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恋姫OROCHI(仮)  作者: DTK
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一章・弐ノ弐 ~関中事変~

DTKです。

恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、9本目です。


今回からしばらくは、翠たちにスポットを当てた話になります。

捻じ曲げられた世界の関中で、いったい何が起こったのか。

少しずつ話が広がっていく、予定です。


なお、実際の作中の地形や距離は、実際とは合致しないことがあります。

そのあたりは、よろしくご理解くださいm(_ _)m




関中から洛陽へと続く隘路に馬蹄が響く。

先頭を騎馬武者が二騎。続いて騎馬が三十弱。そして徒歩が数人。

合計約三十ほどの部隊が駆けている。

旗はなく、行軍というには速度が速い。そして兵士はところどころ怪我をしており、覇気も感じられない。


「ブヒヒィーー……ンッ!!」


ドオッ!という音と共に馬が転倒し、騎乗していた兵士が投げ出される。


「大丈夫かっ!?」


先頭を駆けていた騎馬武者の一人、翠が馬首を返す。

投げ出された兵は受身を取れていたのか、すぐに立ち上がり、


「はっ!自分は大丈夫でありますっ!ただ……」


兵は先ほどまで乗っていた馬に目を向ける。

苦しそうに、脚をばたつかせながら、何とか立とうとしている。

その傍らには、もう一人の騎馬武者、蒲公英が下馬し、転倒した馬に寄り添っている。


「姉様…」


目を潤ませ、蒲公英は静かに頭を振った。


「――っ!」


立とう立とうと、必死になる馬。

しかし立てない。

それもそのはず。馬の前脚は、折れていた。


「…やれるか?」


静かに、翠は落馬した兵に問いかける。

やらせて下さいと、彼は愛馬に歩み寄りながら、腰に佩いていた小刀を手に取る。

暴れる馬に近付くと、優しく首を抱き、


「今まで、ありがとうな…お前のことは絶対に……忘れないからな」


相棒の最後の温もりを確かめると、馬の首に小刀をあてる。

治らない怪我を負い、苦しんでいる馬を楽にしてやる方法は、これしかなかった。


「……すまんっ!!」


グッと小刀を押し込む。

馬はビクンビクンと、二度ほど大きく身体を弾ませ、動かなくなった。


普段、涼州の兵は二、三頭ほど替えの馬を持っているが、今はそんな余裕はない。

長距離を駆けに駆け、どの馬も限界を迎えている。

周りを見渡せば、歩様のおかしい馬が何頭もいるようだ。


「もう少しだ!函谷関さえ越えれば洛陽はすぐそこだ!そこまで頑張ってくれっ!!

 ……お前も、いけるか?」


翠は馬の亡骸に寄り添っていた兵に声をかける。

一瞬の沈黙の後、


「行けます……行かせてくださいっ!」


その胸には愛馬の、家族の(たてがみ)が握られていた。


「よしっ!それじゃ行軍を再開する!今日中には洛陽の月たちと合流するぞっ!!」

「「「応っっ!!!」」」






――――――

――――

――






数日前……


天水を拠点に涼州と関中の異変調査に乗り出していた、翠・蒲公英・紫苑の三人。

騎馬隊三十、輜重兼弓兵隊三十を引き連れて安定の調査を終え、街亭付近を通り、天水への帰途についていた。

どうやら『異変』はこの付近では起こっておらず、民の様子も平穏そのもの。

それどころか行く街行く街で、錦馬超の訪問に歓待の宴が催されていたのだった。


「なーんか拍子抜けだよねー」


手綱から手を離し、頭の後ろで手を組む蒲公英。

平和ボケの中、強めの刺激を求めていたようだが、肩透かしを食らったのが不満らしい。


「まあ、何もないなら無いのが一番良いのだけどね」


頬に右手を当て、困ったように苦笑いを浮かべる紫苑。


「そうだぞ、蒲公英。っていうか油断するなよ。まだ見つかってない異変があるかもしれないんだからなっ!」


翠に窘められるが、蒲公英は、はーい、と生返事をするばかり。

そんな蒲公英に溜息はつくが、それ以上の小言は言わなかった。

翠にも、ここで何かあるとは思えなかったからだ。

街の人々に聞いても異変の影すら聞こえてこず、たまに心当たりがあると思えば、成都や洛陽からの行商人だったりする。

今後どうなるかは分からないが、今のところは涼州と関中には異変はない、と見るべきだろう。


「帰ったら都と成都に、今後の方針を尋ねる使者でも出そうか?」

「あぁ、それなら一昨日の定時連絡の使者に含めておいたわよ。多分、漢中か成都の手伝いになると思うけど…

 余計なことしちゃったかしら?」

「いやいや、助かったよ。さすがは紫苑だよなー。あたし、相変わらずそういう所は全然気が回らなくてさ…」


たはは、と恥ずかしげに頬を掻く翠。


「お姉様、脳筋だもんねぇ~」

「お前が言う、なっ!」


銀閃をグルンと回し、柄で蒲公英の前頭部を殴りつける。


「いったーーーいっ!!ちょっとお姉様!蒲公英が馬から落ちたらどうするのさ!?」

「うっさい!!手綱離して、あたしのことを馬鹿にしたお前が悪い!」


あっはっは!と同行している兵の間に笑いが広がる。

調査・巡回・慰問が主とはいえ、行軍というにはとてものどかな空気だった。


しかし、先遣隊からの使い番が、その雰囲気を壊した。


「馬超様っ!」

「どうしたっ!?」


ただならぬ雰囲気に翠が思わず声を荒げる。


「前方から騎馬が一騎、近付いてきております!旗はありません!」


一騎なら野盗や見知らぬ敵、ということはないだろう。

恐らく天水からの伝令か何か。

しかし旗がないというのが気に掛かる。

翠の心に嫌な予感が走る。

そしてその予感は、その姿が近付くにつれ、確信へ変わっていった。


先遣の兵に馬を引かれ、伝令と思しき兵が翠たちの前に引き連れられた。

その姿は、満身創痍。

総身に大小の傷を負い、鎧兜は所々砕かれていた。

尋常ならざる事態が起こったことは明白だった。


「お、おいっ!大丈夫か!?」


馬を下ろされ、横に寝かされた兵士に近寄る。

仰向けに寝かせないのは、背中にまるで熊にでも襲われたような、大きな爪状の傷がついていたからだ。


「どうした、何があった!?」


掴み掛からんばかりに詰め寄る翠。


「落ち着いて翠ちゃん。お水よ。飲めるかしら?」


翠を押し止め、伝令に水筒を差し出す。

かたじけない、と顔を起こし、二口三口と嚥下する。

ひとまず命に別状はないようだ。

水を飲み落ち着いたのか、それでも重そうに、口を開いた。


「私は昨日、城門の門番をしておりました――――」




…………

……




昼を過ぎた頃、ある人物が城を訪ねてきたようだ。

馬超様にお目通り願いたいのですが…

そう言ったらしい。

外套を目深に着ていて顔は見えなかったが、声は女性のようだった。


「私は、ただいま馬超様はおられません。御用でしたら、また日を改めて…と言い掛けたとき、彼女は頭巾を外したのです」


頭巾の下から現れたのは、金色の頭髪、紅玉のような瞳…

天女を思わせるような見目麗しい美女。恐らく西域の女性、が顔を出した。

彼女はこう言った。


「馬超様がこちらにいらしてるとお聞きしましたので、献上品をお持ちしたのですが…」


残念そうに目を伏せた後、その女性は不思議なことを口にした。


「これらは馬超様へのお品でしたが、いらっしゃらないのであれば仕方がありません。

 よろしければ、こちらは城内の皆様でどうぞ」


馬超様への献上品は、また日を改めますので――と、大量の酒樽を置いていった。

詰めていた兵は、嬉々としてそれを城内へと持ち込み、早々に酒盛りを始めたらしい。


「しばらくは城内から宴席の音が聞こえてきたのですが、二刻ほど経った辺りでしょうか…

 ふと静まり返ると、突如として獣の雄叫びのようなものがし始め、同時に城内から異形のものが溢れ出てきたのです…っ」

「異形のもの?」


伝令、もとい門番の独白を蒲公英は遮った。

話が一足飛びに進んだように思えたからだ。


「城内には…酒盛りしてた兵士たちが居たんだよね?」

「そのはずなのですが……あの、あの酒を口にしたからとしか…思えない……」


鮮明に思い出したのか、ガタガタと恐怖で身体を振るわせ始めた。


「筋骨隆々の体躯に土気色の肌…獣のような牙を生やし……

 五胡などとは比べ物にならない…あれは人ではなく、化け物、でした」


しかも、と一度息を吸い込み、


「その化け物どもは…我々と同じ甲冑を、身に着けていたのです……」

「「「…………」」」


水を打ったように静まり返る。


「私と、もう一人の門番、相棒は急いで街の方へ逃げたんです。しかし…街も同じような状況で…

 何とか街を脱出し、馬超様にお知らせせねばと思い立った所に、馬を一匹だけ見つけ…

 相棒は、俺を逃がすために……うっ…うぅっ……」


嗚咽を漏らす門番。悲愴な体験をしたのだろう。


「それで…天水は?」


今までの話を聞けば分かり切った事だが、それでも翠は、言葉で確かめなければならなかった。


「天水……陥落にございます」

「…………」


誰が?どうやって?何のために?

疑問は残るものの、ひとまずは報告を受け止める。


「ご苦労だったな。ありがとう。下がってまずは傷を癒せ」


門番を下がらせると、紫苑、と呼びかける。


「えぇ。まずは陣を張りましょう。あと、遠目が利いて身軽な人を4,5人選抜しましょう」

「よろしく頼む」


一気に戦時態勢に入る。

まずは状況の確認。


「偵察隊は、あたしが指揮する」


翠が切り出す。

しかし、


「それは…ダメよ、翠ちゃん」

「何でだよ?」

「全く、分かってないなー姉様は…」

「だから何なんだよ!?」


ため息、苦笑いの二人に苛立つ翠。


「姉様はこの隊の総大将なの!そんな人が偵察隊で先頭切ってどうするの!?」

「それは……でも、そのための紫苑なんだし、あたしが馬じゃ一番速いんだし…」

「一人で行くならともかく、偵察隊で一人だけ速くても意味無いわよ?」

「うっ…」


何も言えなくなる翠。


「じゃ、蒲公英が行ってくるね!」

「えぇ、よろしくお願いするわね。くれぐれも…」

「偵察だけだよね。街が無事でも一回帰ってくるし、本当に陥ちてても手を出さないで帰ってくるよ」

「はい。よく出来ました」

「…………」


こうして天水偵察隊は編成され、早々に出発した。

そして翌日…

戻ってきた蒲公英の顔は暗く沈んでいた。


結論を言えば、門番の伝えたとおり、天水は化け物で溢れていた。

中の様子までは分からないが、街が『陥ちた』ということは間違いなかった。

この事を踏まえ、軍議が開かれた。

といっても、既に紫苑によって場合別の議題は用意されており、天水が落ちていた場合に取るべき選択肢は二つだった。


「長安を通り洛陽に抜けるか、五丈原から漢中に抜けるか、か…」


漢中へは道が険しいが距離が近く、洛陽への道は比較的ゆるやかだが、距離は遠い。

この二択であれば、取るべき道は一つ。


「漢中を目指そう。鈴々たちもいるし、成都への伝令も送りやすいだろ」

「そうね。漢中を防衛点に、成都から増援をもらい天水を奪還する。これが現状で取れる最善策でしょうね」

「…漢中も落ちてるって事は、ないよね?」


天水を目の当たりにした蒲公英が不安を口にする。


「天水から漢中を攻めるには陽平関を抜かなきゃならないだろ?滅多な事がなきゃ簡単には抜かれないだろうさ」

「そうね。漢中入りした時には異変もなかったし、大丈夫よね。……でも璃々も居るし。心配だわ…」


紫苑の娘・璃々は紫苑についていきたいと言って聞かず、漢中までは来たのだが、移動が多い関中入りはどうしてもさせられないと、何とか言い聞かせ、世話を桔梗に任せて置いてきたのだ。

こんなことになり、成都を出る時点で置いてこなかったことを、紫苑は今更ながらに後悔していた。


「よしっ!じゃあ漢中を目指そう!」

「えぇ」

「じゃあ、さっさと出発しよう!」


こうして翠一行は一路、五丈原へと馬首を向けた。







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