3話
(か、神様!? いやいや、元過労死サラリーマンだって!)
あまりの飛躍に、俺は全力で否定のツッコミを入れたかった。
だが少女は真剣そのものだ。 ここで下手に激しく点滅して怖がらせるのもマズいか……?
(どう答えたもんか……)
答えに窮した俺はとりあえず反応として、肯定でも否定でもない曖昧な光を放ってみた。
「あ……」
少女は俺が光ったのを見て、それを神秘的な肯定か何かと受け取ったようだ。
彼女はおずおずと両手を胸の前で組んだ。……なんか祈りのポーズっぽくなってないか?
「か、神様……あの、ありがとうございます。助けてくれて……」
(もう「神様」呼びで固定されちゃった……)
まぁいいか。神様だと思われているうちは、少なくとも俺を蹴飛ばしたり捨てたりする心配はないだろう。
むしろ丁重に扱ってくれるかもしれない。彼女がここに滞在してくれればDPが溜まる俺としては、今のところ神様ムーブを続けるのは悪くない選択かもしれない。
少女はスープを飲み終え、空腹と寒さから解放された安堵感で少しほぅっとしている。俺の意識の中ではまたDPがゆっくりと溜まり始めていた。
[DP: 6] …… [DP: 7]
(さて……これから何をすべきか?)
少女は確保した。DPも稼げるようになった。
だが、問題は山積みだ。この部屋はボロいままだ……。
夜になれば真っ暗になるだろうし、粗末な扉では例の奴隷商人や魔物とやらがいつ入ってきてもおかしくない。
俺は改めて脳裏に浮かぶリストを確認した。DPが 7 しかない今、高価なものは生成できない。
(そうだ、食い物や布だけじゃダメだ。もっと……この場所自体をマシにする力はないのか!?)
俺は意識を脳裏に浮かぶリストの「外側」へと集中させる。
【食料】や【雑貨】だけじゃないはずだ!
【拠点強化】とか【防衛】とか、そういう項目はないのか!?
出てこい!
俺の必死の念が通じたのか半透明のウィンドウが一度かき消え、再び再構成された。
さっきまではなかった、新しいタブのようなものが見える!
(……あった! やっぱり!)
【生成リスト:基礎食料】
【生成リスト:生活雑貨】
【生成リスト:拠点機能】
(これだ!)
俺は興奮気味に【拠点機能】のタブを開いた。
そこに表示されたのは……。
【生成リスト:拠点機能】
扉の補強 粗末な木製 → 頑丈な木製 …… 100 DP (DP不足)
鍵 …… 50 DP (DP不足)
石壁の修復 …… 300 DP (DP不足)
フロア増設ガチャ (低コスト) …… 1000 DP (DP不足)
管理人アバター (粘土) …… 5000 DP (DP不足)
(……うわっ、たっっっか!!!)
表示された数字の桁が食料や雑貨とはまるで違う。一番安い鍵ですら 50 DP。
今の俺のDPは……[DP: 8] さっきより少し増えたけど……。
(……ダメだ、全然足りない)
フロア増設ガチャとかアバターとか気になる単語も見えるが、今はそれどころじゃない。
現実的な防衛ラインである鍵すら今のペースだと何日かかるか……。
(……50DP? 100DP? 無理ゲーすぎだろ!もっとこう、安くて……今すぐ効果がある防衛手段は……!?)
俺は焦りながら脳裏のリストをもう一度必死に確認する。
【食料】……違う。
【雑貨】……松明(10DP)も足りない。
【拠点機能】……高すぎる。
(タブはこれだけか? 見落としは……ん?)
【拠点機能】のタブの、さらに下。 さっきは気づかなかった小さなカテゴリ表示があった。
【生成リスト:拠点機能】
扉の補強(100 DP)
鍵(50 DP)
【生成リスト:召喚 (ガチャ)】 (← NEW!)
(……召喚? ガチャ?)
胡散臭い単語が並んでいる。俺は恐る恐るそのタブを開いた。
【生成リスト:召喚 (ガチャ)】
一般魔物ガチャ ([C]コモン) …… 5 DP
コモン装備ガチャ(一つ) …… 30 DP (DP不足)
フロア増設ガチャ(低コスト) …… 1000 DP (DP不足)
(あった! しかも、安い!?)
「一般魔物ガチャ」、5DP。 さっき生成した「ふかしたパン」と同じ値段だ。今のDPは 8。余裕で引ける。
(だが、待てよ)
俺の脳が急回転を始める。脳なんてないけど……。
(まず魔物は俺の言うことを聞くのか?そんな危険そうなものを、この狭い部屋に呼び出してどうするんだ?)
(次に、なぜこんなに安い? パンと同価値の魔物って……)
(役に立つのか? 5DPの魔物が……?いや、それ以前に……)
俺は目の前で俺を神様と信じて静かに座っている少女に視線を移した。
(……いきなりこの部屋に「魔物」が出現したらどうなる?せっかく俺を「神様」と信じて安心しかけてるのに、化け物を召喚する神様なんて、恐怖以外の何物でもないだろ……最悪、パニックになって外に飛び出して、それこそ奴隷商人や外の魔物に捕まる可能性だってある)
俺が悩んでいる間にもDPは静かに加算されていく。
[DP: 9] ……[DP: 10]
(お、10になった。これならガチャを引いてもまだ5DP残る。パンも食わせられるが……)
悩む時間は、そこで終わった。
ガァンッ!!!
(っ!?)
突然粗末な木の扉が外から蹴破られたかのような轟音を立てた。
さっきまで静かだった部屋に怒号が響き渡る。
「いたぞ! こんな所に隠れやがって!」
扉が乱暴に開け放たれ、二人の男が雪崩れ込んできた。
一人は派手な服を着た太った商人風の男。脂ぎった顔を怒りに歪ませ息を切らしている。
もう一人は、腰に剣を下げた護衛らしき男だ。
「ひっ!?」
俺のそばに座っていた少女が金切り声のような悲鳴を上げた。 顔は真っ青になり、ガタガタと震えだしている。
「こ、来ないで……!」
少女は慌てて立ち上がり、俺の後ろへと後ずさった。
「逃げられると思うなよ、クソガキが!」
太った男が、護衛の男に顎をしゃくる。
「おい、捕まえろ! 今度こそ逃がさん!」
「あぁ!」
護衛の男が少女に手を伸ばしながら、近づいてくる。
(まずい! まずいまずいまずい!!)
絶体絶命だ。
俺のDPは 10。
だが、【召喚】の「一般魔物ガチャ (5DP)」なら、今すぐ引ける!
──やるしか、ない!
♢ ♢ ♢
[現在の拠点状況]
拠点名: (未設定)
階層: 1階のみ(コアの部屋兼入り口)
設備: なし
DP: 10
訪問者: 3名(少女(怯えている)、奴隷商人、護衛)
その他: 床に空の食器類、ぼろ布。
♢ ♢ ♢




