18 集合(シルベローナ 1)
やあ友人、今日も私は元気だよ。今日はたくさん客がくるんだ。特に王族が来るということで、屋敷の皆が忙しくしている。
ミーアからの手紙にスフィナ様が王族だったと書かれていて、加えてスフィナ様と兄であるビルフェ殿下も一緒に遊びに来たいから予定を空けていてくれと書かれてもいて、これは私だけで対応しては駄目だなと判断し、父上たちに手紙を見せたら大騒ぎになった。
私専属のコーラルもほかの使用人たちと一緒に屋敷の掃除に奔走していて、久々に一人で過ごす日々だったな。
ミーアからの手紙の前にカンジョ殿やファナ嬢も近々遊びにくると手紙が来ていて、どうやら予定が重なるようだとわかった。カンジョ殿たちは王族を前に緊張するかもしれないが、まあいいだろうと予定変更の知らせはださなかったよ。
あとはその日学院が休みだから、ガルフォードも来るかもしれない。となるとミーア、スフィナ様、ビルフェ殿下、カンジョ殿、ファナ嬢、ガルフォードの六人プラスついてくる使用人か。ここまで集まるのは初めてだな。
しかし私は婚約者でもなんでもないのだから、城に呼び出せばいいと思うのだが、どうしてこっちに来るのだろうか。
そんなことを自室で考えていると、ドアがノックされてコーラルがガルフォードの来訪を知らせてくる。
最初に来たのはガルフォードか。コーラルに入室許可を出すと、一緒にガルフォードが入ってきた。
「おはよう、シルベローナ」
「うむ、おはよう」
「今日ビルフェ殿下たちがいらっしゃるんだって? 皆がそわそわしていて、なぜだろうと理由を聞いて驚いたよ」
「今そのことを考えていた。城に呼び出せばいいのに、どうしてこちらにくるのだろうと」
「そういえば、そうだね。親しく付き合っていれば、遊びに向かわれることがあるとは聞いたことがある。シルベローナが殿下と親しかったとは聞いたことないけど」
「会ったのは夜会の一度きりだ。スフィナ様ともこの前一緒に演劇を見に行っただけだ」
「スフィナ様と?」
どうしてそうなったのか不思議そうなガルフォードに、この前のことを話す。
「そのときは身分を隠してらしていたのか。いろいろとわからないね。そのときに無礼を働いたのなら、城に呼び出して叱るとかしそうだし。そもそも身分を隠していたのだから、多少の無礼は流してくれるはず。よほどの無礼を働いたのなら話は別だろうけどね」
「ひどい対応をした覚えはないな。そんなことをすればミーアから注意があるだろう」
「そうだよね」
なぜだろうとガルフォードが首を傾げている。
ここで考えてもわからないことなのだろうな。当人に質問してみて、答えてもらった方がいい。
この話題は終わりにして、最近の様子を尋ねる。それでガルフォードも考えることをやめて、会話にのってくる。
いつものように学院で習ったことやどのように過ごしたのか聞くという時間を過ごしていると、再びコーラルがドアの向こうから声をかけてくる。
入ってくるように声をかけると、ドアが開かれてコーラルが用件を告げてくる。
「王族の方々とミーア様がいらしています。キショウ家の方々も到着されています。ビルフェ殿下たちは当主様と挨拶なさっていて、キショウ家の方々は応接室にお通して少しだけお待ちしていただいています」
「キショウ家の二人はこちらへ、いや方々と言ったな? もしかしてカンジョ殿とファナ嬢以外にも誰かいるのか?」
「はい。男装された方が」
「……男装? 劇団から連れて来た者だろうか」
「いえ、貴族だと思われます。気品があって所作が洗練されていましたから。キショウ家のお二方も使用人などへの対応ではありませんでしたし」
「そうか。まあいい。こっちに案内頼む」
「一応キショウ家のお二方からは忙しいのなら今日は遠慮しようかと言付かっておりますが」
「いや、会おう」
承知いたしましたとコーラルは一礼し去っていく。
「客が多い日だね」
「うむ。この人数が私を訪ねてくるのは初めてだ。キショウ家の二人は遊びにきたのではなく、男装した貴族に関連した用事だったのだろうか?」
「そこらへんは手紙に書いてなかったの?」
「書いてなかったな。急に決まったことなのだろうさ。その貴族も王族と遭遇することになるとは想像していなかっただろうな」
「きっと驚いているよ」
ガルフォードは少し同情したような表情で頷く。
すぐに廊下から足音が聞こえてきて、ドアがノックされる。返事をすると開かれ、何人も部屋に入ってくる。キショウ家組は緊張した表情だな。
男装した貴族は上手く化けたものだ。パッと見は私と同年代の少年だが、魔力の質が女のものだ。
殿下を座ったまま出迎えるわけにはいかないから、ガルフォードと一緒に立ち上がり殿下の正面に移動する。
「ビルフェ殿下、ようこそおいでくださいました。歓迎いたします」
「今日はスフィナについてきただけなんだ。スフィナの相手を頼む。それとミーアと話すように普段どおり話してほしいのだけど」
「さすがにそれは無理な話というものですわ」
実家に迷惑をかけるようなことはしたくないので、自室でも王族がいる場合は丁寧にいかせてもらう。
「そう言うのは予想できていた。だからファッテンベル家に来たんだよ。城だと絶対素はださないけど、ここでなら普段どおり話すだろうって、ミーアから教えてもらってね」
「令嬢には相応しくない口調ですので、王族の前ではさすがに頷きかねます」
「暴言を吐かなければ、罪に問うようなことはしないよ。安心していい」
ビルフェ殿下と視線を合わせる。なにか含んでいるような目ではない。私や実家を陥れようとは思ってないとみていいか、だったら。
「こうしましょう。少しの間、普段どおり話します。それで駄目だと思ったら言ってください。すぐに令嬢の口調へ戻しますので」
「ああ、面倒をかけてすまないね」
ビルフェ殿下に頷き、スフィナ様に視線を向ける。
「スフィナ様、先日から少し間があいたが元気だっただろうか」
キショウ家組や使用人から驚きの視線が注がれる。ビルフェ殿下は特に反応がないな。ではこのまま続けさせてもらおう。
「はい。お城にいる方々のおかげで健やかに過ごせております。今日は迷惑ではなかったでしょうか」
「特にそう思ってはいないよ。これといった歓迎の用意はできていないが、ゆっくりと過ごせてもらえたら嬉しい」
「はい」
じゃあ次だ。スフィナ様に一言断って、キショウ家組に視線を向ける。
「カンジョ殿、ファナ嬢もよく来てくれた。しかし二人だけではなかったのかね」
「そのつもりだったんだけどね。手紙を出したあと、こちらの方が悩んでいるのを知る機会があって相談にのってもらおうと一緒に来たんだ」
「こちらは……どうしよう」
なぜ迷うのか。ファナ嬢はおそらく男装貴族の名前を言いかけたのだろう。そのまま言えばいい……もしかして。
「紹介しようとした名前は男装時のものなのかね? それで王族の前で偽名を名乗ることになるから迷ったと」
「男装だってわかったの?」
ビルフェ殿下やスフィナ様やミーアは見抜けなかったようで驚きの表情で彼女に視線を向けた。
「そこのコーラルから男装していると知らされていた。それと魔力の質が女のものだ」
皆の注目がコーラルに集まり、それを受けたコーラルはそわそわとして居心地が悪そうだ。
「よく見抜けたね。なにか理由があるのかな」
「あ、あの、えと」
ビルフェ殿下から直接声をかけられて緊張している。助けようか、ついでに将来のためになるかもしれない布石も打とう。これを生かすも殺すもコーラル次第だ。
「私と同じく魔力の質で女だと見抜いたのでしょう。彼女は魔法に秀でた才を持っているので、そこらへんは容易にこなす」
「そんなにすごいのかい?」
少し興味を持った様子のビルフェ殿下に頷く。
「殻をすでに二回破っているし、魔法を応用してより使いやすくすることや、使用の幅を広げることを日々考えている。可能性ではあるが、本格的に魔法研究の道に進むと国の生活水準を一段階押し上げることもありえる」
「へえ」
ビルフェ殿下の興味の度合いが増したように見える。
それに対しコーラルは褒められたことでさらに注目が増し、慌てた仕草を見せて、照れた顔を伏せた。
これだけ王族や貴族に興味を持たせておけば、将来メイド以外にやりたいことができたとき、なんらかの助けになるだろう。私の研究や日常生活で世話になっているから、少しはお返しになっていればいいが。
「よければ、魔法関連の部署を見学できるよう手配しようか?」
「お、お言葉は大変ありがたいのですが、今はまだメイドとして働いていたいです。この屋敷の方々は優しい方ばかりで、お世話になりっぱなしでその恩返しをしたいのです。せっかくのご厚意を断ってしまい申し訳ありません」
コーラルはそう言って勢いよく頭を下げる。そんなことを考えていたのだな。コーラルの世話をしている者が聞けばきっと喜ぶだろう。
「そうか。見学がしたくなったらシルベローナを通して言ってくれればいつでも手配する」
「ありがとうございます!」
「うん。話を元に戻そうか。彼女の紹介で止まっていたな。本名で頼む」
促されたファナ嬢は、彼女に自分で自己紹介するかと視線で尋ねたようだ。小さく頷いた彼女が口を開いた。
「私はクリントス子爵家長子ダーナと申します。男装時はダナンと名乗っております。本日はこのような姿で御前にお目見えしてしまい、申し訳ありません」
クリントス子爵家、聞き覚えがない。ゴートル公爵の派閥に属する貴族ではなさそうだ。
「男装している理由は当主を継げるのは男のみだが、女しか生まれなかったからだろうか?」
ビルフェ殿下の質問にダーナは頷いた。
「そのようなところがあるのだな」
思わず感想を漏らす。コーラルとスフィナ様もこくこくと頷いていた。
ガルフォードが「たまに聞く話だよ」と言ってくる。
「ガルフォードの言うように聞く話ではある。クリントス子爵家とはどういうところなんだろうか。申し訳ないが聞いたことなくてな」
「殿下から謝罪など必要ありません。三つの小さな村を領地に持つだけの、どこにでもいる貴族ですので。当主は歴史ある家とは言いますが、逆にいえばそれを誇りにするしかない家です。昔はもっと領地が多かったと自慢話をしますが、先祖の失敗で国に領地を返還することになったそうです。現在では男爵家にも権力的に劣るほど小さくなっています」
「そうか。シルベローナに相談があって来たのだったな。僕のことは気にせず、話を進めるといい」
少しだけ迷った様子を見せてダーナはこちらを見てくる。
誤字指摘ありがとうございます




