Color=BrightEmerald
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102ファミリーは旦那の実家のスペインに戻り、ダイランのルーム201に猫は戻って来ていた。
表情も無く、綺麗な色の瞳は静かに光った。
ダイランはブラインドーを下げるとしばらく路地を見下ろしていたのを身を返した。ダイランの背を陽が手を伸ばし暖めて、彼を俯かせた。
フィスターのあの小さな手の平の様だ。目を閉じ、彼女の事を思い出そうとする。黄色い緩やかな陽がフローリングをゆらゆらと光らせていて、彼の足元を光りの波がさらった。片手で顔を抑え、溜息を吐く。目を開き腰掛けて目を閉じ寝転がる。
完全に恋をしている。
まるで恋の病に冒された猫の様に枕に顔をうずめた。言おうか。どうしようか。
あきらめるか、嫌いになるか、なれるのか、そうならなければならないのだ。
目を開き床の四角い光りを見つめる。柔らかい日差しがまるでフィスターの微笑みの様に感じる。猫はダイランの広い背に乗ってきて彼のブロンドの項に温かい鼻を押し付け、短く鳴いた。猫を腹に乗せて首筋をさすってやる。指を噛まれてダイランは猫の首を噛んで猫は逃げて行った。
ダイランは噛まれ血の出る指をフーフーやってすねた様に腕を枕に猫の行動を目で追った。猫はそこかしこにマーキングを施していた。彼には一向に懐こうとはしない。
フィスターは自分の事をどう思っているのかは分からないが、自分はいずれ警察組織を去るつもりだった。警官をやめるつもりだ。だから、彼女を手にするわけにはいかない。彼女は自分の事を真面目な警官だと思っている。彼女の元を離れて悪に再び染まろうとする人間では無いと思っている。
彼女を手に入れたい。自分のものにしたい。それが出来るものなら。
ダイランは溜息を短く吐くとキャメルに手を伸ばし火を着けてからしばらくぼうっとしていた。
また電話が鳴る。しつこい。ずっと無視している。さっきも101も追い返した。出かける気が全く起きないのだ。なんだか、一人でしばらく放っておいてもらいたかった。フィスターの事が頭から離れないのだ。
あまりにも煩い電話はダイランを苛立たせて出た。
「ハアイ。部屋にいるなんて珍しいじゃない。今から出かけま」ガチッ
ダイランは首を振ってベッドにどっさり横になった。また鳴る。2時間前はヨシュアムだったからぶちぎれた。
苛立って怒鳴り出た。
「うるせえぞ!!!放っておけ!!!」
「ひいっ」
ダイランは大口を開けたまましばらく止まっていた。
ガチャッ
あまりの事にフィスターが電話を切った。ダイランは急いで彼女の番号を押していた。だが電話がその前に折り返しかかって来た。
ダイランは咳払いしてから出る。
「ちょっと!あんたいきなり切るって無」ガチッ
ダイランはうんっざりしてベッドに戻って行った。また電話が鳴る。枕を抱えて足裏を猫がぺろぺろ舐め、 肩越しに電話を見てから顔を枕に沈めてから起き上がり出る。
「あの、こん、こ、こ、こん、ここ、こ、こ、ここ。こ、こ、こ、こ、こけ、ここ、こ、こ、こ、こ、」
「……」ガチッ
9時間前の昨夜4時には野郎からの喘ぎ声の間違い悪戯電話だったからムカついて電話線をぶち切った。
再び鳴る。
「あ、あの、ごめんなさい、先程はどもってしまって、あ、あの、こんにちは、えっと、あの、お、お暇でしたら、ああの、あたし今からラーティカに動物を見に……、あ、あの、あのよろしかったら一緒に行っていただ……、だ、だ、だ、だ、」
「1時間後に迎えに行く」
カチャ
ダイランは受話器を置き、壁を見つめ、しばらくは煙草がフィルターを越え指を焼いていても気付かなかった。
ダイランは上着とストトラを放るとバスルームに駆け込んで出てから髪をドライヤーで乾かしクローゼットかを開けボックスを取り出し服を引っ張り出してベッドに放って着る。髪をワックスで流してブレスレットとリングを着けてサングラスを填めキャメルとジッポーと札と拳銃を持ち腕時計を填め、部屋を出て鍵を掛け、バイクに乗り走らせて行った。
なんと30分もの速さで寮に到着し、ダイランは思い切りずっこけた。
「あ!警部!」
「……、」
ダイランはがっくりして意気消沈した。フィスターの横には老婆と女が立っていた。
知っている。彼女のトアルノの祖母だ。女の方は知らない。彼女の祖母には一度フィスターをトアルノッテまで送り届けた時に見かけた。その時祖母は広い庭を挟んだ明るいテラスウィンドウの中にいたのだが。
女の方は気が強く奔放そうなダンサーといった感じで、年齢は不明だが40は行っていそうな健康な体つきだ。
「警部、あたしの祖母のリンデおばあちゃんと、叔母のマロン。2人とも、彼があたしのお世話になっている上司のガルド警部」
「こんにちはミスターガルド。この子がいつもお世話になっているわ」
「いや。よくやってくれている」
「いろいろ大変だろうけど、良くしてやってね。あなたは、この子をお迎えに?」
「まあ、猛獣園に」
「あらそうなの。行ってらっしゃい。充分楽しんでらっしゃいよ」
「ありがとう。おばあちゃんも今日はわざわざありがとう。これ、あとで調理して頂くわね」
「ええ。コリアンダーは少なめにね。良かったら職場にも持っておいきなさい。じゃあ、ガルド警部、可愛い部下をよろしく」
「ええ」
「ばいばい」
「気をつけてね」
「おばあちゃん達も」
そう言うと2人は歩いて行き、少し離れた所に置かれた車両に乗り込み手を振り去って行った。
フィスターはにっこりした顔を振り向かせた。ダイランはバイクに跨り、背後を親指で指した。フィスターは頬をピンクにしてダイランの後ろに足を揃えて乗った。
「おいメリーゴーランドじゃねえぞ。しっかり座れよ」
「は、はい」
しっかり乗るとバイクを発進させた。陽が当たっている様に体温を感じる。手に汗を掻き始めている事に早々気付いた。
ダイランは信号で止まると忘れていたという様に黒の指だしグローブを填めて発進した。カーブで強く抱きつかれる毎に心地良かった。
隣街に着くと広場を進み、恋人や親子連れや家族が其々楽しんでいる。
サーカスの道化師達はダイランを見て妖艶に手を振り、炎の柱を青の天に立たせて銀の珠をジャグリングした。
猛獣園の駐輪場にバイクを停め歩いて行く。フィスターはスカートを調えその背を追いかける。彼女はチケットをダイランに渡すとにっこり微笑み歩いて行った。




