ティーナの物語6
冬が終わりを告げ、雪が溶け、大地に芽吹く緑を見る頃。
ティーナは、丘のあの場所へ行ってみた。家具職人の妻になれば、もうここへも足を運ぶことはないだろう。
自らの気持ちに決別するために、最後のつもりでティーナは山道を歩いた。登って行くにつれ、諦めの気持ちに期待が交じってしまい、自然足が速まる。
自分の愚かさを笑おうとするのに、どうしても唇が弧を描いてくれない。
やっとのことで辿り着き、息を切らし、顔を上げたそこに…
彼はいた。
佇んで、眼下に広がる景色を見下ろす姿は畏怖を抱かせるほどに美しく、遥か遠い至高の存在だと感じさせる。
最初の時のように、笑ってはいなかった。どこか挑むような目をしていた。
ゆっくりと振り向き、ゼノは手を伸ばして言った。
「ティーナ…………おいで。」
「嫌よ。」
彼女がそう言うと、ゼノは手を下ろし、顔を歪ませた。
「どうして何も言わずに消えたの?私、ずっと待ってたのに…。」
胸に溜まった気持ちが、言葉となって出た。
「……………」
「ねえ、私何か気に障ることを言った?ずっとわからなくて、考えてたら何だか腹が立ってきて…」
無言で佇む彼を睨む。
「ずっと!待っていたのに!…会いたくて…ひどいよ、ゼノ…」
こんなこと言うはずじゃなかったのに。彼を見たら止まらなかった。神を責めることなど、自分ごときが赦されるはずがないのに。
ゼノは足を前に出した。
ティーナに真っ直ぐに近付いた。
彼の両手に包まれそうになり、ティーナは一歩後ろへ下がった。
「わ、私、結婚するの。だから…」
だから、別れを…
「知ってる。」
ゼノはティーナを迷わず捕まえ、ぎゅと抱き締めた。
「もう貴方を癒せない…私、怒ってるんだから、綺麗な魂なんかじゃない!」
押し退けようとするのに、ゼノはますます強くティーナを抱き締め離さない。
「離して。」
「ティーナ、私は人間を愛してる。綺麗な魂も愛してる。」
目を瞑り、呟く彼は苦しそうだった。
「でも、それ以上にお前を…お前だけを愛してる。」
「…え?」
意味がわからず、ゼノを見上げた。
黒い瞳が熱っぽく彼女を見つめていた。




