Color=DeepSapphire
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ダイランはフィスターと猛獣園にいた。動物園などを愉しむという行動は2,3歳振りだと思う。
この繁殖型猛獣園には殆ど猛獣系ばかりだ。動物を繁殖させて自然に返し自然動物を繁殖・保護するためで、その一部施設をここで見せているものだった。
ダイランはここで繁殖させた黒豹とライオンのアギとベレは既に本来の規定どおり自然に返される予定で、その後はジャングルとサバンナでそれぞれどちらも伴侶をつくり自然繁殖する。
ロマンティックで絢爛な装飾の園内を進んで行く。
グリズリー、犬鷲、禿鷹、虎、獅子、ツンドラ狼、森林狼、シベリア狼、鬣狼、黒豹、鮫、鰐、アナコンダ、蠍、ハイエナ、ホワイトタイガー、雪豹、ウンピョウ、ジャガー、バッファロー、白鳥、フラミンゴ、南国鳥、真孔雀、印度孔雀、縞馬、白馬、黒馬、ドリフトホース、アンダルシアン、タチウオの水槽……
緩やかな金フェンスの先、王冠の様な格子の中、妖艶なピエロ達、華麗なブロンズのアーチ、綺麗な色彩の石畳、華やかな噴水は金のアラベスクに取り囲まれる。
真っ青な小鳥達の飛び交うサンクチュアリに入って行った。
その細長いドーム型の黒鉄透かし彫りで出来た巨大な檻の中、天井まで原色緑の南国樹木が立ち並んでは下方の泉に青の小鳥達と緑が青銅を揺らめかせ映っている。
フィスターは楽しんでいた。ダイランはそんなフィスターの背をずっと柵に身を預けながら見ていた。
青が黒の装飾アイアンフェンスの中、緑の植物を天井の空まで彩り鮮やかで綺麗だった。ドーム壁に沿うアールデコの施された高い階段から見下ろし、純白のサギが泉で下方を歩いている。
濃く魅惑的な南国の鮮やかな青鳥がビロードを思わせる光沢を持ち、そんな青が不思議とフィスターには似合った。小鳥達は羽ばたき、まるで宝石のサファイアの様だ。フィスターの笑みは美しかった。
「……綺麗だな」
そう、彼女が遊ぶ姿を見ながらつぶやいていた。
園内のダロンドカフェに入り、コーヒーをオーダーしてはダイランは欠伸を噛み殺しでは目は10割方閉じていた。フィスターは嬉しそうに話し続けていて、それは彼女の育ったマイアミの動物園の事だった。ダイランはコーヒーを思い切り飲んでギャルソンがカップに新しく注いだ。
ソファーに半分以上沈み、何故園内なんかのソファーをこんなに柔らかくするのか、ダイランは眠っていた。
「警部〜!」
フィスターは驚いて眠るダイランを見た。ダイランは顔をさすって目を覚ましては、フィスターはさっきダイランが買ってやった黒豹の縫いぐるみを膝の上に乗せていた。
「お暇ですか?」
「別に」
「ごめんなさい」
ダイランは背を起こしテーブルに肘を着けた。
「ただ夜更かししただけだ。眠くない」
彼女の腕を抱き立たせてサロンを出ると歩き出した。
今日は休日の為、アギとヴェレのいる園内の建築物の中には入れない。
「警部は何の動物が一番お好きですか?」
フィスターはクールで悠々とした華麗な黒豹だった。
「チワワとかパピヨンドッグ」
「……」
フィスターはダイランのサングラスを填めた鋭い顔つきを振り返り、ダイランは「何だよ」と言った。
「可愛いんですね」
ダイランは口を噤んで、フィスターはしまったという顔をして言いなおした。
「意外ですよね!」
彼女の肩を引き腰を屈めて口付けをした。
「お前の事が俺は好きだ」
「………」
フィスターは目を見開きぱちぱちとさせてサングラスで見えない顔を見て、ダイランは歩いて行った。
フィスターの背後でフラミンゴ達が舞い子供が笑い声を上げ駆け回っていて、フィスターの全身はまるでフラミンゴの様に真っピンクになっていた。
「おい早く歩けよ」
肩越しに背後の彼女にそう言い、フィスターはふらふらと歩き出した。可愛らしいロマンティックなカートのお菓子売りは色とりどりの甘い菓子を綺麗に彩らせている。孔雀は羽を広げ、ジャガーは木から下りて縞馬は芝の草をはんだ。
赤いオウムが羽根を広げ、綺麗な装飾が彩り、そんな色とりどりの中のダイランの背を見て、フィスターの世界はまるで夢の世界のようだった。
あの大きな厚い唇は温かく柔らかくて、ただ軽く唇を触れ合わせただけだったのに全身の力が抜けそうになる何かのキスの魔力があった。怒鳴るときは喧しい鬼の様に吠え立てるし、喋らない時は恐い程冷たく閉じている。冷か激しか知らない口のように。だが、甘い雰囲気を含ませる唇は色っぽい形をして、どこかセクシーな風があった。
さっきの、好きだ、という言葉が彼女の頭にリフレインし続けた。
し続けて、彼女はふらふら蝶のように歩きついて行った。
ダイランは辺りを見回すと、確か園内の西側の奥にあった筈だ。巨大なサンクチュアリがあり、その奥にはこの街中の花を育てる綺麗な温室ガーデンがある。その奥には動物の子供がつまっていた。小さい頃ジョスが連れて行ってくれた所で、産まれたばかりの赤ちゃんにチビのダイランは気に入って名前を付けてやったのが子ライオンのアギと子供黒豹のヴェレだった。
「おい。こいよ」
ダイランは手招きしてフィスターは走って行った。
今アギとヴェレは様々な違反に引っかかり檻に非公開の状態で入れられていた。平日に世話をしている3人がいなければ会わせてはもらえない決まりだ。
フィスターは一般公開されていないだけで別に入ってはいけないわけではないサンクチュアリを見回して、笑顔になった。
遠くに色とりどりの鮮やかな花が咲いているのが見える。いろいろな南国の鳥が飛んでいて、回遊廊下は薔薇の蔓が這っている。
ダイランがこういう場所を知っていたのが意外だったらしく、フィスターはにこにこして、素敵ですね!とダイランの所まで走って来た。
サンクチュアリの中には青銅のシャンデリアだとか、ゴンドラ、シーソー、水路には小舟まであってはその水路にゆったり小魚も泳いでいる。時期には睡蓮も咲いた。螺旋を描く様にサンクチュアリ壁面の上部をゴンドラで回り、見渡す事も出来る。
まあ、楽園の様でもあるし、まるでダイヤモンドの雨が水色の空から降ると綺麗でもあった。
青銅装飾枠のガラス張りの中の空間は一定の温かさを保っている。他の雌の孔雀や白孔雀などもゆったり歩いていた。
奥に行くとガラス檻の中にはまだ公開される前の動物がわんさかいる。
フィスターは駆け寄って見回した。
黒豹の子供が2匹で噛み合いっこしてじゃれあっているのだ。ライオンの子供は猫の様にごろごろして、キングチーターの子供は母親の背中に飛び乗って跳ねている。虎の子供は遠くのガラスの中の蛇とにらみ合っていた。
「なんて可愛らしい!」
フィスターは飼育係の人間にいろいろと話を聞いてはスタイリッシュなキングチーターの子供を触らせてもらっていた。
ダイランは俯いて、目を閉じた。好きだ。大好き過ぎる。
きっと、さっきの言葉も本気で言った言葉だとは思ってはいないだろう。
ダイランの足に首輪を填め放し飼いにされている熊の子供がクークー言って擦り寄って来た。抱き上げて頭を撫でた。
「ガルドさん。久し振り」
「ああ」
「彼女?」
「いや、後輩だ」
「へえ。あの子も刑事?もしかして2匹に会いに来たのか?こんな昼間に。園長がさっきまでいたんだぜ」
「今日は鑑賞だ」
「珍しいな。デート中のあの彼女、名前は?」
「ジェーン」
「もう手出ししたのか?」
「な、ま、まさか、」
「?なんで」
ダイランは口を噤んで熊が指を噛むのを噛ませていた。もさもさで丸くて子熊はやかり可愛かった。
「分からない」
「男がいるのか?」
「……」
ダイランは顔を上げ、フィスターの方を見た。そういえば、どうなんだよダイランは思って彼女を見た。普通にいるだろう。男が。まあ、転勤して来たからマイアミに残っているのかもしれずに遠距離かもしれないのだが、そういう事をもちろん聞いた事は無かった。それならどんな男なんだと思う。
「なあ。あいつと俺って合うか?見た目的とか雰囲気とか……」
「まあ、今のガルドさんならまだ似合うかな。前の時だとちょっと……」
飼育係は顔を「ん?」とさせた。
「タイプ変わったな〜ガルドさん」
「お前、考えてみろよ。あんなに可愛い女なんだぜ」
「確かに。派手なわけじゃ無いのに不思議と可愛いよな」
「そうなんだ」
にやにやして飼育係は彼女の所に歩いて行ったからダイランはその肩を引いて停めた。飼育係は可笑しそうに笑ってから戻ってきた。
「結婚式はあのサンクチュアリでやっておれに司会やらせて下さいよ」
ダイランは言葉をなくして熊はダイランの膝からころころ転がり地面に落ちた。
「いや……挙げるなら、実はボルドーの古城で予約、が……」
と、しどろもどろになりながらあの時の社交辞令の言葉を言ってはぐらかしておいた。
「第一、あいつが俺なんかを好きなわけが無い」
「本当か?」
「嫌われてる」
「ハハ、恐がられてんでしょ」
フィスターは振り返り、戻ってきた。
「コーヒーかお茶を出すよ。ケーキもあるけど。サンクチュアリに持って行くから待ってて」
「まあ!本当ですか?!素敵」
元々は地主がゲストを呼んで宴を開く為の場でもあるから、近くにここが利用されるとそれらの物が余っている事もある。
あの3人も高い技術で特別な出張道化師をやり、グランドホテルやこの街の高級料理店、パティシエも来てはふるまい、グランシェフも呼ばれるために美味……
「うをおお!!!」
美しいサンクチュアリの蝶の舞う中に戻り、モサッと何かが動いたと思ったらそれはソーヨーラの姉のジービーヲだった。
「なな、何、あんた何やってんだ、」
「……。宇宙空間との融合を果たすべく動植物にまみれて」
「うるっさいよ……」
「この悪魔は何でここにいるの」
そう、真横のダイランを指差してフィスターに言った。
ダイランは彼女のキンッピカの黄金1メートルアフロをぼんっと叩いた。




