暗殺者二
入学式も終わり、放課後になる。授業もないためお昼で学校も終わりである。
クラスメイトが声を掛け合っている。すでに青春の1ページを共にする親友を得たのだろうか。
皆本はどうもこういうイベントが苦手だった。初めてが苦手なのかもしれない。
慣れないことができない。
馴れ合うことができない。
ただの言い訳だと皆本はため息をついた。
カバンを掴み、帰ろうとした時、後ろから声をかけられた。
「あら、皆本くん。同じ学校だったのね」
そこにいたのは病的なまでに肌の白い少女だった。
整った顔立ち。
制服の上からでもわかるスラっとした体躯。
誰彼かまわず自分の意思を最優先するようなそんな目。事実、彼女は自分の意見を曲げない。曲げたことなどない。
スカートは買ったときからなにもいじってはいないであろう長さ。しかし彼女から真面目という印象はまったく受けない。たんに興味がないのであろう。
前に会った時よりずっと大人びていた。身長皆本のほうがぎりぎりで高かったりするのだが。
「同じ学校どころかおれ達は同じクラスだよ、平瀬」
「あら、それは気がつかなかったわ。それより皆本くんは今帰りなのかしら?」
「そうだったらどうなんだよ」
「女の子がこんなこと聞くなんて、一緒に帰ろうと言っているのと同じじゃない。相変わらず頭の回転が遅いのね」
平瀬は皆本のことなど待たずに教室を出て行ってしまった。急いで追いかける。
「今日のあなたの自己紹介はなんだったの? 聞いていて恥ずかしかったわ。皆本くんってば高校生にもなってまだ中二病なのかしら」
「ちげぇよ! 別に変なこと言ってないだろ!」
「ただの人間には興味ありません」
「おれは、『なければ作ればいいのよ!』 なんて言わないからな! 話を捏造するなよ! それよりおれがクラスにいたこと知ってただろ。知ってて知らない振りしていただろ!」
「あなたの話はつまらないわね。わたしから話題を振ったのだからそれを盛り上げるのがあなたの仕事でしょ?」
「厳しいな・・・・・・だがやってみせよう。おれにできないことなどない、さぁ新たな話題こい!」
「今日のニュースは見たかしら?」
――――・・・・・・。
平瀬の顔つきが変わった。どうやら笑える話題ではないようだ。
「それはなにか意味のあることか?」
「意味なんてないわ、雑談よ」
雑談・・・・・・か。
「ニュースってのは東京でおきたテロのことか?」
「ええ、また増え始めてるわね。なんだか怖いわ」
ここ最近、東京ではテロがまた増え始めている。片田舎に住んでいる皆本たちには関係のない話だが。
「どう思う?」
「どうって何だよ。おれには関係ないし」
「やっぱり『蛍火』が関係しているのかしら?」
二年前。
海外のテロ組織に日本人男性が拉致される事件が起きた。
拉致された男性は有名な二世議員であったため、日本国民の関心は高く、ニュースで大々的に取り扱われた。
国民の意見は二つに分かれた。
平和主義を主張し、平和的な解決を求める者。
平和主義を覆し、好戦的な解決を求める者。
日本政府の対応に注目が集まった。
日本は平和主義を掲げる国である。
日本は戦争をしない。日本は軍事力を放棄する。悲劇は繰り返されることはない。
日本政府のとった行動は前者であった。
事件は解決した。組織の幹部は逮捕され、組織は壊滅した。
しかし拉致された男性は死んだ。殺されたのだった。
『蛍火』という反政府組織はこの拉致事件をきっかけに生まれた組織であった。
彼らは日本が軍事力を持っていたのなら、拉致された男性は死ななかったと主張した。そもそも拉致事件は起きなかったのではないかと。
彼らの目的は憲法九条を破棄し、日本を軍事国家とすることだった。
日本政府は蛍火とも、拉致事件時と同様、平和的に解決しようとした。
しかし話し合いなどうまくいくはずもなく、ついに蛍火は日本政府に武力行使をすると犯行声明を出した。日本政府は自衛隊を派遣し、蛍火を鎮圧した。
平和主義を主張する日本政府が武力に武力で対応したのだった。
蛍火は解散したがテロ行為は後を絶たなかった。
蛍火が活動していた期間、日本経済は回復の兆候を見せたのだ。
日本を変えるのは政治家ではない、テロリストであると国民は認めざるを得なくなったのだ。
後に蛍火の起こしたこの事件は日本革命と呼ばれるようになる。
皮肉なことに争うことが利益を生むことが証明されてしまったのだ。
蛍火を救世主だと崇める者すら現れる始末であった。
革命後の日本はテロ事件の多発する治安の悪い国になってしまった。
「・・・・・・おれたちには関係ないだろ」
「関係ないことはないでしょ?」
その時携帯電話が鳴った。初期設定のままの無機質な電子音。
「出ないの?」
平瀬は不機嫌そうに眉間にしわを寄せながらそう言った。
「・・・・・・でも」
「いいから出なさい」
しぶしぶポケットから携帯電話を取り出す。ディスプレイに表示された文字は非通知の文字だった。いまさら出ないわけにもいかず、通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『・・・・・・』
「もしもし? あー誰ですか?」
なんだか気持ちが悪い。皆本が電話を切ろうとすると、電話から機械を通したような無機質な声がした。
『いまから教室に来てください』
そこで電話は切れてしまった。
「誰から?」
平瀬は興味なさそうに言った。
「わかんないけど、忘れ物したから教室戻るわ。平瀬は先帰ってて」
「ちょっと!」
皆本は駆け出した。教室に行く義理はないかもしれないが、なぜか行かなくてはならない気がした。




