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12 キショウ家の双子(ファナ)

キショウ子爵家長女ファナ

 

 侯爵家のお二人を見送って、屋敷の扉へと向かう。

 ちらりと見たカンジョの横顔は、緩んだものになっている。いつもと変わらないようにも見えるけど、双子の私にはわかる。強がりがなくなっていると。

 次期当主として弱みは見せられず、表向きはなにを言われても平然としてたけど、内心は傷だらけ。すでに女装という弱みは見せているから、ほかの部分は必要以上に良く見せなければならない。そのための努力も重ねている。ぬぐいきれない疲労も溜まっていたと思う。

 疲労回復に役立っていたのが女装だ。いや女装は趣味の一つといっていい。着飾るのが好きで、可愛い小物を集めるのが好きなのだ。昔から女のような兄だった。趣味嗜好が私とよく似ていて、同じものを取り合ったこともあった。

 両親や教育係はその嗜好を変えようとしたが無理だった。間違いというわけではないのだから、矯正は困難だろう。カンジョの中では今が正常なのだ、私が可愛いものや綺麗なものが好きなように、カンジョが女らしくあることはもともと備わっているものだ。多少は私の影響もあるとは思う。でも私という存在がおらず、一人っ子だとしても女が関心を向けるものにカンジョは目を奪われていただろうという確信がある。

 カンジョは周囲から間違っていると言われて悩んでいた。誰にも悩むところを見せてはいないつもりだったらしいけど、一緒にいる私はたまに見ることができた。そんなときは気晴らしにならないかと、カンジョの近くでわざとはしゃいだものだ。

 そんなカンジョから少し緊張が抜けている。あのお二人のおかげだろう。

 ウェルオン様は趣味を打ち明けられたときは驚いていたけど、それでも離れることはなかった。それがカンジョにとってとても嬉しかったことであると簡単に想像がつく。これまで友人には誰にも教えることがなかったのに、ウェルオン様には教えた。それだけ大切な友と考えていたんだろう。そのウェルオン様が拒絶しなかったのだから、そのときの喜びは私が想像できる以上のものだったはず。

 そのウェルオン様からの提案で連れてこられたシルベローナ様。とても変わった目をなさっているけど、可愛さを強調するアクセントよね。これまでに見た中で最上位の可愛さで、見ているだけでも楽しかったわ。いつかお泊りしてくれないかしら。今回はできなかった着せ替えに、お風呂に、ベッドで一緒に寝て夜をともに過ごすの。想像するだけで楽しそう!

 そんなシルベローナ様が、カンジョの悩みを解決できるかもしれない道を示してくれた。あんな幼いのに、すらすらと考えを述べることができるのはすごいとしか言えないわ。可愛さも相まって無敵よ。

 受けたこの恩は忘れてはいけないわ。いつかきっとシルベローナ様が困ったときに助けにならないとね。


「なにを考えているんだい」

「シルベローナ様可愛かったなーって。今後とも長くお付き合いしたいわ」

「あまり迷惑をかけないようにね」

「わかってるわよう」


 話しながら玄関を開けて、中に入るとメイドが話しかけてくる。お父様が呼んでいるらしい。

 仕事を終えてリビングにいるらしいのでそちらへと向かう。


「呼びましたか、父上」

「うむ、まあ座れ」


 椅子を勧められて、カンジョの隣に座る。


「お客人は帰られたようだが、失礼はなかったか?」

「特に不満のない様子でした」

「美少女との触れ合い堪能しました」


 私の感想にお父様は少し困った表情になり、カンジョに顔を向ける。


「本当に失礼はなかったのだな? 本当なのだな?」

「ええ、心配する気持ちはよくわかりますが、ファナは暴走することもなく、シルベローナ様も嫌がってはいませんでしたから」

「それならいいんだが」


 お父様はほっとした様子で溜息を吐く。私だって相手が嫌がることをしないわよ。許可をもらえたら遠慮もしないけど。


「それで二人を呼んだのは失礼があったか聞くだけではない。シルベローナ様発案の演劇についてだ」

「すぐに動くのですか」


 兄上の質問にお父様は首を横に振る。すっごく楽しみだから待ち遠しいのだけど。


「まずは都合の良い劇団を探すところから。次に劇団の者たちにやれそうか聞く。新しいタイプのものだから、歴史のある劇団は避けた方がよいかと考えている。伝統から外れると言って拒否される可能性がある。新たな方向性を考えている可能性もあるが、あちら主導で行われると利益が減りそうだしな。狙いめは真面目にやっているが、あまり経営が上手くいっていないところか。こちらがやろうとしていることを知られたくないから、多くの劇団に声をかけて回ることはしない。こんな感じで考えている」

「……実際に舞台が行われるのはわりと先になりそうですね」


 おおまかな流れを考えたらしいカンジョにお父様は頷いた。


「そうだな。順調にいっても、やろうとしていることに合う演目探しや練習など時間が必要とされそうだ」

「すぐにはできないのね。残念」


 まあ我慢した分だけ実現したときの感動はひとしおよ、きっと!


「新しいことはしっかり時間をかけて準備するくらいでちょうどよいだろうさ。いい加減にことを進めるとあちこちと破綻して時間と資金の無駄になる。ある程度進んだらシルベローナ様をお招きして意見を聞きたいな。専門ではないとは言ってたが、アイデアを出してきた時点でそれなりのものは頭の中にあると思う」


 確かに細かな部分があるかどうかわからないけど、ぼんやりとしたものならありそうね。改めて思うけど、役者でもないあの年齢の子がよく女装劇男装劇って思いつきができたわよね。私も貴族として教育を受けていたから、庶民の子供よりできはよかったけど、あそこまで考えて話すことはできなかったわ。すごいよね。そこを不気味に思う人もいるかもしれないし、お茶会とかで会ったときはそこらへん注意して守るように動こうかな。恩返しになるし、可愛い子と一緒にいられるっていうこのお得感。良い考えだと思う。


「そういえばシルベローナ様はどういった方なのだ? 私は短時間しか話していないから年齢よりも賢いということくらいしかわからないが」

「可愛く賢く、将来絶対美人になる子!」

「それはわかっとる。聞きたいのは性格面などだ」


 呆れた表情になったお父様に、カンジョが答える。


「老成ってのは言いすぎかな、落ち着いた子。僕が女装していると知っても驚きはしたけど、拒否とかそういった感情は微塵もださなかった。自分も変わり者だからと言ってましたね。懐の深い子かなって印象です。悩みが解決できそうな道を示してくれて感謝しかない」

「なるほどなぁ……ほしい。カンジョの嫁として迎え入れられないものか」

「あ、それ無理。公爵家の婚約者がいるって聞いたから」


 カンジョの婚約者になれば頻繁に会えるって思って聞いてみたら、すでにいるとウェルオン様から返ってきた。残念だわ。


「ガルフォード様と婚約していて、互いに気に入っているって話だから婚約破棄もなさそうだってウェルオン様から聞いたよ」

「すでにいるのか、それも公爵家とは。触れると火傷じゃすまないし諦めよう。演劇の件を通して、付き合いを深めるとするか。二人ともウェルオン様とシルベローナ様に今後も失礼などないようにな。特にファナ」


 名指しして念を押してこなくてもわかってるわよ。恩を仇で返すつもりなんかないもの。

 シルベローナ様との再会や演劇など、楽しみなことが多い。未来が眩く輝いて見える。素晴らしい人生を過ごせるって確信できるわ。

台風が近づいてきて風が少しずつ強くなっています

直撃する地域の方は強風への対処を怠らないようお気を付けください

うちも直撃コースで戦々恐々です

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