13 コーラルの思考
シルベローナ専属メイドとなって数ヶ月、何事もなく以前どおりの生活を続けることができている。先輩たちからいろいろと不安になるようなことを吹き込まれたけど、何事もなく過ごせて安心している。その先輩たちはいまだに私を心配して、大丈夫だと言っても心の底からは納得していないらしい。思い込みってちょっと怖いな。いい人たちなんだけど、シルベローナのことに関しては疑り深い。
シルベローナが変わり者っぽい行動を続けているから無理もないんだろう。相変わらず研究者じみた行動だからね。もっと子供らしい趣味を楽しむ姿を見せれば、先輩たちも見方を変えるのかもしれない。わざわざ使用人を納得させようとするシルベローナが想像できないから、今後もこのままなのかもしれないなぁ。
長くはないが、これまでシルベローナと接してきて思う。原作が始まっても知ってるそのままにはいかないんじゃないかと。
シルベローナの性格が違っていて、裏ボスと思われる行動をとりそうにない。トップになりたいとか欠片も思ってなさそうだし。そんな暇があるなら、研究をやりたいって今のシルベローナならば言うはず。
これならこの家が取り潰しになることはないだろうし、恨みを買うこともないと思う。つまり私の将来も安泰! このまま勤め続けるか、良い人をみつけるかはわからないけど、失態を犯さないかぎり不幸にはなりそうにない。やったね。ぜひともシルベローナにはこのままでいて、穏便にガルフォードと結婚してもらいたい。それが誰にとっても幸せだと思う。
そのシルベローナは今日はお昼からウェルオンとでかけている。ウェルオンの知人に会いに行っているらしい。シルベローナを連れていくということは、その知人も変わった人なのかな。
私は留守番でシルベローナの部屋掃除だ。事前に聞いてある、捨ててはいけない物に注意しつつ掃除を始める。
しっかりと仕込まれた掃除技術を発揮して、手を動かしつつ頭は別のことを考える。
考えるのは原作キャラのことだ。
まずはガルフォード。立場は原作となにもかわっておらず、性格がやや前向きになっていた。
原作では学院を卒業していて、シルベローナの手配した仕事の手伝いなどをやっていた。裏向きの仕事をそうと知らずに手伝っているのだ。
一応攻略対象であり、攻略最高難度キャラでもある。ガルフォードはシルベローナが婚約者ということに不満などなく、シルベローナもゲーム内で婚約に不満など言っている姿を見たことがない。つまり主人公が寝取るという形になる。ガルフォードはシルベローナに必要とされているという依存に近い好意があり、主人公はガルフォードに自信をつけさせ自立させるという攻略になる。
主人公とガルフォードの出会いは、学院にいるシルベローナにガルフォードが会いに来たとき、廊下でぶつかるという切っ掛けだ。その後学院内や学院外で出現するようになる。
攻略を開始するとすぐに差出人不明の脅迫状が主人公に送られてくる。出したのはシルベローナであり、攻略を進めるとどのルートよりも激しい邪魔が入る。このことからシルベローナもガルフォードを本気で愛しているのではないかと考察されているが、製作会社からの発表はなかった。噂では発売予定だった画集にそこらへんが載っているかもといわれていた。地球最後の日で、発売どころではなかったけどね。
ガルフォードグッドエンドでは、愛した人に正しい道を進んでほしいとガルフォードがシルベローナのしてきたことを自白し、二人とも国に捕まるというもの。シルベローナは処刑が決まる前に獄中で自殺し、ガルフォードは罪を償ったあとで帰ってくるのを待っていた主人公と結婚する。
バッドエンドでは、ガルフォードと主人公が殺されて下水道に流され、シルベローナも入水自殺というものだ。
シルベローナが自殺するエンドはこの二つのみで、ガルフォードを失ったことに耐えきれなかったのではとプレイヤーたちは話していた。
シルベローナがトップを狙うなら、王子との結婚も有効策であったはずだが、それを実行しなかったのはガルフォードの存在があったからだとも言われている。
原作ではないこちらのガルフォードもシルベローナに好意を向けているけど、依存というふうには見えない。主人公に攻略されていった方向性を感じる。自立してシルベローナに並び立ちたいという気風かな。原作はシルベローナの後ろを喜んでついていく感じだった。
次はミーア。原作ではビルフェ王子と婚約者になっていて、こちらではまだなっていない。子供ながら原作の勝気な性格はすでに面影がある。
原作はシルベローナと同じ学年であり、公爵家の力で婚約者の座を得ており、未来の王妃として学んでいる最中という設定だった。
ビルフェ王子の攻略ルートにでてくるライバルキャラであり、シルベローナによって暴走させられる。
暴走の内容は、主人公を呼び出しけなす、二人の会話に割り込む、ビルフェ王子の個人の時間を削るなどなど。
シルベローナはミーアを心配する装いで接近し、偏った情報を与えて暴走させて公爵家や王族の様々な情報を得るのだ。
主人公はミーアの暴走にフォローを入れつつ、ビルフェ王子と交流していくことになり、ビルフェ王子は穏やかな時間を手に入れる。その交流風景を見てミーアは自分に足りないものを自覚していくことになる。
それが支え癒し励ますという、相手に寄り添い思いやることだ。これまでミーアは自分の幸せを追求していて、ビルフェ王子と一緒に幸せになるという意識が低かった。そのことを理解してミーアはビルフェ王子の幸せを考えて、自ら身を引く。
ストーリー終盤で主人公とビルフェ王子がシルベローナの企みを暴くときも、冷静さを取り戻したミーアは自分とシルベローナの会話などを話して情報提供し、シルベローナの排除に手を貸すのだ。
こちらのミーアは幼くしてすでに思いやるという意識を得ている。実行はまだ難しそうだけど、その意識があるだけでもビルフェ王子は幾分か楽になると思う。主人公と出会う頃にはビルフェ王子は原作よりも健やかに過ごせていそうだ。これは主人公の勝ち目相当に低いな?
この二人が変わるきっかけが間違いなくシルベローナだ。良い方向に変わってると言っていい。
このことからもしかしてこのシルベローナは原作を知っている転生者なのかと思った。原作キャラにグッドエンドルートの情報を与えて、皆が幸せになるよう誘導しているのだと。
でも私と同類の感じがしないのよね。暮らしに関しても、現代日本で暮らしていたなら生活をもっと便利にって思いそうなものなのに、ここの生活に不便そうな様子はない。地球の情報を口にすることもない。だから転生者という確信がもてない。いっそのこと腹を割って話そうかなと思ったけど、違っていたときの言い訳が思いつかず聞けないでいる。怪しまれてこの家から追放とか勘弁。居心地の良いここから離れたくない。
シルベローナが書いているものに地球の言葉とか書いてないかなぁ。うっかり机に出しっぱなしにされていたら確認できるんだけど、しっかりしまっているから無理だ。勝手に主の書類を漁って中身を見るとかばれたらクビにされるし。
今後のシルベローナの行動でわかるといいんだけど。
そんなことを思っていると、シルベローナが帰ってきたのが開けている窓から見えた。
一部屋とはいえしっかりやると時間があっというまに流れるわね。先輩方はここの掃除をやりたがらないし、イベルさんもそういった先輩方に任せることもない。そんなわけで以前は熟練メイドさんと一緒だったけど、最近は一人でここの掃除を任されるようになっている。なにか盗んだり馬鹿をやらないって信頼されてるってことよね。さっき考えた書類の盗み見なんてできやしない。信頼を裏切らないように頑張らないと。
ふんすと気合いを入れていると扉が開いて、シルベローナが入ってくる。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「お掃除ご苦労様。邪魔なら出てるけど」
こういう気遣いするところを先輩たちも見る機会があればねぇ。
「いえ、あとは床にまとめた塵などを捨てるだけですので」
「そう。それが終わったらお茶をお願い」
「承知いたしました」
ささっとゴミを捨ててこよっと。
ちりとりにゴミを移動させて、換気用に開けていた窓を閉めて、部屋を出ていく。ゴミを捨てて、お茶を準備して部屋に戻るとシルベローナは本を読んでいた。ガルフォードから借りている本だった。
「お嬢様、お茶をお持ちしました」
「ありがとう」
礼を言って、本に栞を挟んで置き、お茶を飲み始める。
「お嬢様。本日はどちらへ? ウェルオン様とでかけられるのは珍しいですよね」
「ん? 兄の友人と会ってきた。キショウ子爵家のよく似た男女の双子だったよ。一卵性の男女は珍しい。今後も会うことになるだろうし、コーラルも彼らと顔を合わせるだろう」
キショウ家の双子ね、覚えておこう。
んん? キショウ家? なにか聞き覚えがある
「どういった方々なのでしょうか。失礼があってはいけませんので、注意すべき点があるなら事前に教えていただきたいのですが」
「ファナ嬢は可愛いものや綺麗なものが好きだそうだ。兄のカンジョ殿は……他言しては駄目だからな? 彼は女装していたよ。生まれついての性質が女性よりなのだろうな。そういった服装の方が落ち着くのだと思う。だから馬鹿になどしてはいけないよ」
「承知しました」
返事が震えてはなかっただろうか。思い出したのだ。カンジョ・キショウといったら剣術教師ルートの殺人犯だ。血まみれの麗人と呼ばれ、夜に女装して出歩き、女ばかり狙って殺していた。
剣術教師は二周目から攻略可能キャラで、隠しキャラという扱いになる。
話の流れはたしか、主人公の知人が襲われて、犯人捜しを始めるんだったはず。学院も生徒が襲われたことで兵に調査協力して犯人を追うことになる。その流れで剣術教師に主人公はみつかり、止めるように説得されるのだけど主人公は嫌だと断る。その強情さに放っておくと危ない場所でも一人で探し回って危険だと判断して、剣術教師が付き添うことになる。
こうして調査を一緒に進めていく過程で、二人は絆を育んでいくのだ。
兵が集めた情報、主人公たちが集めた情報で犯人の体格や去っていった方角などがわかり、わかったことを元にさらに調査を進めて、やがてカンジョにたどり着く。
子爵家に乗り込むが逃げられ、夜で暗かったこともあり見失う。主人公たちは子爵家に戻り、そこで行先のヒントでもないか探り、子爵一家が殺されて地下に放置されているのを発見する。のちにわかるが、カンジョが最初に殺したのは妹であるファナ。次に両親だった。子爵家の使用人たちは彼らがいなくなったことを騒ぐことはなかった。殺される前に隣国の親類から呼ばれていることを知っていたのだ。カンジョはそれに殺人のタイミングを合わせた。
主人公たちは死体のほかに、何者かとカンジョが手紙のやりとりをしていたことを知る。相手の名前はわからなかったが、協力者がいることはわかり、その相手のいる場所に逃げたのだろうと考える。
その協力者がシルベローナだ。学院でカンジョが不安定な精神状態であることを見抜き、接近して相談に乗るふりをしてタガを外したのだ。その結果、カンジョは性別の不一致からくる長年溜めこんだストレスを爆発させた。
殺された女の中には、シルベローナにとって邪魔な貴族の娘や妻がいた。彼女たちの死によって被害者の家族は精彩を欠き、シルベローナが動きやすくなる。カンジョはいいように利用されただけだった。
主人公と剣術教師に追いつめられたカンジョはいろいろと白状して自殺する。やりたいようにやったことでこの世に未練がなくなったのだ。主人公たちがどうしてこのようなことをと聞いてきたので、知りたいならと盛大にばらして満足して死んでいった。これによりシルベローナのことがばれて逮捕されることになる。
ちなみにシルベローナとカンジョの手紙を運んでいたのがガルフォードだ。
今日のシルベローナとカンジョの出会いは殺人犯誕生フラグではないかと焦ったけど、今のシルベローナが唆すというのは考えにくい。教えてもらったとおり、ウェルオンの紹介で会っただけなんだろう。というかそうであってほしい。おかしなことはしないでくださいね、頼みますよお嬢様。
真剣に祈っていると、シルベローナにちょこんと首を傾げられた。ああもうっ可愛いなこのやろう! そのまま人畜無害に育ってちょうだい。私のためにも、あなたのためにも、ほかの人のためにもね。
誤字指摘ありがとうございます
台風による被害はありませんでした、よかった
風がうるさくて三時間くらいしか寝れなかったけどね




