<No,5> ジェポンの屋敷
No,5 ジェポンの屋敷
MMは目元に茶色グラデーションでシルバーの洒落たサングラスを填めると、黒のロングコートを纏った。
黒の立てた襟の横顔に一瞬目が離せなかった。目元はシルバーで見えないのだが、髪がシャープに後ろに流され、鋭い冬自体に見えた。まだその時期じゃ無いのだが。
パイロットは先に出て行き、様子を窺いに行った。
彼は手を伸ばし、MMは顔を向けた。口付けをし、顔を反らし離れてシートに沈んだ。
「……」
彼女は黙って前にそっと向き直りコートに包まれた全身が温かくなったのを組んだ足を見下ろし目を閉じた。
「お前、男は」
「いないけど」
ダイランは横目で彼女の白い耳を見て、全身に熱が駆け巡ったのを無視し様とした。
似ている。似ていた。どこかあのローズクオーツ色の唇が数年前に出会った女にだ。だが、全くの別人にしか見えない。あの時の女は今、きっと殺しの世界だ。
金持ちに加わるような世界じゃ無い。
「俺と……」
「え?」
ダイランの横顔を見て、その鋭い横顔は表情も無く整い目が離せなくなったが前に向き直った。
馬鹿みたいな事を言いそうになったが口を噤んで、前方を見ていたのを顎を引き窓の外に顔を向けた。
「お前、今まで何して過ごして来た?」
「何が」
「成長過程だ」
「別に。人と変わらない」
「男みたいに喋るなよ。女なら女の言葉喋れ」
顔を背けたまま、続けた。
「今は社交の場じゃ無いんだぜ。気張るなよ。装う事なんかねえ」
MMは目を閉じてから襟を引き寄せ窓の外を見た。
「そういうわけにも行かない」
「何で」
「そう決めたからだ。他に他言も無い」
「面倒な身分になってるなよ。お前、自分を偽ってて楽しいか?自分を出せずにいて楽か?」
「慣れてるから」
彼女は片足を引き寄せて窓の外を見た。
「お前が被疑者じゃ無かったら、惚れてたんだけどな」
MMは嬉しそうにダイランの横顔を見て、「本当?」と言った。彼はそんな彼女の顔を見て、目元が透けて見える顔から口を噤みその背後の窓の外の闇を見た。
「惚れてた」
そう言い、キャメルを出しながら窓を少し開け、灯を灯し窓の外のオレンジに明るく照らされる光が方々に満ち煌く屋敷を見た。
「フィスター=クリスティーナ=ジェーンは確実にあんたに惚れている。見れば分かる。付き合ってるんだろ」
「……」
ダイランの首筋が赤くなり、屋敷を見る見えない顔を見て、彩られる緋色とダイランの横顔をずっと見た。
「付き合って無いんだ」
「……ああ」
「でも惚れてるんでしょ」
「ああ……」
「好きなんだ」
ダイランは目を閉じ頷いた。
「あたしは?」
ダイランは彼女を見て、MMはサングラスを取ると言った。
「あたしの方が勝ってる。そうでしょ?権力もある。美貌も。貴族達は着いて来る。それだけかもしれないけれど……」
「うつむくな」
頬に手を当てて軽く叩いてから前に向き直ろうとしたものの手が離せずに、綺麗な目を見つめた。
「今まで、その目で何を見て来た?何をして来た?本当に犯罪に傾いた事が無いとは思えない。222歳になるまで」
「はは」
可笑しそうに彼女がナチュラルに笑った。ダイランの手が一気に熱くなり、その手を離してMMの顎のラインに片流しされるプラチナの髪を退け、目を閉ざして頬を掴みキスをした。
そんな熱烈にキスをする2人を弔問者の金持ちの小さな男の子と女の子が車外から見て、共に頬を両手で抑えて顔を見合わせ、手を繋ぎあって走って行った。
キスを離して間近の少し開かれた水銀色の瞳を見た。開かれ視線が上がり、MMは頬をローズピンクに染めたのを両頬に当てられた手に片手を当てその手を叩いて顎でダイランの背後を示した。
ダイランは振り向くと、パイロットが黒サングラスの上の片眉を上げ口をへの字に見て窓をこつこつ叩いた。
ダイランは咳払いして体を戻しドアを開け颯爽と降り立つとドアを閉めてパイロットから話を聞いた。
MMは両足を軽く引き寄せ上目でその彼の見える胴体を見ていた。顔をうつむけて窓の外の闇の中に立つ樹木を見た。
有頂天になるのは駄目だ。結局は警察の人間。警官と被疑者が惚れ合っていたらどうしようもないから。
互いに自分を曲げるっていう物だろう。
「報道陣がここの人間にインタビューしてたが、引いたらしい。MMは報道のいる内は絶対に出ない」
ダイランは辺りを見回し、昼の様にはTV中継ワゴンの群は無い。
MMは外の様子を一巡りし、記者が2人いる。カメラは持っていないが、ポケットには忍ばせているだろう。
カメラには絶対に映るわけにも行かな
ガチャ
「出ろ」
「断る。閉めろ」
「駄目だ」
「あんた、警官なんだから約束したんだろう。MMは逮捕するってな」
「ああ」
「こうやって共にいれば共犯者だって思われるんじゃないのか?」
「お前が凶悪犯ならな」
「自分の時間で向かう」
「俺の様子を窺うために来たんだろう。邪魔する為にな」
ダイランは乗り込んでからドアを閉め、前方を見た。
「お前は、元を正せばなんなんだ?わざわざ来たなんて正常には思えないな」
「正常だが」
「二重人格なのか?」
「よく言われる。あんたが勝手にこちらに犯罪者だと焦点を置いているだけだ。恨みで」
「恨み?」
「それ以外に何を生活を乱される事があって?ただ毎日を正常に楽しんでビジネスをして成功させてはMM株も上々だ」
「MMネットワークを全面的に提示させる」
「そんな必要は無い」
「どこにも犯罪が無いとは言えないからな。怪しい存在は怪し……」
ダイランは前方から迫り来るスポットライトに目を細めた。MMは襟を引き寄せサングラスを填め、長身を縮めさせ隠れた。リムジンが近づいて来ているのだ。
ガンッッ
「ああ!!の野郎!!糞リムジンが!!!」
この前ドアと共に内装を変えたばかりだというのにリムジンがオーズッドに突っ込んで2メートルも突っ込み下がらせて来たのだ。
当のリムジンはフロントのヘッドにシルバー鋼鉄の羽根を広げた鷲が大きくスポットライトからスポットライトに羽ばたき、一切かすり傷さえ付けていない。
何事も無かったかの様に運転手は後部座席のドアを開け、中から老婆が降り立ち、秘書の様な女が続いた。
ダイランは打った頭を押えてドアから出て老婆は無視して歩いて行った。女秘書はダイランを見上げた。ドライバーは駆けつけてきてダイランの腕を引っ張ったのをくるんと身を返して手帳を突きつけた。
「対物器物破損現行犯で逮捕する」
「ちょっとあなた。何も起きなかった事実を工作するものでは無いわね」
老婆はコートの中の組む腕で黒いルージュの上の黒いサングラスを下げ、ダイランを上目で見てはダイランの背後のヘッドが大破しているオーズッドも視界無視して言い放った。
ダイランはマダムに頭着て顔を引きつらせ、オーズッドのドアが閉められ颯爽と降り立った長身の男を、老婆は首を傾げ片眉を上げ見て、ダイランも振り返った。
老婆は歩いてくるまでの独特の雰囲気ある青年を見ていて、少女の母親と顔を見合わせ、リムジンにザッと即刻ケツを滑らせ、ドライバーも真っ青になって、ダイランは逃げようとした当て逃げリムジンのボンネットに飛び乗って振り落とそうとしたが、相手が銃を取り出したからやむなく停車した。
MMはそんな事も無視してポーチを颯爽と進んでいき、誰もがさわつき振り返って黒のコートをなびかせる白服の青年のサングラスの横顔を見上げ、共に目を大きく顔を見合わせ、MMは屋敷内へ入って行った。記者が何らかの動揺を聞きつけた時にはMMは消えていた。
ダイランはドライバーを引っ張り出して叱り付け、キーとスペアも奪いマダムと秘書を睨み付け背を押し屋敷へ入らせて行った。
老婆は腕を組み煙管を回して颯爽とコートの裾と袖を翻し歩いて行った。
「全く。上司の顔が見てみたいわねえ」
煙が線を引き進んでいき、ダイランは白目を剥いた。
「強烈に犯罪アピールして来たのはあんただろうが」
くるっと向き直って煙が段を付け揺れた。
「ドライバーがぶしつけな事をしてしまって申しわけありませんでしたわ警部殿?」
「おかげで捕えていた証人を取り逃がした」
「MMが犯罪者?興味深い」
ついと微笑み身を返し歩いて行った。
「知り合いか」
「ええ」
「MM会員か?」
「部下からの報告はまだ受けていない様ね特A主任?2人の部下が聞き込みに来たけれど」
ダイランは腕を引きとめて身を返させた。
「あんた、マンション主人?」
「そうだけれど?」
「何故わざわざ来た」
「だって、社長の所の設計士さんにうちのマンションの庭を任せたんですものね。お世話になった企業の息子さんの亡くなられた場に挨拶に来るのは当然でございましょう?」
「警戒されているのに?あんたのマンションで事件が起きた」
「そうねえ。でも、葬儀参加は自身の意思が尊重されるべきだけれど」
「少女の葬儀は」
「開く事が全てでは無いでしょう?」
「警察署からまだ遺体は帰って来ていないだけだ」
「あら。調べましたの」
ダイランは眉を更に潜め、電話を借りた。
老婆はボーイからグラスを受け取って微笑み掲げた。
「ジェーンか」
「警部!ラヴァスレッイリ氏と別れたのならばそうとおっしゃって頂かなければ!実は、マンションから飛び降り自殺した少女の検分を行った警察署へ向かった所、遺体が消えていました」
「何?それで身元は分ったのか」
「名はマリー=ローズ。9歳です」
「ローズ?あの婆さんの孫だったのか?」
老婆を見てから老婆は視線に気付いて緩く微笑んだ。
「養女にしたのだそうです。孤児院から2ヶ月前に引き取られています。その書類は市役所に。ですが親は不明で、孤児院に問い合わせた所、少女は門の前で置き去りにされていたと。自殺内容は確証は無いのですが、少女の精神的窮屈がストレスになり自殺に至ったと。孤児院からマンションオーナーのミセスローズに引き取られた後は孤児院に帰りたがっていたと、少女の友人である少年からも証言が取れました。ですが、一切の虐待は無かった様です。少女の人格は女の子にしては乱暴者だったらしく、少年は老婆を蹴ったり噛んでやったという話を彼女自身から聞いていたそうです。マリーという名だけが本名なのだそうです」
「実の親を探せ。万が一にも、あの年齢だ。本当は親とは連絡を取っていた可能性も有る。何かローズの事や自殺理由を話していたかもしれない。当たってみてくれ」
「はい。全力で」
マリーの母親は平静を装って目元を落ち着かせ、自分の手首を掴み、どくどく言う脈を確かめる作業に没頭した。
絶対にあの男の子はマリーのことを言っている。あの旦那ならマリーの遺体を親子関係の証拠が出る前に隠させるだろう。もちろん、私生児として産んだといつわり、戸籍も消去した筈だ。5年前離婚した時に。




