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悪魔の揺り籠  作者: 睡眠華
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 グレイの愛情たっぷりご飯を心行くまでお腹に詰め込んだリリアンナは、至高の満腹感に満たされ、幸せそうに頬を緩ませた。


「ごちそうさまでした」


によによと締まりのない顔で、小さな両手を合わせて感謝の気持ちをグレイへ伝える。


「はい。ごちそうさまでした」


ご機嫌な養い子の表情に、グレイも目を細めて小さな笑みを零した。


「さて、残った仕事も片付けるか」


食器を洗うグレイの隣で、リリアンナも乾いた布を手に、濡れた器をチマチマ拭き上げて食器棚へ片付けていく。

養い親と養い子、仲良く並んで家事のお手伝い。

のどかな日常。五年たっても変わらぬ穏やかな日々。

…たまに、サバイバルはあるけれど、ここの家の子になって幸せだなぁ~としみじみ思う瞬間だったりする。


「兎の皮を剥いだら、冬用の靴に仕立てるか?前のは、そろそろ小さくなってきただろう?」


リリアンナが、最後のスプーンを棚に片付けていると、肉の解体準備を始めたグレイが今朝の戦利品の用途を尋ねてくる。

基本、何事も自給自足なので、住んでいるこの家はもとより、家具や食器もグレイの手作りの一品である。

ちょうど今使っているリリアンナのサイズに合わせて作ってくれた踏み台も重宝している。


「ありがとう。これから鞣す加工するの?見てていい?」


リリアンナは、急いでグレイの後ろをくっついていく。

ぜひとも獲物を捌く作業工程を覚えたい。

スプラッタは苦手だけれど、これから自立するにあたって必要な生活技術であるし、何より今晩の大切な食材なのである。


「危ないから、離れて見ていなさい」


グレイは、熱心に自分の手元を見つめる養い子へ一声掛けてからおもむろに兎を掴んだ。


おおおぅっ!


その瞬間、リリアンナは、心の中で叫んでいた。

何度見ても、一瞬の出来事なのである。

鋭い刃物をギラリと煌めかせて、手早く獲物を捌くその技術。

ちっさい兎の毛皮がみるみる剝かれていくその様は、まるで日本神話に出てくる稲葉のクロウサギを彷彿させる。

あはれ、三匹の獲物はものの数分で丸裸になっていた。


塩を擦り込んで、薬草も擦り込んで…兎肉は、炭火で丸焼きにしても美味なんだよな。

でも、肉団子にしてスープも捨て難いしな。


丸々太った兎のお肉を見て、つい思考が食欲に刺激されて逸れていく。

あ、また何がどうなってあんなに綺麗に捌けるのかよく分かんなかった。


「レイン。一匹で足りるか?」


グレイは、本日のお肉獲得功労者であるレインに、まずは丸々一匹を渡す。

もう一匹は、冬の保存食に、残りは今晩のメインデッシュである。

グレイから兎を受け取ったレインは、二つの尻尾をフリフリどこかへ銜えて行ってしまった。

お気に入りの場所で、落ち着いてゆっくり食べるのかな?


「さてと、リアの靴はどれくらいの大きさで作るか。皮が三枚あるからひとつ帽子にしてもいいな」


ふむ、と一言唸りながら、グレイは、毛皮を広げて状態を見ている。

頭の中で、効率よく皮を使い切る作業工程を考えているのだろう。

鞣す間にどの程度皮が縮むのか、と冬までにまた成長するであろうリリアンナの身体に合わせて靴と帽子を仕立てるようだ。

身長が2メートルはあろうかという長身の、なおかつ筋肉モリモリのマッチョマンであるモシャモシャお髭のグレイは、何気に几帳面な男である。

人柄が良いというか、面倒見が素晴らしく良いのです。

森の中でリリアンナを拾った時も、随分なお人好し…げふんごふん。

優しかったけれど、益々、オカン属性に磨きが掛かっています。


うむ。そして何気に、そのエプロン姿が一部のマニア受けしそうである。

おっさんエプロンって、なんかいいよね。

う~ん。どうしてこんなにいい男なのに嫁さんがこないのだろう。

人里離れた森の傍とはいえ、人との交流が全くないわけではないんだけどな。

隣の谷に住んでる魔女のお姉さんとか、森の奥の湖に住んでる精霊のお姉さんとか、たまに森へ狩りにくるエルフのお姉さんとか、いっぱいいるのに。


性格よし、生活力あり、そして何よりカッコイイ!

例えるならラグビー選手のようなスピードと持久力も兼ね備えたムッチリと鍛え抜かれたその筋肉美。

ちなみに、筋肉スキーのリリアンナ的には、逞しく厚い大胸筋と、太く力強い上腕二頭筋が、お気に入りである。

素晴らしい生肌の弾力を思い出しながら、むふむふと鼻息荒く養い親の筋肉を称賛してしまう。

抱っことギュウは、幼子の特権ですから!


「リア。毛皮を鞣すから傍においで」


始めるぞ、と呼びかけたグレイは、妄想力が爆走している養い子の顔を見て、不思議そうに目を瞬きする。


「はーい」


リリアンナは、締まりのない顔にえへっと照れ笑いを浮かべて、素直に返事をする。


「上手く鞣せたら、夕飯を早めに仕込んで風呂に入るか?」


「やったぁ!温泉がいいなっ!久しぶりに、谷の温泉に入りたいです!」


低く響く優しいグレイの声に、リリアンナもワクワクとした足取りで駆けよって行く。


そんなこんなで、今日も今日とて養い親のグレイが、大好きなリリアンナであります。





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