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ティーナの物語5
冬が来て、羊を放牧するのは終わった。
雪が降る。
もうあの場所には行けない。
ティーナは、家の仕事をして、幼い妹や弟の世話をして過ごした。
あのひとときは…
夢だったんだ。
そう思うようにした。
あんなに間近で見つめたゼノの顔を忘れる訳ないのに。胸を締め付ける気持ちを見ないようにした。
そんなある日。
Γ私が、結婚?」
「ああ、兄さんの工房の仲間なんだが、私と彼の親が友人でね。」
父親が、機嫌良く話す。
「ティーナのことを話したら、相手もぜひにと…」
固まる娘を見て、父親が慌てた。
「……。」
「勝手に進めて悪かった。その、お前は気立ての良い子だから、つい娘自慢しただけなんだよ。嫌なら断っても…」
静かにティーナは首を振った。
「……一度、相手の方に会ってみます。それから…考えても…」
貧しい家庭だ。
私が嫁いで家を出たら、少しは楽になるんじゃないだろうか、そう思った。
勿論、家族は誰もそんなふうには思わないだろうが。
それに…
もう、忘れよう…忘れなければ…
会えただけでも、幸せなことだった。とてもありがたいことだったのだ。
ティーナは、相手の男と会い、春に結婚することを承諾した。




