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恋姫OROCHI(仮)  作者: DTK
31/107

零章・壱ノ陸  ~空の星~

DTKです。

恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、31本目です。


今回で零章終了です。

過去改変前の物語の一端。

必ず、過去を変えなければならないと、自分自身強く思いました。


なお、実際の地形や距離とは異なった表現があります。

その辺、お含みおき頂ければと思いますm(_ _)m




遅い……


星の中では、ゆっくりと時間が流れていた。

集中の極地に至った星の目には、敵の動き、飛来する矢玉、全てがゆっくりに感じられた。

そのくせ、身体はいつもどおりに動く。


敵の突き出す槍の先が璃々に向かっていれば、敵の腕を切り落とし、

敵の放った矢が璃々への軌道を辿っていれば、その矢を叩き落す。

普段は難しい所業も、今なら容易い。

ゆっくりと宙を進む矢に対し、ちょいと槍を出すだけでいいのだ。


密集したように見える敵軍も、星の目には馬を走らせればいい筋が、光の線のように見える。

まるで鬼神にでもなったかのように、全てが視えた。

何故か音だけが、聞こえていないわけではないが、遠くに聞こえた。


一人突き、二人突き、矢を避わし、部隊を抜けると、眼には谷間を塞ぐように建てられた陽平関が飛び込む。

その手前に視線を移せば、桔梗や鈴々、見慣れた仲間たちが見えた。

自分と仲間の間に、敵の姿はほとんどない。






辿りついた…






わずかながら、困難を成し遂げた充実感が胸に過ぎる。


鈴々を見ると、こちらに向かって手を振り、何かを叫んでいるようだ。






「――っ!――――だ!!」






何を言っているのだろう?


音がまだ届かない。


璃々の…我らの帰還を喜んでいるのだろうか?


そしてようやく、耳の奥に音が届く。






「星っ!後ろに気をつけるのだ!!」






鈴々の声と指につられて、左後ろを振り返る。

そこには、何かを構えた十人ほどの敵がいた。

彼らが持った鉄の筒のようなものから、何かが飛び出してくる。

それがゆっくりと、とはいえ矢よりは速いが、こちらに向かってきた。


まずい。


そう本能が告げた。

あれに当たってはいけない、と。

避けようとするが、何故か身体も周りと同じようにゆっくりとしか動かない。


ならば、得物で叩き落すしかない。

得物を握る手に力を入れる。

しかし、


「――――っ!」


出来ない。

咄嗟に私は、右手に入れた力を抜き、逆に左肩を入れるように向きを変えた。






――――――

――――

――




パーーーーンッ!!!




「星ーーー!!!」


鈴々の目には、星の身体に弾が命中したように見えた。

グラリと、星の体が揺らいだ…と思いきや、


「あ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁ~~~~!!!」


すぐに体勢を立て直し、何事もなかったように手綱を強くしごき、敵陣を突破。

仲間の下に辿り着いた。


「鈴々!桔梗!!」

「応なのだっ!」

「あとは任せろ!」


星と璃々の生還に活気付く蜀陣営。

星はそのままの勢いで陽平関へ。

鈴々と桔梗たちも、二人の巧妙な用兵で、無事に関への撤退を果たしたのだった。






――――――

――――

――




「鈴々お姉ちゃん!桔梗お姉ちゃん!」


陽平関で二人を出迎えてくれたのは、元気な姿を見せる璃々だった。


「璃々ーー!」

「きゃ~~~~」


鈴々は璃々を抱き上げると、クルクル~と回りだす。


「星、ようやった!璃々を抱えての敵中突破。古今無双の槍働きぞ!!」


片や桔梗は、壁にもたれ掛かって休んでいる星に激励の言葉をかけながら、いつもの調子で肩を叩こうとした。

しかし…


「――っ!?お主……」


何かに気付いた桔梗。

叩こうと掲げた手を下ろし、目を見開く。


「すまん、桔梗。耳を……」

「あぁ……うむ…うむ……分かった」


星の顔に耳を近付け、星の口が動くのにあわせ、神妙な面持ちで頷く桔梗。

身体を起こすと、兵に指示を送る。


「みな、疲れているところ悪いが、すぐに剣閣まで撤退を開始する。残りの輜重を持ち、先行部隊との合流を急いでくれ」

「「「はっ!!!」」」

「綾那、歌夜。すまんが、お主らは護衛として付いていってくれんか。罷り間違っても、この関の向こうに彼奴らはおらん。頼まれてくれんか?」

「あ…はい、承りました」

「……分かったです」


こちらも神妙な顔で頷く歌夜と俯きがちの綾那。


「それと……璃々」

「はいっ!」


鈴々とひとしきり、じゃれ終えた璃々は、桔梗に名を呼ばれビシッと可愛らしく威儀を正す。


「璃々も疲れておるかもしれんが、あのお姉さんたちと一緒に行ってくれるか?わしらも、すぐに後から向かうからな」

「はい!あのね、璃々、星お姉ちゃんのおかげで、ぜんぜんつかれてないよ!だからだいじょうぶ!」

「そうか……」


桔梗はそう言う璃々の頭を優しく撫でる。


「綾那、歌夜。面倒をかけるが、璃々を…この娘をよろしく頼む」

「よろしくおねがいします!」


頭を下げる桔梗に倣い、同じように璃々も頭を下げる。


「分かりました。私は歌夜っていうの。よろしくね、璃々ちゃん」

「綾那は、綾那です…」

「璃々は、璃々っていいます!歌夜お姉ちゃん!綾那お姉ちゃん!」


さすがは璃々。すぐに打ち解けたようだ。

その様子を見て、一つ頷く桔梗。


「なら、すぐに出発してくれ!鈴々とわし、星はしばし残って敵の目を引きつける!」

「「「はっ!!!」」」






…………

……




「……行ったか」


元々撤退準備はしていただけに、すぐに撤退に移れた。


「で、桔梗。鈴々たちだけで何するのだ?」


撤収を手伝っていた鈴々が、首を傾げながら桔梗のもとへやってきた。

敵を引きつけるといっても、さすがに三人で出来ることは限られているのだが…


「鈴々……落ち着いて聞くのだ」

「にゃ?」


鈴々が首をかしげる。


「星が……死傷を負った」

「え……」

「恐らく、助からん」

「うそ、でしょ?……星…星はっ?星はどこなのだ!?」


撤収のごたごたの間に、星の姿は広間にはなくなっていた。


「……こっちだ」


桔梗は広間の隅にある、門番が詰めるための小部屋へ促す。

間髪いれず、鈴々はその扉を荒々しく開け、


「星っ!!」


室内に駆け込んだ。




なんだ鈴々、騒々しい。




鈴々が期待した声は返ってこない。


「ハ………ァ………」


聞こえてきたのは、蚊が鳴くように小さな息擦れの音だけ。

星は部屋の隅で座り込んでいる。

うつむいていて、顔色は窺えない。


「星!星!!」


ピチャッ…


星に近付く鈴々の足元で水音がした。

視線を送ると、そこには血溜まりが。

元を辿れば……星の血だった。


「……一応、止血はしたのだが」


左の肩のあたりに布が当てられているが、既に真っ赤に染まり、止血が意味を成していないことがわかる。


「……ん。…あぁ、鈴々と桔梗か……」


いま気が付いたように顔を上げる星。

縋りつきそうな鈴々を制し、


「お主の言うとおり、璃々たちは先に剣閣へ向かわせたぞ」


桔梗が必要なことを告げる。


「…すまない」


頭を下げる星。

力なく落ちたようにも見える。


「星……どうして?どうしてなのだ!?」

「あぁ……下手を打ってな。高速で…飛んできた弾を、避けきれなんだ…」

「やっぱり!あの時、当たっていたのか!?」


そのあと何事もなかったようにしていたので、見間違いだと思っていた。


「でも、星ならあれくらいどうにか出来たはずなのだ!気付いてたんだろ!?」

「うむ…あのときの私には、全てのものが……視えていた。弾こうと思えば…弾けただろう。だが…」


そこで押し黙る星。

言葉が告げないという風には見えないが…


「そうか……璃々、か」

「あっ――」


あの時、星が得物を手にしていたのは右手。

加えて射手がいたのは、星の左後方。

射撃に対して正対しようとすると、胸に抱えた璃々を射線に晒すことになる。

絶対に全ての弾を璃々に当たらないように弾く保障が出来ない以上、その賭けは出来ない。

ならばと、星は逆に射線に対し背を向けることで、璃々を守ろうとしたのだ。


「――っ!」


星が眉をひそめる。


「大丈夫かっ!?」

「……っはは…大丈夫かと問われれば、大丈夫では…なかろう。恐らく、あの弾が…心の臓まで、届いているのだろう…」

「そんな…」

「あの兵器は、危険だ……一発で、人の息の根を止める、力がある……鍛錬した身体も、熟練の槍も、関係ない……当たれば終わる…だから、お主らが……璃々や兵…そしてかの娘らを、守ってやってくれ……」

「……分かった」

「星…星は、どうするのだ?」

「…私は、ここに残る。……治療も能わず、最早…動くことも、ままならん…」

「そんな……」


鈴々の顔が、より一層曇る。

星は蜀の中でも、最も早く出会い、最も長く時を共にした一人だ。

味わった苦楽は語り尽くせないほどある。

そんな星との思い出が、鈴々の頭に過ぎる。

恐らく、星も同じだろう。


「……お館様や桃香さまたちに、何か遺す言葉はあるか?」

「いや……特にない。…一言、だけ……申し訳ない、と……」

「……分かった」


星の言葉を文字だけではなく、所作や顔つき、様子の全てを伝えるため、桔梗は鮮烈に、星の全てを脳裏に焼き付ける。


「星……」

「鈴々よ……辛いことも、多々あったが…ご主人様たちとの、激動の日々……楽しかったな…」

「うん……うんっ…!」


鈴々は大きな瞳からポロポロと涙を零しながら、何度も頷く。


「ははっ……それに、結局…お主との、最後の勝負は……私の勝ちで…終わったな…」

「そんなこと…ないのだ。また、成都に帰ったら……もう一回、勝負なのだ!!」

「…あぁ。……そうだな」


微かに星の口元に笑みが浮かぶ。


「…桔梗。そろそろ私を……関の、上へ…」

「…分かった」

「何を、するのだ?」

「この、動かぬ身体を使い…最後の一計を、な……」


なるべく痛みがないようにと気をつけながら、星を抱え上げる桔梗。

その身体は恐ろしく軽く、そして冷たく感じた。




…………

……




関の上に立ち、眼下の敵軍を見下ろす。

得物を突きたて、仁王立つ姿は、遠目から見たら怪我など微塵も感じさせないだろう。

しかし、実情は得物を杖にしていないと立ってなどいられない状態なのだ。


「私がこうして、ここに…立っておれば……すぐには敵も、攻め込むまい…その隙に、少しでも……剣閣へ…成都へ…」

「…あぁ」

「星……」


一度(ひとたび)、今の姿勢になったが最後、振り返ることも、動くことすらも出来ない。

ただひたすら、この姿勢を保ち、我ここにあり、と示すことが星に出来る最期の役目。


「さらばだ……朋友よ…」


背を向けたまま、そう、言葉を放つ。

振り向きたくとも、最早それも叶わない。


「うむ……さらばだ、星よ」


一足先に踵を返す桔梗。


「…………」


鈴々はいつまでも、この共に在った背中を見つめていたかったが…


「…鈴々」

「……分かってるのだ」


それは出来ない。

星が敵を引きつけている間に、少しでも遠くへ逃げなくてはならないのだ。


「星……」


最後は、笑顔で。


「またね、なのだ!!」


鈴々の目には確かに、笑った星の顔が見えた。








またね、か……


最後まで前向きな鈴々に、思わず心の中で笑った。


眼下には、敵が広がっている。


……もう、ほとんど見えないが。


私がここに立ち続けていれば、敵も兵の不在に気付くまい。






あぁ……しかし私は、いま立っているのだろうか?


気持ちは立ち続けているが、最早感覚が無い。


両の脚は地についているのか。


手に得物は握られているのか。


もう、確認する術はない。






例え、このまま身体が滅び、魂魄になろうとも、


この地を守護奉らん……!








だけど……




もし、




もし、叶うのであれば…






生まれ変わってもまた、






主や、桃香さまたちと、共に………








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