第30話 冷えたエールをみんな飲みたかったようで
「冷えたエールだと・・・?」
一瞬静まり返る食堂。皆が食堂の主人のほうを見る。食堂の主人であるバルツが口を開く。
「実は、冷やす魔道具が冷えなくなっちまってなぁ。だからこの夏は商売上がったりよ。」
厨房を見ると、マギで製造販売している魔道具〈冷蔵庫〉が、確かに置いてある。しかも業務用の結構高価なモノであるが、奮発して買ったのだろう。ルーシアはこれの構造を熟知しているので、見せて貰うことにした。
「・・・なるほど。これは簡単に直らないね。魔力回路をネズミか何かに齧られてる。」
「ルーシアさん分かるのか? さすが魔法使いだ。しかし、簡単に直らないのか。」
「・・・簡単には、ね。でもあたしの手にかかれば・・・」
そういうとルーシアはバッグから道具を取出し、ネズミに齧られた部分を避けて魔力回路を引き直す。すると冷蔵庫がほんのりと冷え始めた。どうやら直せたようだ。マギで培った技術と魔力量がある彼女だからできる芸当である。
「うおー! 冷えてる! 直ったぞ! ありがとうルーシアさん! これは俺のおごりだ、飲んでくれ!」
と、バルツが冷えてないエールを出してきたが、冷蔵庫に入れて冷えるまでにはまだしばらく時間がかかるから仕方ない。とはいえ、ルーシアには何の問題もない。ギリアスが語り出す。
「そういえば、先ほど話した通り、ルーシアさんは山賊を氷魔法で退治した。ということは・・・」
『エールを冷やせるのか?!』
(・・・あ、これ、みんな望んでたヤツだ。)
ルーシアはギリアスのジョッキに軽く手を触れると、表面にうっすらと霜が付く程度に冷やす。冷えたエールをギリアスが一口飲むと、急にキリッとした表情になり、残りを一気に流し込んだ。
「っぷは! これじゃ! やはり冷えたエールは最高じゃのう!」
「マジか!? 次は俺のも頼む!」
「冷えたエールなんて今年は飲めなかったかなら! ありがてぇ!」
次から次へとエールを冷やしてあげるルーシア。自分へのお礼の晩餐のはずなのになぜ働いているんだろうとちょっと思ったが、頭の中はすでに商売に向けて動き始めていた。
魔道具の修理ができない、ということは、魔法の使い手や魔道具がこの村に無いか、出来る人がいない事の証明である。であれば、魔道具のメンテナンスや魔石を活用した魔道具を売り、魔道具駆動用の魔石も売れば、そこそこの収入を得られてスローライフできるのでは?等々、大雑把にではあるがライフプランを立てていた。
そんな妄想も程々にし、自身も冷やしたエールをちびちびやりながら料理をつまんでいたが、酒が美味くなると次に欲しくなるのは美味い魚である。魚はルーシアにとっては甘芋に並ぶ好物である。そしてルーシアはすでに異変を感じていた。




