夢
高校球児がドラフト入りする確率は約0.1%程度らしい。
1000人中たったの一人。
だから、
俺は小学生の頃に、夢を諦めた。
丁半博打は50%で勝てる。
ギャンブルより、
割りが悪い賭けなんて、アホじゃねぇか。
そう思った。
でも、
今は俺のほうがよっぽどアホだったと思う。
真実を知ったから。
――――
「いてててて……」
後頭部が鈍く痛む。
「おい。気が付いたか?」
坊主頭のいかつい身体の奴が、俺を心配そうに見ている。
服装がおかしい。
なんだこいつはコスプレでもしてるのか?
いや、
それにしても、リアルだ。
身体には生傷があるし、
おまけに、
この男、獣臭い。
「ここはどこだ。それにあんたは?」
「おいおい。ミック、だいじょうぶか?」
男は言った。
ミック……、
誰だそれ。
こいつは何を言ってるんだ。
知り合いにこんな男はいない。
どっきりか?
知り合いに動画配信者とかいないしな。
それにこの部屋。
暗いしボロイぞ。
「だから。
ここはどこだ。それにあんたは?」
「俺はコマ。お前の雇い主だ。そしてここは宿屋だ」
コマ……、
雇い主……。
さっぱり何がなんだか、わからない。
それにここが宿屋。
うん?
宿屋って、そんな言い方しないだろ。
「俺らパーティは、ちょっと深層のダンジョンに潜ってたんだがな、槍使いのヤマが敵の攻撃をもろにくらってしまって、そこから総崩れになり、逃げて帰ってきたんだ」
コマという男はそう言った。
ダンジョン?
槍使い?
(ばたん)
扉の開く音がする。
男が二人入ってきた。
一人は目つきが鋭く、もう一人はおどおどしている。
この二人も変わった服装をしている。
一人は皮の肩当てと胸当て。
一人はローブ。
「ようミック。よかったな、生きてて」
皮の肩当てと胸当てを身に着けた、
目つきの鋭い男は言った。
もう一人のおどおどしたローブの男は頷いている。
「ヤマは残念だったな」
コマは言った。
「いや、あれは仕方ない。まともに喰らったからな。それより俺らが生きて帰れたことが奇跡や」
目つきの鋭い男は言った。
もう一人は又頷いている。
「ヤマが生きてる確率は?」
コマは言った。
「助かる確率ですか……。
そうですね。1000人中一人。
0.1%くらいですかね」
おどおどした男は少し考えながら言った。
1000人中一人。
またその数字か。
ドラフト入りと同じ確率。
なら死んだな。
俺はそう思った。
「それで補充メンバーどうする?」
コマは二人をじっと見た。
はは。こいつらも死んだって思ったな。
そうそう1000人中一人に賭ける奴なんかいねぇよってこった。
俺は小学生の頃の選択が間違いなかったと実感した。
「それでさっきギルドに行ったんだけど、ムリやったわ。
槍使いの替えはいないわ」
目つきの鋭い男は頭をかく。
「まぁいいか。
こいつもケガしてるし、俺たちもしばらく休もう。
じゃあミック。これは今回の報酬だ」
コマは俺に金らしきモノを渡した。
ズシリと重い。
これなら、
しばらく遊べそうだ。
そう思った。
「パチンコ屋はこの辺にないか?」
俺は思わず尋ねる。
「パチンコ屋? なんだそれ」
コマは不思議そうな顔をする。
「賭場だよ。賭場」
俺は言った。
「賭場なら、橋向こうの、あの汚い建物でやってるぞ」
コマは指をさす。
「わかった。じゃあ行ってくる」
俺はベッドから起き上がる。
「おいおい。死にそうな目にあったっていうのに、いきなり博打か。
頭おかしいんじゃない?」
目つきの悪い男は俺を見下したように見る。
「はぁ? なに言ってんだ。しばくぞ。コラ」
俺は言った。
「なに言ってんだ。荷物持ち風情が」
目つきの悪い男は、
俺を睨みつける。
「アラ。やめとけよ。お前もこれから女郎屋に行くんだろ」
コマは笑った。
この目つきの悪い男は、
アラというのか。
「リーダー。あんたもこれから酒を飲み倒すんだろ」
アラは言った。
「ヤマさんが、あんな事になって、博打打ちがいなくなったと思ったら、今度はミックさんですか。
なんなんですか。
このパーティ、飲む打つ買うの連中しかいないじゃないですか」
おどおどした男があきれ顔をした。
「うるせぇ。ニコ! お前もろくに人としゃべれないだろうが」
アラはおどおどした男を小突いた。
「もう暴力反対ですよ。ファイアボールで髪の毛燃やしますよ」
ニコという男は言い、杖から小さな火を出した。
なんだそれ。
えっライターかなにか?
バーナー?
こいつ。
溶接工か何かなのか?
いや違う。
火が丸っこく浮いてる。
「あぁそれは勘弁。そんな事したら、女の子にモテなくなるわ」
アラは手をあわせ、苦笑いをしながら謝罪した。
「じゃあなミック。3日後、またダンジョンに潜るから。ゆっくり休んどけ。
俺らはいつもどおりこの部屋にいるから、なんかあったら声かけろ」
コマはそう言い出て行った。
ニコとアラも同じように出て行った。
一人きりの宿屋の部屋で俺は考える。
この世界はなんだ。
それにミックって誰だ。
俺はミックじゃない。
源二だ。
博徒の源二。
そう周りに言われた、生粋のギャンブラーだ。
俺は窓を見る。
外から冷たい風が入ってくる。
なんだ。
窓ガラスがないじゃないか。
それに石造り。
コンクリートを何も使ってない。
俺は天井を見る。
照明器具がない。
ベッドを見る。
無塗装の木のベッド。
ベッドを押してみる。
柔らかくない。
シーツをめくる。
藁だ。
マットレスがなく、
シーツの下に藁が敷いてあるだけ。
なんだこの建築。
10年くらい鳶の仕事をしていたが、
こんな建築物は見たことがない。
おかしい。
俺は窓から外を見る。
見える建物は二階建てか平屋ばかりだった。
そして建物は、
ぱっと見、
石造りと木造の建物だけ。
タイル張りも、コンクリートも、トタンすらない。
道路はアスファルトではなく石畳。
しかも、
車も標識もなく、
看板の文字も知らない文字だ。
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