プロローグ
「はぁ・・・はぁ・・・」
つかの間、意識が飛びそうになる。
自分の意識を保つために、少年は自分の頬を両手で思い切り張った。
静寂に包まれた樹海に乾いた音が響く。
一体どれぐらい歩いたのだろうか、少年にはわからない。
自分が果たして、同じ場所をグルグルと回っているのか、それとも目的地に向けてまっすぐに進めているのか、それすらもわからない状況だ。
周りには木々が生い茂っているだけでなにもない。
程よく言えば白髪の少年、シロル・ハーベスターは樹海で遭難していた。
高等部に入学する前の春休みを利用し、趣味の作曲で稼いだお金で異国の地に旅行に来たのまではよかった。
だが、格安で雇ったガイドがいけないのか、珍しい自然に目を奪われていた自分がいけないのか、とにかくガイドとはぐれてしまい見事に遭難してしまった。
持っていた食料もとうに尽きてしまい、もう三日三晩何も食べていない状況だ。
(水もこれで最後か・・・・)
もう残りわずかな水筒の中身を飲み干す。
さて、これからどうするか?とは思ったものの成す術がない。
方位磁石は当然ダメだし、携帯電話の電波も入らない。おそらくガイドとはぐれた場所からもかなり遠くへ来てしまっているだろう。
助けを待とうにも、もうすでに食料も飲料も尽きてしまった。助けが来た頃には時すでに遅いだろう。
(これは、万事休すかな・・・)
そんなことを思いながら、ふと自分たちのクラスメイトのことを思い出してみる。
彼の通う学校は、初等部から高等部までの一貫校で、途中編入がにない限りは基本的に初等部からクラス替えなしで高等部まで上がる。
つまり、中等部から高等部に上がる時もクラス替えはなく、見知ったメンバーがクラスメイトになる。
(そういえば、お土産持って帰る約束してたんだっけ。これじゃあ無理かもなぁ)
諦めのような感情が湧いてきた頃、ふと歌が聞こえた。
意識が朦朧としてきて幻聴が聞こえてきたのかとも思ったが、どうやらそうではないらしい。
その歌の聞こえる方向へと足を進めると、やがて樹々が少なくなり開けた丘の上に出た。
そこには、色とりどりの花が踊るように広がっており、その中心には綺麗な声を響かせる少女の姿があった。
そこで彼の意識は途切れた。