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 世界のトップニュースは某国女王の自殺で占領されていた。

ダイランは苛立ちキャメルを踏みにじってラジオを壁に叩き付け頭を抱え歯を剥いた。

あの男、MMの名前が挙がった途端、そこの警察組織も協力を全面否定しきった。本署すらも捜査打ち切りという異例の強制撤退の処置を取る命令が下った。

連邦捜査局と国際警察まで動きを止めたのだ。

 たかが自殺?とんでもない。

ダイランは妹の無残な自殺姿を忘れられなく幾度と無く思い出した。

目の前で自殺し徐々に死んで行く妹の姿だ。目の前にいるのに厚いガラスに遮られ強化ガラスはびくともしなかった事を覚えている。

打ち抜いた弾丸はどれも跳ね返りパイプ椅子は大破し、ガラスの中で自分の手首を切った妹は、血を真っ白な空間に広げて行った。

彼女は気を違えて精神病院に閉じ込められていた。

医者が駈け付けた時には、妹は既に死んでいた。

ダイランは13で、妹はまだ12の少女だった。

 嫌な記憶が止め処無く脳に流れ込んで、ダイランは顔を歪め押えてからキーを取って階段を駆け降りバイクに飛び乗り走らせた。

 フィスターに持たされた携帯電話に連絡が入った。

それを聞きスピードを荒げた。

 署に着き激しく吠え立てるドーベルマンを蹴り飛ばして訓練員の怒鳴りを背に受け部署へ突っ込み部長室のドアを開け、ソレは上映されていた

 女王の毒々しいまでの水色で目を痛め、ミラーが割れた様な銀の泉に飛び込み水しぶきが血の様に闇色に跳ね返り飲み込まれた、その刹那その後の、映像だ。

ダイランは目を見開き、微かに開いた口元が固まった。

『やめろよリサッ!!何やって、おい、やめるんだ!!リサ!!!』

頭の中のガラスが、一瞬にして地に落ちた。

「何で……」

『なんでこんな事!!畜生、畜生!!リサ!!リサ!!!』

 ダイランは頭が真っ白になって行き、目を見開きその場に硬直した。その映像だけが目に流れ入り込んで来続けた。

妹の真っ赤な血だけが頭の白い空間に流れ込む動く物の様に。

涙まみれの少年は真っ青になって無様に割れないガラスの向こうで顔を歪め泣き叫びもがいている。

ぼんやりした目で見つめてくる妹の可憐な顔も涙で、青くなって行く。金髪の緩いパーマの長い髪を輪郭に置き傾けて、見つめていた。

 少年のダイランは跳ね返る弾丸が腕に食い込んでも気付かず弾の無くなった銃を高い声で怒鳴り地面にたたき付けて蹴っても突っ込んでも開けられないドアの向こうではガラスをドンドン拳で叩きガラスの向こうの妹を助けようと叫んでいる。絶望に彩られ、真っ青になりながら。

 妹のリサは眩しい程真っ白の空間の中、溜まって行く血でビシャビシャ遊び出し微笑み、真っ白な服も血が跳ね返る。無邪気に笑っている。手首からは血が流れ続けているというのに。透明な緑の大きな瞳から透明な涙が流れてはダイランを見ては、嬉しそうに微笑んだ。

 兄にすくった血を、まるで小動物でも見せる少女の様に差し出した。

リサ、リサ……、

リサは、にっこり微笑んでは言う……

 ダイランは激しくテレビを蹴り倒していた。

「ふざけるなよ!!!ふざけるんじゃねえ!!!」

 真っ青のフィスターは狂乱し怒鳴るダイランを押さえつけコーサーは突き飛ばされ尋常じゃない怒鳴り声に駆けつけたハリスは暴れているダイランを見て驚き背後に叫んだ。

ジョセフは驚き駆けつけ我を忘れ暴れる彼を地面に叩きつけ抑えた。混乱しきるダイランは激しく怒鳴り激怒して暴れ叫んで、そんな彼を見たフィスターはづしたらいいのかが全く分からなかった。ハリスは跳ね飛ばされて、ジョセフはてこずりダイランの項と肩をどうにか押さえつけ、歯を剥くダイランは怒りで真っ赤になった顔をぶんぶん振った。

 駆けつけたアマンダが素早く状況を察知し、鎮静剤の空気を抜き颯爽としゃがみ彼の腕に針を立てた。

ジョセフはその事でようやく抑えきり、何があったのかは分からないが、正気を失った彼が頭を抱え地面に突っ伏すのを立ち上がり見て、顔を見合わせた。

ダイランはアマンダに腕を引かれその場に座り頭を抱えられ、彼女は髪を撫で囁き続けなだめた。

「あなた達は出ていて」

そう落ち着き払った声で言い、ジョセフとハリスは顔を見合わせ、ドアから覗いていたソーヨーラとロジャーは引き返してティニーナは口を噤んで今にも泣きそうな顔で上目で見ていた。ジョセフは彼女の肩を軽く叩き出て行き、アマンダはコーサーを振り仰ぎ彼も頷き歩いて行った。

「あなたもよ」

「でも」

フィスターは頑として残った。アマンダは溜息を付き、漸く正気を取り戻したダイランは顔から覆っていた手を離して顔を反らし立ち上がりソファーに座り顔を抑えうな垂れたが、すぐに手を離し気が立ったままポケットを探り煙草を深く吸い込み飲み込んだ。覗く項はまだ怒りで真っ赤だった。

 悪態を付き項を抑え、目を硬く閉じた。

完全に犯人になめられている。あの気の違ったサディスト、MM。本名も分からないあの糞野郎、

何が命令だ。ああいう気違いを放っておいて何が警察だ。冗談じゃ無い。何と言われようが侮辱された怒りを終わらせる気は全く無かった。

 ダイランは深く溜息を付き、目元を強く抑えた。

「……一人にしてくれ」

アマンダは頷き出て行き、フィスターの肩を叩いたが彼女はそれでも首を横に振った。アマンダは彼女を見て、ドアを静かに閉め、フィスターはそのドアに背を付け、ダイランを不安な面持ちで上目で見つめた。

 ダイランは部屋から出て行こうとしたがフィスターが全くドアから退かない。

彼女の肩を引き背後に行かせて、フィスターは彼の腕を必死に掴んで出て行こうとするのを止めた。

「冷静さを保って!挑発に乗らないで下さい警部、みすみす、」

ダイランは背後のフィスターの泣き声に顔を歪め歯をきつく噛み締め、彼女はダイランの腕を絶対に離さないという渾身の細い手の力で掴んでいた。

ダイランはきつく口をつぐみ、震える拳で壁を殴って血が噴出し手の平に爪を立てた。

顔を覆い怒りで震える肩を振り向かせ、フィスターを優しく抱き寄せた。頭と背を抱き頭を狭い肩にうな垂れさせた。

フィスターは息を飲んでダイランの震える熱い背を抱き頭を抱いて背を恐る恐る撫でた。

 ラヴァスレッイリは部署まで来て、コーサーから話を聞き口をつぐみドアの方向を見てから、相槌を打った。

「なんであのパーティーで姿を消して?君の体躯なら抑えられたかもしれなかった」

それにはラヴァスレッイリも仕方なく肩を竦めさせる他無かった。

 彼は颯爽と進みドアを開け、フィスターはダイランから離れて彼を見上げ、ダイランは鋭い横目でラヴァスレッイリを睨み切る様に踵を返しソファーに座った。

「後は僕が彼についての捜査をする。単独の方が動き易い」

「お前等も捜査打ち切られたんじゃあ変わらねえじゃねえか」

ラヴァスレッイリは上目で口の片端を上げた。ダイランは眉を怪訝そうに潜めその鋭利な造りの目を見据えた。なんだ?こいつは言い知れない何かのオーラがあった。今まで覗かせもしなかった。

「僕はFBIを脱退するつもりでいる。自由に調べられるから安心しなさい」

そう言い残し彼は部署を出て行き、ダイランは真相を聞く為に追いかける事もせずにその背から身を返した。

 フィスターは出て行った彼の背を見ていたのを、うつむいた。

『愛してるわ……』

その、リサという少女の言葉がフィスターの頭に蘇っては、少年時代のダイランがそれを聞いた瞬間、そんな言葉にわけもわからず目を見開き、少女は口元を再び動かしたが、一気に気を現在に取り戻させた彼に画面は電流を発し地面に叩き付けられた。

「……」

彼女は振り返り、ダイランは、自分で壊したテレビの画面を、静かに見下ろしていた。

フィスターはうつむき、小さな手の中のエメラルドのタイピンを、両手で握り地面を見つめた。


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