がある。それでチャラにするってだけだ」

「恩?」

「気づかせてくれた」


 カルテアが気づかせた? 少し気になったが、詳しく語る気はないようでシャベイはなにも語らない。

 頭を下げて、部屋を出て、屋敷を出る。

 これから忙しくなる。何日かカルテアを放置することになるだろう。あの状態での放置は心配だけど、当主引退を手早くすませて迎えにいくとしよう。


 しくじった。なんで王直属の騎士がうちの領地にっ。

 もっとタイミングがずれればやり過ごせただろうに。まるで俺が父上を排除するタイミングを狙ったみたいに訪ねてきやがった。

 いくらなんでもタイミングが良すぎる。誰か俺がこう動くのを知らせたのか? だとするとそれできるのはシャベイしかいない。

 偶然って可能性もあるが、シャベイがカルテアだけじゃなくて俺も邪魔に思っていたら、偶然じゃないかもしれない。ここで邪魔されれば俺はここから動けない。騎士に父上の犯罪も含んだ行動を知られるわけにはいかない。そんなことをすれば、父上排除どころか、うちがなくなる可能性もある。カルテアを保護できなくなる。騎士の姿がなくなるまで、父上を守らなければならない。

 そうすると俺がここから動けない間に、シャベイは自分の手で確実にカルテアを処理するかもしれない。

 偶然である可能性にかけて、ここで父上を守るか。シャベイの策と考えて、カルテアを守るため学院に帰るか。

 ……そんなの決まっている! 父上よりもカルテアだ。偶然にかけて動かずカルテアがいなくなったら俺は耐えられない。

 急いで荷物をまとめて王都に帰るぞ。

誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 公平に扱われて文句いうやべーやつ。
[一言] 王家と侯爵家から罰を与えられるのに、罰が軽く成りすぎるから友人のところで受け入れさせる訳が無いな。
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