プロローグ
皆本は廊下を歩いていた。誰もいない放課後の廊下には足音が妙に大きく響く。
窓から外を見る。運動部の練習風景。どこの高校にもあるありきたりな風景。
窓を閉め切った校舎では野球部の掛け声は遠くの方で聞こえるように感じる。なぜかその音がより、皆本の周りに静寂を作っていた。
四階まで上がり、自分の教室である一年七組のドアを開けようとすると中から人の話し声が聞こえた。
別にそのまま中に入ってもよかったのだがこの時皆本は躊躇した。もし教室の中の人が大事な話をしていた場合、大変気まずい。
中の人に存在を気付かれぬようこっそりと体を低くして教室の様子を確めることにする。教室にいたのは男女の二人組みだった。
誰もいない放課後の教室。二人きりの男女。恋愛経験の乏しい皆本には具体的な想像を巡らせることできないのだが、誰かに見られてはまずいことをするのだろうということはわかる。
早々に退散しようと立ち上がった時、なにやら会話が聞こえてきた。
「どうです? 計画はうまくいきそうですか?」
「今日は様子見ってところかしら。 まぁ気長にやるわ」
「しっかり遂行してくださいよ、暗殺の件」
(・・・・・・あんさつ? あんさつってなんだ?)
「ちょっと! 放課後で人が少ないとはいえ誰かに聞かれたらどうするのよ! この暗殺計画が知られれば成功率は格段に下がるわ!」
「聞かれたところで問題はないです。別の方法で平瀬ほたるを殺害するだけですから」
皆本の知らないところで世界はとんでもない方向に進もうとしていた。




