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30.アナスタシアの探し人

 アッシュの右側にはアッシュの腕を取って時折アナスタシアを威嚇するルキが。左側にはアッシュの手を握って上機嫌に歩くシャロが。そんなシャロの左側に畳んだ日傘を手にして歩くアナスタシアがいた。


「そういえばアナスタシア」


「何かありまして?」


「何時から俺たちの会話を聞いてたんだ?」


「あら、何のことだかわかりませんわね」


 アッシュの問いにアナスタシアは困ったような表情を浮かべてそう返した。

 それに対してルキが非常に胡乱げにアナスタシアを見ながら口を開く。


「俺たちは王都から真っ直ぐ街道を進んできたんだぞ。それなのにどうして王都まで一緒に、何て言うんだよ」


「あ……そういえばそうですよね……王都から街道を進んできた私たちを見ていたならおかしいですよね」


「ってことで、何時から俺たちの会話を聞いてたんだろうな」


 もはや言い逃れをすることは出来ない。そんな状況を悟ったアナスタシアは軽く肩を竦めてからその問いへの答えを口にした。


「この前にしたのと同じ臭い。という辺りですわ」


「最初じゃねぇか!!」


 アナスタシアは最初から会話を盗み聞ぎしていたらしく、それについてルキが吠えたがアナスタシアは気にした様子はなく何処吹く風だった。


「えぇ、最初からですわ。ですから王都までご一緒させていただいても? となったわけですわね」


「盗み聞きとは趣味が悪いな」


「あら、これくらいは普通だと思いますわ。同類、ですものね」


「あー、それは確かに普通に趣味が悪いな」


「えぇ、本当にそうですわ」


 そんな言葉を交わして何処か楽しげに会話をするアッシュとアナスタシア。

 勿論その様子を見たルキとシャロは面白くない。ルキは大好きなアッシュが何処の馬の骨とも知れない相手と仲良くしていることが気に入らない。シャロは自分だって仲良しになりたいのに、どうして会ったばかりの人と、と考えていた。

 そんな二人に気づいていないアッシュとアナスタシアは更に言葉を重ねる。


「で、王都には何の用だ? 物見遊山、ってわけじゃないだろ」


「物見遊山かもしれませんわよ?」


「ないな。そんな物を持って王都に来るとか、わかる奴が見れば面倒なことになるぞ」


「ということはアッシュさんはこれが何かわかる、ということでして?」


「中身はわからない。でもその外観には覚えがあるってだけだ」


「なるほど……そういうことでしたのね……」


 アッシュの言う覚えがある、というのはハロルドの依頼を受けて帝都に足を踏み入れた際にこの世界にそういった物があると目にしていた。

 だからこそもし王都にアッシュと同じようにそのケースを見たことがある人間がいた場合はアナスタシアが帝都に縁のある人間だと判断されてしまう。

 王都と帝都は現在無期限の休戦状態となっているが敵対していることに変わりはないので、そのような判断がされた場合は非常に面倒なことになる。

 そして、それがわからない程アナスタシアが考えなしだとは思えないアッシュは物見遊山ではなく、何らかの目的があって王都へとやって来たと半ば確信していた。


「まぁ……人探しですわ」


「人探しか……」


「えぇ、特徴としては……外道ですわね、あの方は」


 特徴として真っ先に挙げられるのが外道だ、という言葉を聞いてもしや、とアッシュは一つ思い至ることがあった。ルキの言っていた性根の腐った人間の臭い、というのはアナスタシアの探している人間のことなのではないか、と。

 だから自分たちについて王都へ、と考えたのかもしれない。とも考えたがそうした話はしていなかったのでそこは関係ないか、とアッシュは考えを改めた。


「そうか……そうか。そいつは関わり合いにはなりたくないな」


「まったくですわ。とはいえ放っておくことも出来ませんの」


 アッシュがそんなことを考えながら言葉を交わしていると、アナスタシアは小さくため息を零してからそんな言葉を口にした。その表情と様子からアナスタシアは心から放っておくことは出来ない、と考えているようだった。

 ただそこにどのような想いがあるのか、それまでは推し量ることは出来なかった。ただアッシュにわかったのはどうにも良い感情は抱いていないようだ、ということだけだ。


 と、そんなことを考えているアッシュだったがあることを失念していた。

 自分が誰と誰に挟まれて、その二人がどんな感情を抱いているのか。ということだ。


「何で! その! デカ女と! 楽しそうに! してんだよ!!」


「二人だけで! 楽しそうにするのは! とってもとっても! ずるいと思います!!」


 ほぼ同時にアッシュを左右からガッと衝撃が襲った。言うまでもなく、ルキとシャロだ。

 ただ片方はいつものこととして、片方は非常に珍しい行動を取っていた。具体的に言うのであれば、両隣から飛び掛かるようにして抱き着いた。

 もしこれがどちらか片方からであれば衝撃は多少なりと逃げていただろう。だが運の悪いことに今回は左右からほぼ同時に、だ。つまり衝撃は逃げることなく、その全てがアッシュを襲った。


「イタクァッ!?」


 完全に油断していたところに綺麗に入った一撃はアッシュに大ダメージを与えることに成功した。


「アッシュはもっともっと俺に構うべきなんだよ! そんなデカ女は放っておいてな!!」


「ルキさんの言う通りです! とは言いませんけど私たちの方を構うべきだと思いますよ!!」


「そう、か……そうか……でもな、これはない、だろ……」


 痛みに耐えながらルキとシャロへと言葉を返すアッシュだったが、そんなことは関係ないとばかりに二人は更に言葉を続けた。


「デカ女の相手してるアッシュが悪い! っていうか妙に仲が良いのが気に入らねぇ!!」


「そうです! 実は以前からの知り合いではないのかと思えるくらいに仲が良い気がします!」


 ぎゅうぎゅうと抱き締めてくるというか締め付けてくるルキとシャロにこれは何を言っても意味がないのでは? と思いながらアッシュはアナスタシアへと目で助けを求めた。

 しかしアナスタシアは自然な様子で視線を三人から空へと移し、日差しが眩しい。とでも言いたげに手で影を作り、目を細めていた。


「空が青いですわね……それに眩しい……」


「アナスタシアァ! 露骨に見えないフリするな!!」


「あら、これはきっと鳥の囀りですわね」


 完全に関わらないつもりのアナスタシアはアッシュの言葉を鳥の囀りだと言って右から左へと聞き流していた。だがふと何かに気づいたように空に向けていた視線を地上に戻し、遠くを見る。

 それに気づいたアッシュはアナスタシアの視線を辿って同じように遠くへを見るとそこに人影を見つけることとなった。

 しかしそれは僅かに光を発すると共にふっと姿が消えてしまった。一体あれは何だったのだろうか、とアッシュが考えながら何となしにアナスタシアを見るとアナスタシアは険しい目つきで先ほどまで人影がいた場所を睨みつけるように見ていた。


「アナスタシア?」


「……ふぅ、どうやら王都に来たのは正解だったようですわね……」


 小さく零された言葉を聞いたアッシュはあれがアナスタシアの探していた人間であると理解した。そしてそれはルキも同じだったようで、いつの間にかアッシュを締め付ける力を緩めて同じように人影があった場所を見ていた。

 外道で性根が腐った人間。という認識をしているアッシュとルキは厄介事の気配に辟易とし、アナスタシアは一つ覚悟を決めたようにすら見えた。


「むぅー……聞いてますか、主様!」


 そんなことには気づいていないシャロは頬を膨らませながらアッシュを見上げてぷんぷんと怒っていた。

 するとつい、と言った様子で全員の視線がシャロへと集まる。そしてそんなシャロの様子に毒気が抜かれてしまったようでアッシュは苦笑を漏らし、ルキは軽く鼻で笑い、アナスタシアは一つ吐息を零した。


「あぁ、わかったわかった。帰ったら構ってやるからさっさと戻るぞ」


「言いましたね! 約束ですからね!!」


「あ、おい! それならチビよりも先に俺だろ!!」


「ダメですー! 主様は私のことを構ってくれると言ったんですから、私が先です!!」


 そうしてキャンキャンと吠え合うルキとシャロの間から器用に、そしてするりと抜け出したアッシュは数歩前に出た。


「そういうのは戻るまでにちゃんと決めて置けよ」


「おう! 当然だ! まぁ、俺が一番になるけどな!」


「ですから私が先ですってば!」


 変わらぬやり取りをするルキとシャロの姿にいっそ微笑ましさすら感じながらアッシュが先導するように歩けばその後ろを二人が急いで追いかける。そして一番後ろにはアナスタシアが続いた。


 アナスタシアにとっては先ほど出会ったばかりのアッシュは自分と同類だと言っていた割には随分と穏やかに生きているのだな、と感じていた。

 こうして子供二人に好かれ、本人に自覚はあるのか知らないが楽しそうに笑み、そして何よりも自分でも感じ取れるほどの善性に満ちた神性が確かにあった。

 本来であればあり得ないようなことだが、アナスタシアにはそういうものだとすんなりと受け入れることが出来ていてそれが羨ましく思えていた。どうして彼にはこれほどの神性があるのに、と。

 だがその考えを振り払うように小さく頭を振ってから、何事もなかったかのように足を速めてアッシュの隣へと並んだ。


「あぁ! アナスタシアさんが主様の隣に!!」


「はぁ!? 何でデカ女がアッシュの隣なんだよ!!」


 するとすぐさまそれに反応したルキとシャロが吠えるとアッシュとアナスタシアの間に割り込むように突撃した。それを予想していたアナスタシアはひらりと華麗にアッシュから距離と取る。その際に少しだけアッシュの服を引いていた。


「は?」


 するとどうなるのか。答えは突撃してきたルキが無防備な状態のアッシュに激突する、だ。


「モルディギアンッ!?」


 アッシュは謎の悲鳴を上げてルキに薙ぎ倒され、ルキなそんなことは気にせずアッシュをぎゅうぎゅうと抱き締めながら顔を上げてキッとアナスタシアを睨んだ。


「アッシュはお前なんかに渡さねぇからな!!」


「それは良いのですけれど、アッシュさんが無事には見えませんわね……」


「ルキさん! 主様が何だか死んじゃいそうになってますよ!?」


「え?」


 アナスタシアとシャロの言うように現在のアッシュはどうにか弱々しい呼吸を繰り返しながら力なくぐったりと倒れていた。


「アッシュ!? おい、誰にやられたんだ!?


「ルキさんですわね」


「ルキさんですよね」


「お……前だろうが!!」


 天然なのかわざとなのか。そんな言葉を口にしたルキに対して三人で同じ答えを返した。ついでに言えばアッシュは先ほどまでの虫の息の様子から一転してルキを叱るように声を上げていた。


「俺!?」


「言われなくてもわかるだろ!! よーし、ルキには甘いって自覚はあるけどそろそろ一回説教しないといけないよなぁ!!」


「げっ!?」


「よし、シャロ! アナスタシア! さっさと王都に戻るぞ!! ルキは帰ったら説教だからな!!」


「え、あ、ち、チビ! デカ女!! アッシュを止めてくれ!!」


「自業自得ですわねぇ……」


「ルキさんが悪いので、止められませんよね」


「マジかよぉ!」


 情けない声を上げるルキの首根っこを掴んだアッシュがずるずると引きずるように王都への道を進んでいく。

 シャロとアナスタシアは互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべてからそんなアッシュとルキの後を追った。


アナスタシアも話に関わるヒロインですけどロリではないですね。

これはレギュレーション違反なのでは……?

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