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 闇に彷徨う夜の風

 耳の横を女の声を再現し続ける

 漆黒に消え

 俺から逃げたお前

 何処にいるんだと無闇に探し続けても

 毎夜お前を呼んでいる

 お前を想って探していると、夢を見て、闇に彷徨う

 涼やかな風景にお前を重ねる事でも出来れば……

 紫穂…… 紫穂……

 帰って来るんだ、紫穂

 俺達の空に

 俺達の海に

 俺達の星に

 俺達の      未来に


 男は黒のハーレーに跨り青の寂れた海を見渡すが、涼やかな目元は、耳は、感覚は、波を、潮騒を、海を映さず青を見つめていた。

艶やかな髪を風になびかせるのを風にまかせ、目を細める。全て世界なんか壊れればいい。女を失った世界は再び色褪せていた。

どうでも良かった。色とりどりの世界など……。

 彼の連れがバイクを停めゴーグルを引き上げた。

男は煙草を持つ手を一度上げ再び加えてショットに手を突っ込んだ。

連れは男の肩を軽く叩き横まで来た。連れは男が青の海を見渡す横顔を見てからガードレールに肘をつけ海を見渡し言った。

「変革が起こるらしい。ロガスターも今に変わるぜ」

「好きにしろ」

「お前の女が駄々こねてる内は変わらねえとも思ったんだが、委員会はどこまでも嫌な連中ばかりだぜ」

「全て奪い尽くすつもりでいるのさ。姿も見せねえボスにとうとう奴等も諦めつけて、あの糞鬼に従わざるを得なくなると思うと嫌で嫌で仕方ねえんだろう」

「お前の戦力株は急上昇しまくりだ。お前なら意見出来るんだぜ。あの男にも委員会の方針にもな」

「……。まだWALSSの居所が掴めねえ。奴の考えって物を聞いてみてえもんだな。今まで奴は何の文句も言わずに方針に沿って来てるんだぜ。それか、余程の自由が利くんだろう」

「羨ましい身分だねえ」

「今に見つけ出してぶっ殺してやる」

連れは煙を吐き横の男の横顔を見て、首を振った。

「お前はいつまでも諦めるって言葉を知らねえまるで狼だな。執念深いぞ」

「執念は俺のモットーだ」

「違いねえ」

 鴎が高い声を上げ、船がゆっくり進んで行く。何も無い空間は宇宙と一体化している。大気こそはあるが、そこも宇宙だ。

星が瞬き、そして生命が下らないが最高の一生を送っている。

 人生を諦める奴等なんかに救いは無い。成し遂げずに死んでは己の宇宙すら途切れ、築けないままだ。だから、悩み続けていると同じ事だ。死んでいく事は。

 世界は美で溢れ返り、寂れて荒涼としている。醜くもあり、綺麗な瞬きを帯びる。全てを見飽きて、終わらせるなんて馬鹿らしいのに。

いってらっしゃいと、おかえりが、死んだ者達にどうやって言ってやれて来れた。一人で死んで行く者達の運命を、その彼等だけが築いて来た人生を、見て来た彼等の美しい世界を、それでも終わらせようとする心を、理解しようとか、分かろうとか、分かち合おうとか、見届けてやろうとか、そういうんじゃ無い。答えを見つけたいわけじゃ無い。

彼等の掲げて来た死をデフォルメしたいわけじゃ無い。生命というものを、地球という尊い中に生まれた彼等を、死に向わせた全てを、 死への時間を寿命とは変え狂わせた要因を、快楽に変えた死を、戦争と同じだ。

死は何かの形にデフォルメされ、奇麗事ばかりで覆い尽くし隠そうとする死を、こんな世の中だから重大なはずの死と絆を、全て泥にまみれさせるか、気丈な笑いに変える奴等。死んで行く事こそ生命だろうが、生きてこそ生命。

 無容易に死を考えるな。苦しいけど諦めるな。自分に必死に言い聞かせる。

彼女を欠いてから、流れる水の様に、求めていた。それら全てを。その為に輝きに変えようと。輝きを見つけようと。

お前と生きて行く為だ。

お前を再び、見つめる為だ……


 海は太陽を翳らせた。

お前がいなければ、どこも不完全な世界……


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