籤引の確率ⅰ
ゴールデンウィークも明けた五月末、皆本たちは校外学習へ向かうべく、バスで移動中である。
隣には相澤。姫路は平瀬の隣に座っているため席は遠い。
「早速今日の打ち合わせするぜ」
「本当におれって役に立つのかな? お前らはプロかもしれないけどおれは素人だよ?」
「知らねぇよ! 姫路がいいって言ってるんだから大丈夫だ!」
皆本は相澤の無責任さにカチンときた。しかし彼が守るのは平瀬であって皆本ではない。自分の身は自分で守らなくては。
「校外学習は班行動だ。うちのクラスの委員長は班をくじ引きで決めるらしい。昨日の放課後作ってた」
七組の委員長は人の見ていないところで努力する人間のようだ。彼の場合好きでやっているかもしれないが。
「平瀬と同じ班にならなければ護衛は困難だね」
「さらにいうとエージェントが平瀬と同じ班になるのは避けたい」
「七組の人数は四一人、班の構成人数は六人、おれたちは三人、つまりおれたちの誰かが平瀬と同じ班になれる確率はざっと三七パーセントってところか」
「決して低い数字ではないぜ。十分可能だ」
バスが減速する。心臓は破裂しそうなくらい波打っていた。
バスを降りる。皆本は体を伸ばした。
今日が平日だからか遊園地にはあまり客がいなかった。もしかしたらいつもいないのかもしれない。
つまり皆本の高校が貸しきっているようなものだ。
「じゃあくじ引きするからみんな集まって!」
元気よくそう叫んでいるのは七組の委員長である。彼はいつでも楽しそうである。
「皆本さんちょっと」
姫路は小声で皆本に耳打ちした。平瀬が近くにいるからだろうか。
「平瀬さんに先にくじを引いてもらいます」
「なんで?」
「先に引いてもらわないと細工のしようがありません」
「細工するのかよ」
「引き当てたくじを前もって用意したくじにすり替えるんです。そうすれば平瀬さんと確実に同じ班になれます」
「そんなことしたら平瀬の班が一人多くなるからすぐばれちゃうよ」
「問題ありません。あの委員長のことですからくじの数が多少前後していたとしても誰も不審には思いません」
皆本は委員長を一瞥した。否定できない。
「五班だぜ!」
「ちょっとなに勝手に引いているんですか! 相澤さん!」
「姫路の話長いからだぜ」
悪びれもなく素のリアクションを返した相澤に対して、姫路は完全にあきれ返っている。
今度は平瀬がくじを引く。折りたたまれている紙を開く平瀬。
「平瀬さんは何班でした?」
姫路がそれとなく確認を取った。
「わたしは二班のようね」
「つまりおれは平瀬とは同じ班ではないのかよ」
相澤は手を地面について大げさに落ち込んでいた。
「次はおれが行く」
皆本が前に出ると委員長が眩しすぎるほどの笑顔でくじ引きの箱をこちらによこした。
くじ引きの箱に手を入れる。紙の感触がくすぐったい。
どの紙にも特に違いはない。当たり前のことだが。
これで二班を引き当てることができなければ?
もしかすれば今日平瀬が死ぬかもしれない。
同じ班になったところで皆本にできることはないかもしれない。
それでも。
皆本は一つの紙を掴み、箱から手を引き抜いた。折りたたまれた紙を開く。
「何班ですか!?」
「何班なんだよ!」
そこに書かれていた数字は・・・・・・2。
「二班だ!平瀬と同じ班だぁぁぁぁぁぁ!」
皆本は叫んだ。他のクラスかも注目を集めるほどに。
みんな笑っている。
「なにやってるんですか皆本さん」
「こっちまで恥ずかしいぜ・・・・・・」
「申し訳ない・・・・・・。嬉しかったもんで」
目の端で平瀬のほうを見ると目が合った。しかしすぐにそらされてしまった。
「なんだよあいつ」
「あっわたしも二班です」
「なーにーーー!」
皆本と相澤は同時に叫んだ。
「ちっ、結局おれだけ仲間はずれかよ。まぁおれは普通に楽しむからあとは二人に任せたぜ」
相澤は片手を振りながら行ってしまった。
「ちょっと相澤さん! って行ってしまいました。よろしくお願いしますね・・・・・・皆本さん」
大丈夫なのか?このチーム。皆本は心配せずにはいられなかった。




