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元社会人配信者、ダンジョン芸術で食っていく 〜娘にバレずにゴスロリ姿で世界救ってました〜  作者: 製本業者


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38/40

38. 落ちる音すら聞こえない

メイド服での軽快なパルクール配信――しかし、背後では加藤と舟橋への断罪が進行中。

新たなダンジョンへの移動と、インゲンの進路にも変化が訪れ始める。

「よし、そろそろ最奥部に近いな」


レンズ越しの視線を意識しながら、俺は少し身をかがめて目の前の段差を跳び越えた。丈の短いメイドスカートがひらりと舞い、コメント欄が騒ぎ出す。


『それスカートの意味ある?』

『見せパン確認!』

『ってホットパンツ?』

『なんでメイド服……あ、案件か』


「そう、PANDORA社の新作。可動域は広いし、何より軽いんだ。アクションには最適だ。

……見た目以外は、な」


視聴者のツッコミを受け流しつつ、移動中の無人エリアで少し休憩を取ろうとした時だった。スマートグラスの通信が点滅する。


【着信:NeoTask社】


「主任さん?」

『やあ、お疲れさま。

って、主任さん呼びは勘弁してよ。またコメント欄でいじられるじゃ無い。

で、配信中に悪いけど、ひとつ朗報。あの特許の件、順調にまとまってきたよ。

あとは、例の新物質アレの話だ』

俺は姿勢を正した。あの、記録にすら載らなかった奇妙な鉱石。

「いま話しても大丈夫な話ですか?」

『まあ、詳細じゃ無く、場所だけなら。

中国地方の海岸からは少し離れてるけど、中国山地までは行かないって場所でね。

いわゆる、山陽道って呼ばれてるあたり。

地元では遺跡って呼ばれてる小型ダンジョンで、似た反応が出た。探索者ネットワーク経由で、あんたに行って欲しいって声が上がってる』

「行くさ。距離はあるけど、悪くない。むしろ面白そうだ」

実際、中村主任なら大神鉄也の経歴知っているだろうから、俺があのあたりの出身だってのは想像ついてるだろう。

『だと思った。じゃ、座標送る。そっちの装備は……ま、PANDORA案件として継続だね』

俺は通信を切り、軽くジャンプしてポーズを決める。


「というわけで、次回は中国地方ダンジョンからお届け予定。お楽しみに」


☆ ● ◇ ● ☆


――東都電装 本社 大会議室


「……さて。お集まりいただきありがとうございます」

その一言で始まった村山専務の開会の挨拶には、氷のような冷たさと張り詰めた緊張が宿っていた。

臨時役員会。社内の中枢にいる者たちが顔を揃えたこの場に、加藤部長と舟橋課長は技術アドバイザーとして招かれていた。藤波の席が、役員側でなく加藤達の近くだった事も、アドバイザーという点を強調して言うように思えた。


しかし、配布された資料の束とスクリーンに映し出される映像を目にした瞬間、彼らの顔色が一変する。

メールのやり取り、回線ログ、内部資料のバージョン履歴、録音データ、果てはカードデザインの改ざん前後の比較資料まで――

次々と突きつけられる「証拠の山」は、もはや議論の余地を許さぬ断罪の刃だった。


「……これ、俺らの参考資料ですよね? え、あれ……?」

舟橋が小声で加藤に耳打ちする。焦りが声に滲む。

だが加藤は言葉を返さない。ただ、唇をきつく噛みしめ、視線を逸らしていた。

その理由はすぐに明らかになる。


会議室に響く再生音声――そこには、かすれた笑い混じりの加藤の声が、あまりに明瞭に刻まれていた。

「いいから、企画部に全部押しつけとけ。

どうせアイツら、証拠も持ってないし反論できるわけないだろ」

会議室に重い沈黙が落ちる。


続けて読み上げられるのは、NeoTask社からの正式な抗議文。

パワハラの事実を示す録音の提出と、加藤個人に対する名指しの申し入れだった。


「そんな……まさかここまで……」

加藤は椅子を引いて立ち上がろうとする。

その瞬間――

「――座っていていただけますか。

まだ、終わっていませんので」

ぴしゃりとした一言を放ったのは、藤波役員だった。

その声音には一切の情けも感情も含まれていない。

「この場での私は、被害者であり、証人でもある」

冷たく、静かに、逃げ道を断つように。

加藤と舟橋は知らなかった。この会議の直前に、藤波が不適切な対応で会社に損害を与えたとして糾弾された事を。


会議室全体が張りつめた氷の中に閉じ込められたかのようだった。

加藤の顔がみるみるうちに青ざめる。舟橋も、立ちかけた姿勢のまま凍りつき、ぎこちなく腰を戻す。


視線を向ければ、これまで見下してきた同僚たちの目に宿っているのは、もはや軽蔑でも怒りでもなかった。

ただ、終わった者を見る冷たい無関心――哀れみすらない断絶の感情だった。


「……こんなはずじゃ……」

加藤の喉から絞り出されたその言葉に、誰一人、返事をする者はいなかった。


全てが、静かに、確実に、彼らの足元から崩れていく。

その音すら、もう聞こえないほどに。


☆ ● ◇ ● ☆


――中国地方某県・山中ダンジョン前


到着したのは、山の頂上から少し外れた広場。天然杉に囲まれていると言う、花粉症には地獄のような場所。

昔は石組の遺跡だったらしいが、今ではその一部が崩れ、ダンジョンの入り口として口を開けている。


周囲に人影はなく、かつて観光客で賑わったらしい休憩所も、今では壁の鏡が白く曇って、まったく役に立たない。


「今日は下見だから、入り口周辺の調査だけな」

そう言って、俺は配信を開始した。


カメラ越しに映し出されるのは、苔むした石階段、雑草に覆われた回廊、そして岩盤が剥き出しの洞窟状の割れ目。


「……自然系、建造系、洞窟系。三つ巴の構造か」

足元を確かめながら、解説を交える。


『属性てんこ盛りw』

『ダンジョンの福袋きたw』

『開発中にバグってそのまま実装された説』


「いや、案外わざと混ぜてるのかもしれないな。

例えば、探索者を迷わせるためとか、適応力を試す目的とか」


そう言って、俺は石段に手を当てる。ひんやりとした苔の感触と、微かに残る人工的な削り跡が指先をかすめた。


「これは……やっぱり誰かが手を加えてるな。

自然にしては、配置が整いすぎてる」


『罠あるってそれ』

『この構造、なんか誘導されてる感じあるよな』

『次回予告:トマソン、動く。』


「……だとしても、ここは拠点候補に値する。

気候も安定してるし、通信状況も悪くない。なにより、周囲に変異モンスターの痕跡が少ないってのは好材料だ」


言いながらも、俺はふと立ち止まる。カメラを見て、小さく苦笑した。


「……いや、まだ決め打ちは早いな。こういう時こそ、慎重に」


『めずらしく慎重w』

『どこ行ってもすぐ拠点にしたがる癖なおしてw』

『そろそろ拠点詐欺ってタグ付けられそう』


「うるせぇな。お前らがすぐ住めば?とか言うからだろ」


それでも――

画面越しの冗談交じりのコメントに、どこか背中を押された気がした。


「ま、まずは一周してから判断しようか。変なトマソンが出てこないうちに」


『フラグ立てんなwww』

『次、絶対なんか出るやつじゃん!』

『はよ行けw』


俺は苦笑しながら、崩れたアーチをまたいで、一歩目を踏み出した。

ただ……

このダンジョン、正直、気に入った。


☆ ● ◇ ● ☆


――東都電装 本社:断罪の間


プロジェクターに映し出されるのは、まさに証拠の洪水だった。


改ざんされた修正履歴、ログの不自然な上書き、そして決定打――

会議室に再生された音声ファイルが、静寂を切り裂いた。


「このカード、ちょっとデザインいじっておけばバレないって。そもそも、民間のオタク企業の仕組みでしょ?」


軽薄な口調で録音された加藤の声に、会議室のあちこちから失笑が漏れた。


「そのオタク企業が、国際探索者協会を通じて政府認証を受けていることは、ご存じなかったようですね」

村山専務の声は冷たく、まるで氷を這う刃のようだった。


「これは明確に、公文書偽造および行使にあたります。刑事事件として、すでに法務とも連携を開始しています」

「そ、そんな……! ちょっとしたアレンジだろ!? 俺は、そんな意図で――!」

加藤が椅子から身を乗り出すが、その目には焦りと恐怖しかなかった。


「わ、私たちは、技術側の情報が不十分で……それに小泉も、勝手に暴走して……!」

舟橋も必死に言葉を探すが、舌はもつれ、声はかすれていく。


「……はめられた……これは、NeoTask社の陰謀だ!裏で仕組まれてたんだ!」

「陰謀も何も……」

資料を手に、静かに立ち上がったのは、高橋だった。

「全部、あなた自身の言葉と指示と、その記録です。言い逃れようがありません」

そんな高橋の言葉に被せるように、村山が続ける。

「保身と虚勢だけで生きてきた代償だ。今さら助けを乞う資格なんてないだろ」


加藤はさらに続けようと口を開くが、誰一人としてその声に耳を傾けなかった。

舟橋は額の汗を拭いながら、机の下で必死にスマホを操作していた――チラリと見える画面から退職代行サービスを泥縄で検索しているようだ。

「よって、加藤泰成・舟橋賢吾の両名については、刑事告発を前提とした懲戒免職処分をここに決定します」

高橋の読み上げとともに、会議室の空気が凍りついた。

だが、それは怒りでも哀れみでもなかった。ただ――

冷たい沈黙と、嘲笑にも似た無関心。

彼らに味方する者は、一人もいなかった。

そして、加藤と舟橋はその沈黙の重みに耐えきれず、互いに責任をなすりつけながら、会議室を後にする。


その背中に、誰も声をかける者はいなかった。


☆ ● ◇ ● ☆


――それぞれの決断


夕刻、通信越しにインゲン……いや、翠から連絡があった。


『あのさ、イーブン。ちょっと聞いてほしいんだけど』

その声は、どこか浮ついていて、それでいて真剣だった。

『父さん、工場長代理になるの。で、家も買う予定なんだって。

今のとこより、ちょっと田舎になるけど、ママも通える範囲でって。

……ねえ、わたしも、そろそろ独立したほうがいいのかな。ほら、今って未成年の探索者って、親の承認必要じゃん。』

そういえば、国際的な協定で、ダンジョン探索者は20歳未満の場合は親もしくは保護者の承認が必要だった事を思い出す。


「たしかにそうだけど……無理に決める必要はないんじゃないか? 

時間はあるし、焦らなくても――」

『……そういうことじゃないの!』

珍しく、語気を強めたインゲンの声に、俺は一瞬言葉を失った。

「……悪い。俺も今、拠点を変えるかどうか迷っててさ。だから、なんて言えばいいか分からなくて」

その沈黙の中、彼女の息遣いだけが聞こえた。

『……ううん。言ってくれてありがとう。』

通信が切れたあと、俺はふぅと息を吐いた。

「難しいな。俺も、向き合うべき時なのかもな……」


☆ ● ◇ ● ☆


―― 東都電装 本社玄関前


タクシーの後部座席。

加藤は天井を見つめたまま動かず、舟橋はSIMの抜かれたスマホを握りしめたまま、指が震えていた。


スーツは乱れ、ネクタイは曲がり、額には脂汗。

かつて人を見下すためだけにあったその目は、今や恐怖と屈辱に濁っている。

まるで、社会という法廷に連行される囚人のようだった。


その様子を静かに見送りながら、高橋が言った。

「このあと、指定のホテルに一時的に保護します。

司法対応に備え、身柄は当社で管理。逃亡や証拠隠滅の恐れもありますから」

「念のため、医師も手配しておけ。過呼吸を装って搬送なんて、よくある手口だ」

村山専務は、冷ややかな声でそう返した。まるで、次の一手を当然のように打つ将棋指しのように。


「それと、今すぐPCと社内サーバーを封鎖しろ。

加藤・舟橋が関わった端末はすべて隔離。関係者のアクセスログも監視対象に。

……証拠隠滅は、絶対に許すな」

「承知しました」


誰もが理解していた。

もう、あの二人に未来はない。

かつて、保身と虚勢の言葉で他人を切り捨て続けた男たちが、今、自分の放った刃で真っ逆さまに落ちていく。


──それを哀れと思う者は、誰一人としていなかった。


冷たい夕風が、会議室のガラスを揺らす。

だが、その風は、何かを終わらせたのではない。

これから始まる、まだ夜明けの予兆すら見えない、再建の前触れだった。


村山は目を細めながら、高橋にだけ聞こえるように呟いた。

「よく吠える犬ほど、川に落ちたとき一番うるさいく騒ぐな」

なるほど、徹底的にたたく気か。

高橋は微かに笑って、静かに頷いた。



【To be continued】


今回もご覧いただき、ありがとうございました。

PANDORA案件の配信が続く中、舞台は中国地方へ。

一方、東都電装では加藤と舟橋に刑事告発と懲戒免職が決定。逃げ場なき断罪の果てに残ったのは、沈黙と無関心だけでした。

そして、イーブンとインゲンにもそれぞれの決断の時が迫ります。

次回、拠点の選択と未来への一歩が描かれます。

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