Color=SnowWhite
Color=SnowWhite
以前、夜闇と月明かり、道路を歩く公園の様々な樹木の中に、幾つか点々と立つ赤サザンカ。濃いピンクの中に見つけた、そんな中唯一のその、白サザンカの樹木に魅せられた事があった。
純白の花。夜の中をとても可憐で、美しかった。純白の柔らかな花びらに夜のしんと澄み切った青を透かし、細い指を触れ、その大振の花弁を手にとって見つめた。しんみりと心に咲くような、澄み渡る愛らしさがあって……。
星の輝く冬空の中咲く美しさは華だった。
そんな感覚が、フィスターの中に一瞬にして思い出され咲き、花開いた。それが、彼だった。
確かに可憐さとは無縁のその様態は凛とした白百合か、白薔薇のようでもあった。優美である。
スレンダーな整えられた肢体は腕と足が長い。
白の緩い上着と白のパンツの上に、白のトレンチタイプのコートを高い位置の肩に掛け、その中の腕を軽く組んでいたが解き、白パイソン皮の靴を颯爽と進ませた。
緩くセットされた長めのショートは艶掛かる。髪ではなくまるで本物の金属かの様な純銀の髪だ。
透き通る白の肌と白の衣装に、リムジンから降り立ったあの瞬間、それら陶器と生地の純白をブルームーンが澄んだように包み込んではしんみり染まり神秘性を持った。さらりと小さな頭を振り背後に髪を流し、月光を受け金属を絹髪に戻したのだ。小さな顔に填めたサングラスで目元は見えない。
綺麗な白の耳、黒鳳凰の羽根を小さなワッカにしたピアスが艶めき揺れた。
雪の様に白い絹肌は全てを引き立てた。凍てつく氷の様な冷めた頬は硬いまま、全く表情は窺えはしない。
その気品ある口元は、彼等の存在をかなり気に食わない物と見ては、不機嫌そうにきつく閉じられ、ぴくりとも微笑みはしない。
長身で若く、凛と綺麗なこの青年が、闇の先、白の太い2本柱で支えられた緩いポーチの段を上がり進み行って来る。
女達どころか時に男も満足そうに深く溜息をついた。
フィスターはそんな優雅な涼凛とした彼を、いつもの冷静さを失いじっとみつめていたのだ。
闇の中に咲く純白の華を。まさか月の精霊なんじゃないかと思った。本気で。
だが、相反し、清流の邪な風雅が、悪魔的に混沌と備わる。冷酷そうな性格は全身からも見て取れた。
確固とした落ち着き払う華麗なオーラが静かに備わっている。
余りに魅力的なオーラと完璧な2メートルのプロポーションスタイルを誇っていた。
真っ白な服に全身を包みしなやかな身体は、一つ一つの動きやしぐさが優雅で怜悧とした物も見せる。
「おいあの男は誰だ」
ダイランがコーサーを振り向くと、ラヴァスレッイリ同様に消えていた。会場を見渡すがいない。
また向き直る。
「……」
青年はサングラスを白革の細いグローブの手で取り、長い睫が伏せられ、開かれたその広い瞼の目がかなり不機嫌そうに鋭い事に気付く。
変わった髪の色同様、一気に華のある派手な顔だと分かった。長く漆黒の睫の流れるように覆うその大きな目。水色掛かる綺麗に澄み渡った白目の中の、瞳が巨大な美しい銀色なのだ。
鋭い目元、氷の様に冷たそうな性格に加え、白銀のシベリア狼を男にした様な青年だった。
20代もまだ始めなのではないだろうか。
限りなく妖艶麗美な顔立ちだ。
女執事にコートを預け、彼は横顔から会場をこちらに向け、雅な目元は冷たい。銀の瞳はそれでも煌くように艶掛かった。
白革のグローブを預け、女主催者の言葉にも軽く二、三回適当に頷いただけで、高い位置の腰から踵を返しホールを進み歩いて来た。
シャンデリアの明りに近づく毎に華麗で豪華な風が風のように威圧的に広がり、どこかしらの警官達への倦怠と邪険な風も色濃くさせる。
それらのきつい風がふっと消え去りはしたが、目元は恐いままだ。
ダイランは流石に自分の服装を見回し、憮然としてフィスターを見ると、彼女の目は彼に釘付けになっていた。
「素敵……」
ダイランはフィスターの言葉にショックを受け、不機嫌になって青年を睨み見た。
「警部、彼」
そうフィスターはダイランの腕を引き、いつもの頬を染めた顔でダイランを見上げた。
ダイランが彼女を見下ろしフィスターは真っ赤になって慌てて手を外して俯いた。
彼もフィスターの反応に口をつぐみ瞬きして、咳払いし向き直った。
青年は女主催者からの3人の紹介も聞かずに、ダイラン達を魅惑的な大きな目で見下ろした。
背の高い風は純白のジャガーの様にしなやかな肉体だ。すれ違い様ふわっと、青年から薔薇のダマスクが薫った。
そのまま反応も無く冷たく歩いては、女主催者の言葉も遮り勝手に話し出す。
「ココ・ソカにしては、随分違った趣の買い物じゃねえか」
顔の割に低く冷たい声の持ち主だが、澄んだ声でもあり、人を容易には寄せ付けないシビアな口調だ。
悪魔の様に完璧に整った美しい顔立ちさえその声音は引き立てた。
興味の無い物や無駄な物を一切嫌うタイプの声。この3人の刑事の存在のせいだろう。
全く苛立つ風を隠す様子も無く、露骨に冷たい目で見下ろし、そう、警官3人に特に向けて言った風で視線を閉じ反らし、ゆったり会場を見渡した。
再びフィスターとダイランを見て、そのダイランの鋭い目とぶつかり、まるでキスをする体勢で半身を腰から曲げたから驚いてダイランは後ずさった。
青年は意地悪そうに大きな瞼を開き、彼を間近で見て彼の肩に手をずっしり掛け、白の長い首筋に銀の髪がさらりと流れた。
首を伸ばし傾け、横のフィスターの柔らかい頬にキスを寄せるとフィスターはまっピンクになった。
ダイランは瞬きして開いた口が閉じられなかった。こいつは俺が全く出来なかった事を初対面でさらりと……、
ダイランは肩の上の白い手を払いつけ彼女を抱き抱えて、青年を剣呑と睨んだ。フィスターは驚き真っ赤になってダイランの温かい胸の中で固まった。
青年はどうやらからかいがお好きらしい。
まるで歯を剥くように横の女主催者を流し目で見て荒涼と言った。
「ジャッカルが2匹も潜り込んでいるとは。これは、どういった風の吹き回しだ?」
そう、ダイランの肩に肘を掛けたまま手を伸ばし、フィスターの艶のボブを指の甲で一撫でし、ダイランの耳元にもキスをしたからダイランは邪険に手の甲でさすり睨んだ。
青年の言葉に女主催者もさらりと言った。
「さあ。そんなの、気紛れ」
面白そうな声を含み、「では、充分愉しんでいらして」と女は3人に微笑した。
青年はダイランの肩に肘を乗せていたのを相変わらずの冷たい流し目で見て、フィスターを見つめると彼女はダイランの腕の中で白鹿の子供の様に俯いていた。
可愛らしい女だ。
MMはそう瞳だけで微笑み思い、ダイランが鋭く睨み見て来る瞳を真っ直ぐ見据え肘を外し、ゆったりと歩き去って行った。
女は2人に微笑み青年の後に続いた。
Tres lent きわめて緩やかに、主部は変ト長調が静かに流れる。
青年の白い背は奥へと進み、おなじみらしいブランデーが運び込まれ、彼は注ごうとした人間を横目で見てその使用人は下がり、自らグラスに注いだ。口をつけ、ゲスト達と会話を始める。
ダイランは抱えていたフィスターから自分で驚き開放し、彼女は頬を真っ赤にして俯いていたが、彼に肘を打たれて顔を上げMMとココ・ソカの様子を窺った。
白の色の不気味なマーク。
真っ白の衣装に身を包んだ魅惑的な青年。当初第一に疑わしかった美しい女主人の友人。
ダイランでも名を聞いた事のある世界トップクラスの名。
女主人の息子は嬉しそうにMMの足元に来て、彼は少年を抱き上げて両頬にキスをしてその頬を指で擦り小首を傾げ言った。
「元気にしていたか?」
「うん!」
「ママの弟をまた充分、困らせているんじゃないのか?」
「うん!面白いから」
「母親に似たな」
少年は可笑しそうにアハハと笑い、下ろしてもらうと母親に頭を撫でられ2人に大きくお辞儀をしてメリールと共にジュースを持ちに行った。
あの男が悪趣味な自殺幇助映像なんかを?考えずらい。
それでもビジネスマンというものは人々のニーズに反応し応えるものでもあり、率先して時代を作って行く先駆者だ。
「彼のビジネスライフや事業方針はかなりこだわりが深い頑固な物だ」
「おいお前何処に行っていたコーサー」
横に来たコーサーはしらっとした顔を上げ、肩を竦めさせた。
「調べだ。横の部屋でパソコンで調べてきた」
「悠長な」
「まあまあ。シビア、スムーズ、簡潔、迅速。本物を見合ったロイヤルハイヤー達のみに。顧客からは100パーセント信頼保証が置かれている。まあ、彼自身は全く他人を信用しないけどね。そういう仕事堅気な質なのは確かだ。彼のそれらのビジネスを一通り調べようと思ったんだが、何しろガードがきつかった。特定のパソコン以外では調べが付けられない。屋敷に戻ればまだ調べられる設備も整っていたんだが」
「ばばあはあのガキに関わりは?」
「ばあさんは彼女とも親しい。随分あの彼とも親しい話は聞くが、ビジネス面は不明だ」
ダイランはふと思い出し、ケリーナ=バダンデルと共に向った捜査であの冷め切った声は聞いた事に思い当たった。
姿は見られなかったが、その声に追い出されたのだ。夜の私営エアポートでの事だ。
闇の中、真っ白の指令塔がやけに威圧感を持ち巨大に思えた。
そうだ。ケリーナ自身もそこのオーナーと親しい為に、世界中の彼の移動時に使用するエアポートを使わせてもらっていると聞いた。彼はそのエアポートでヘリ、ジェット機、セスナ、ジャンボなどのレンタルも行っていると聞いた。
「お前は親しいのか」
「彼が社交界に進出したのは今年だ。まだ数ヶ月という所だね。僕も仕事で社交の場が減っている。これから見知った仲になろうと思っていた所かなあ」
彼は片眉を上げ、相槌を打ち歩いて行った。
フィスターは慌てて追い掛けとめようとしたが遅かった。真っ直ぐ青年の背後まで来たダイランを彼が振り返りブロンドを見下ろした。
彼は会場を見回していた目を上げ青年を見据えた。
「何か?」
「話がある」
「俺には無い」
「今起きている事件の事で俺達は来た。協力しろ」
「何故俺が」
「容疑者だからだ」
その言葉に会場の誰もが会話が途切れ振り仰ぎ、青年とダイランを振り向いては、演奏の流れすらも止まって、演奏者達は息を飲み2人の青年を見た。
MMはダイランを見下ろし、フと、短く笑うとハハハ、と低く笑った。
小首を振り、笑うと一気に顔の印象が妖艶に華やかな女性の様になった事に驚いた。
「あんた、俺とは何か怨恨でも?」
青年はダイランの耳元に口を寄せて囁いた。
「レガント一族の血筋は、俺には協力的であるべきだ」
フィスターは驚きダイランの顔を見上げ、目を激しく瞬きさせた。
「なあ、DGL?」
DGL。ダイラン=ガブリエル=レガントの略号だ。青年はそう甘い声で微笑み言う。艶やかな妖し気を含ませた様に。それは余りにも美しい凛とした物だった。
その真横の皮肉を言う冷笑顔を、横目で鋭くなったきつい目元で静かに見据えた。
彼は背を伸ばし、性別が完璧に不明の人間だと気付く。女、か?こいつは。
そうやって性別不明にけしかけては、はぐらかして来る事は身に着いている様で、MMは実際性別不詳にしている程だ。国籍と人種すらも。
鋭く冷たい風が浸蝕し、どこも女っぽい仕草は一切無いに変わり無いのだが。どこから見ても男。とも見えるというのに。
「警部は……」
フィスターが怪訝そうに驚いた目でダイランを見上げていて、彼は青年の妖艶な微笑の横顔を睨み見ていた。聞き間違いだろうか。同じチームのコーサーと間違えているのだろうか。その事に関しては今の棘の発される恐い雰囲気のダイランからは一切聞けなかった。
青年は女と共に歩き去って行き、ダイランがその腕を引こうとしたがフィスターが止めた。
再びTres lent きわめて緩やかに、主部は変ト長調である演奏が静寂に流れ入り、コントラバスが轟き、綺麗な旋律が流れ込む。
曲は徐々に高揚して行く。疑わしい心へと浸蝕するように。
「あの男は怪しい。マークする必要がある」
「はい」
フィスターは会場を見回し、場は落ち着きを取り戻し、演奏は繊細に流れ美しさを清流のようにして澄み渡らせて行っては、水面を流れる葉のように流れ流れる。
「ねえあなた」
青年の腕に一度軽く手を置くとココ・ソカが2人の方へ来て、微笑んだ。
「装いを変えに行くんだけれど、ご一緒しない?」
「断る」
そのココ・ソカの肩を引き、MMがフィスターとダイランを見た。
「俺が連れて行こう」
彼は白の背を向け歩いて行き、ダイランはその背に続いた。
Vif et agite の活き活きと、激しく、ヘ長調、5/8拍子によるロンドへと突如として変換し、ビクッとしたフィスターは危険を感じてダイランの腕を引いた。
「罠です」
「行ってみる価値はある」
「でも、」
「お前は会場に残ればいい」
「あたしも共に行きます」
曲は心情を乗せるように心に轟きフィスターは上目で青年の背を見てから、ダイランの鋭い横顔を見上げた。足がすくみそうになるが、彼女は口をきゅっとつぐんで進んで行った。
フィスターはダイランの横に並び、会場奥、右側の扉を抜けて行き、その広い廊下を進んだ。
暗い照明の落ち着いた赤と黒の空間、焦色照明の色彩の豪華な中を進んで行く。
「年齢は」
濃密なエレガントさの中を進む白のしなやかな背に呼びかけた。
「さあ、あんたよりは若いかな」
「本名は」
「知らない」
「……。んなわけねえだろう」
空間はレリーフの施される赤の壁と要所ごとの薔薇レリーフの黒樹脂の壁の続く中、黒石の優雅な暖炉の中に火は妖麗な焔を揺らめかせた。
「国はどこだ?」
「どこだろうな」
またさらりとはぐらかした。
西洋甲冑が並び置かれ、黒樹脂の腰壁の上の赤左官壁には絵画が飾られている。
暖色の焦げ茶照明に照らし出されていた。
「お前、男か?」
「お好きな方を」
まるでそれが彼かの様に、そう慣れた風でその背は言った。
赤壁と天井間際の黒樹脂のトリミングのレリーフも重厚だ。
天井は赤のボタンダウンで、その絞られた部分は黒樹脂の百合の紋章が押えていて奥まで続いた。
話の方向を変えて聞く。
「ココ・ソカとは付き合いは長いのか」
「贔屓にしてもらっている」
ダイランは相槌を打ち、廊下を見回しながら歩いた。
黒樹脂の調度品、黒檀のライティングビューロー、キャビネットなどが通路に綺麗に並び置かれている。
「妻は」
彼は肩をおどけさせて応えた。
「いない」
黒石のテーブル台には豪華な花があしらわれている。
フィスターはそれを笑顔で見つめた。
それらは黒いほどの赤の大輪の薔薇ナイトタイムに黒真珠、それに小ぶりのドンファンと、それと共に濃い群青のベロニカと、時期の違う熨斗欄の実、沢蓋木の実、紫のアネモネ、アーティチョーク、小紫の実に、紫式部……、季節を無視した赤と群青、紫は世界のハウスガーデンから仕入れるのだろう。
取り合わせのため、異彩を放っていた。
「旦那は」
「冗談」
軽く笑い声を含ませ言ったものの、口調はきつく、見えない顔は笑顔は無く嫌悪の雰囲気が窺えた。
進んで行く壁には、赤の漆喰に金で百合の紋章がドットになる上に、黒山羊の頭部が銘木に飾られ、恐い目で見下ろしていた。
彼女は視線を前に向けダイランの横を大人しく歩いて行った。
「俺に映像を送ったか?」
「映像?」
「自殺幇助映像だ」
「さあ」
MMは扉を探すように見回し、赤が引き立てる黒樹脂のキャビネットの前を歩き、中には銀器のアンティーク食器がクリスタルガラスの中、綺麗に飾られている。
要所に置かれる焦げ茶のランプシェードや金の照明が場を更に重厚にした。
検討をつけ、黒樹脂の壁に黒マーブルの柱に囲まれた茶赤革の扉を開け、シンメトリーを取った黒樹脂のナイトテーブルに暖色のシェードが置かれる間を歩いた。それらの明りは黒マーブルにうっすらと光を染み広げている。
MMは空間のホールを見回し、進み行った。
広い空間は黒石材の空間であり、明りが灯されずに、ズンと硬質の闇が佇んでは肌寒い。
ホール左の壁側は、黒の柱にサイド毎を囲ませた重厚な黒グレーのシルクタフタの垂れ幕が下ろされた窓が一列に並び、本当に窓が各々の垂れ幕の裏にあるのかは不明だ。
垂れ幕の下方の壁と繋がる腰掛けの黒石材は座面に黒の仔牛皮が張られている。
黒い壁をその堂々たる彫刻柱と銀茶のシルクタフタで飾っては、レリーフは窓の上部一つ一つに施されていた。
ホールには闇の中、白の光を筋肉に沿って受ける黒石の巨大な馬の彫刻が迫力を持ち台の上から歩いて行く3人を見下ろし、向かいの馬とも睨みあうように両前足を掲げていた。
いななきは今にも身にドシンと轟きそうだ。
ホールを抜け、扉を開くと明りのようやく灯された廊下へ出た。
そこには廊下を右側の扉横、ココ・ソカの女秘書が立っている。
「2人を案内しろ。この装いじゃあ宴の雰囲気も台無しだ。女がパンツスタイルなんて信じられないからな」
フィスターとダイランは顔を見合わせ、青年の言葉に同じように2人揃って憮然と唇を突き出した。
「畏まりました。ガルド様。ジェーン様。どうぞこちらへ」
「お前も来い」
MMをお前呼ばわりしたダイランを見て、女秘書は目を開きダイランは歩いて行った。
扉を開け進みいると、女秘書は突き当たりの開口部へ進み、2人を上から下まで見ると颯爽と身を返しそのドレッサールームへ進んだ。
数ある中から、ドレスと正装の数々を用意して行く。
MMは、金ブロンズのキャビネットチェストに腰掛けては、2人を見た。
ジェーン一族の娘は重厚な3人掛けに、金彫刻に取り囲ませた黒薔薇刺繍のシルクソファーのボリュームある上に腰掛けており、膝の上に手を合わせ乗せていた。横顔は可憐な花のように俯いていて、切り立つ雪の岩間やに首をもたれ咲く冬の白花のようだ。
ダイランはくすんだ金とダイヤ型の黒石プレートの下がる古いシャンデリアの下、絨毯がそこだけ途切れブロンズに縁取られた六角形の白大理石の上に腕を組み片方に重心を掛け立ち、MMを横目で睨み見下ろしていた。毅然としたオーラの男の立ち姿は勇ましい。
「お前は白のマークの団体の主催者だな」
「団体?」
「お前はビジネスマンで様々な面に手を伸ばしている。お前はココソカの弟の友人である宝石職人に無理難題な仕事を依頼し、自殺に追い込む計画をした。それかココソカとシェリダンからその計画を聞き、お前のコレクションする自殺映像の中に加えるためにカメラをセッティングした。それをまた俺に送りつけた。シェリダンを何らかの怨恨から失脚させる為か?」
「何故俺が。シェリダンとは元々余り関わりは無い」
「姉とは親しい」
「弟は関係無い」
ダイランは進み、ゆったりと応えるMMの開かれた目の前に紙を突き出した。
「お前の会社のマークなんだろう」
「さあ。俺は関わりは無い」
「嘘つくなよ」
「何故俺を疑うんだ?そういえばさっきから」
「白いからだ」
「単純な頭の働きをしているんだな」
「放っておけ」
ダイランは管を巻いて青年を睨み見下ろした。彼はハハ、と笑い、瞳を開いて下方からダイランの顔を小首を傾げ見上げた。
「お前は数ヶ月前にエアポートにいたな」
「さあ」
「その時にいた」
「俺はあんたには初対面だが」
「嘘つくな」
「さあね」
「FBIにお前の詳細を調べさせる」
「ハッ、無理だな。俺を調査するなんて」
「茶会はどうだ?」
「さあ」
「当初、女が会を起こしたと思い捜査に当たっていた。二面性はあるのか?正体を不明にするなんて怪しい野郎だ」
「さあ。そう言うことは、本人は気付かないんじゃないのか?」
「マークを起こした人格は確固とした快楽者だ。気取った茶会、ひやかし目的の自殺映像、殺人込みの剣の会。関わっているんだろう。狂った人間が集う会だ」
彼は可笑しそうに首を振り、腰を浮かせるとフィスターに微笑み、彼女は緊張して身を縮め上目になった。
「俺を疑うのは結構だ。勝手にすればいい」
彼は落ち着いた室内から出て行き、ダイランは廊下に出て進んで行く青年を追いかけた。
フィスターも慌てて追い掛け、女秘書は用意した衣装を見下ろして溜息を付いた。
廊下の先の真っ白の石材がおおよそを占めたグレーマーブル大理石の広い円形ホールに出た。
白のローマ柱に囲まれ、ホールを沿うように緩く階段が弧を描く様に上がっている。
その上がり口横にはシルバーの繊細な個室のブース、優雅なガラス張りのシガースペースが設けられていた。
その扉を開け入って行き、黒皮の座面に腰を下ろし葉巻を取り出し火を灯し、鋭い造りの視線を上げた。
クリスタルガラスと繊細に透かし彫りされたシルバーの先、白い空間の中をダイラン達も来たからだ。
「着替えて来い」
「逃げるなよ」
「逃げる?俺が?」
「そうです」
フィスターは彼の横に座り手錠を取り出した為、MMはフィスターを見下ろし、自分の手首を見た。
その手錠を彼は間接を外し取ってしまった為、フィスターは瞬きした。
「気にするな。手が滑る事は良くある間違いだ。俺も弾みでブレスレットが外れなくなった時はよくやってる。しっかり仕舞っておくんだ」
「そ、ういう問題じゃあ、」
ダイランはキレそうになり、フィスターが可笑しそうに笑うのをダイランが睨み、彼女は口をつぐんだ。
「着替えなんざどうでもいい。お前を重要参考人として連行する」
青年の腕を引き立たせ、そのダイランの手を払って身を翻しするりとシガーブースから出ると、彼はホールの中に同じ様な廊下への開口部が8つ並ぶ中の元来た廊下のある開口部方向へと歩いて行った。
ダイランは追い掛け走った。
フィスターは立ち上がろうとしたが、手首を見下ろし驚いた。手錠が嵌り、シガーブースの透かし彫りされた屋根を支える青銅の支柱に繋がれていたのだ。
「ハアイ、ジェーン?」
「……」
鍵を回す事に必死になっていた彼女は、ふと、軽快な風の声のした方向に顔を恐る恐る向けた。




