アスターの民1
少女の1日は基本的に平凡なものだ。
日が昇る前に起床し、朝ごはんを食べ、昼までに家事全般の仕事をこなす。
掃除、洗濯、ゴミ捨て、買い出し、と、とにかく上げていけばキリがない量の家事をこなすとあっという間に昼になってしまう。
一見、これだけ聞けば忙しいかのように思えるが、昼過ぎにもなればこれといって特にすることもなくなってしまう。
だから彼女ヨメナ=アスターは、毎日のように自分の住む集落から少し歩いた場所にある丘で歌を歌っていた。
これが自分の特技かと聞かれれば、そうではないのかもしれないし胸を張ることもできないが、少なくとも歌うことが好きなのは間違いないし、彼女にとってここで歌うことは平凡な時間の流れを特別に感じられる瞬間でもあった。
そして、その場所で夕暮れ時まで歌ったりして過ごし、帰って姉の作った晩御飯を食べて風呂に入って寝るというのが、ヨメナの日常なのだがそうはいかなかった。
どうやら、今日は平凡な1日ではなかったようだ。
「それでヨメナ?そのボロ雑巾みたいな小僧は一体どこで拾ってきたんだい?」
老婆は、汗だくになりながら帰ってきたと思ったら背中に自分よりも背の高い少年を背負って帰ってきたヨメナに尋ねる。
「それがですね、おばあさま。いつもの花畑で歌っていたら、突然音がして、そっちを見てみると彼が倒れていたのです。」
「はぁ・・・それで連れてきたのかい」
「はい・・・」
「あんたねえ、この村の掟を知って言ってるんだろうねぇ?」
「それは・・・」
ヨメナがバツの悪そうな顔をして、言葉を詰まらせていると
「まあいい。そんなのは昔の人が決めた掟だしねえ。とりあえず寝かせて傷の手当てでもしてしてやんな。話はそいつが起きてからだ」
「ありがとうございます!おばあさま!」
ヨメナは、自分の家の空いている部屋に布団を敷いて、少年を寝かせる。
何日も樹海を彷徨っていたと推測できるほどに、少年の衣服はボロボロになり、体には木の枝や葉で引っ掻いてできた小さな傷がたくさんあった。
ヨメナは救急箱を持ってきて、少年の傷の手当てをする。
彼女には、目の前で眠る少年がどこから来た誰なのかはわからない。それでも、なぜか助けたいと思った。
それが村の掟を破るような行為だったとしても、どんなに怒られてもこれだけはしようと思った。
一通り、少年の手当てをすると、ヨメナは静かに部屋からで自分の寝支度を済ませて就寝した。
明日怒られるかもしれないという少しの不安と、外の世界の話を聞けるかも知れないという期待を持って。




