魔剣デュランティ
「お目覚めですか? ご主人? いえ、ここはお妃さまと呼ぶべきでしょうか? それとも、魔王様の奥様なので、魔妃様でしょうか」
目が覚めると、同い年くらいのメイドが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。控え目に言ってかわいい。自分が男だったら確実に一目ぼれしていただろう。
「別に魔妃でもなんでもいいわよ。名前は玲香だけど」
「レイカ様……素敵なお名前ですね。では、魔妃様と呼ばせていただきます」
「レイカじゃないんかい! まぁいいけど。あなたが魔王の秘書ね?」
「いえ、秘書はアシュタロト様というとても格の高い魔族の方です。私は魔王様の剣です」
魔王の剣。おそらく比喩表現だろう。魔王の剣などという二つ名がついているということは、相当に戦闘力が高いのだろう。
「へぇ。【魔王の剣】ね。なかなかイカした異名じゃない」
こんな華奢な女の子がそんな力を秘めているようには見えないのだが。
「? 何か勘違いされているようですね。私は実際に剣なのです。人間でも、魔族でもありません」
「へ?」
私が素っ頓狂な声を上げていると、彼女はすぐに一振りの剣に変身してみせた。深い藍色の塗装に、色とりどりの宝玉が埋め込まれた鞘に収まっている。だが、不思議と派手には感じない。成金趣味な感じもしない。魔王のセンスの良さが伺える。
いや、そんなことはどうでもいい。女の子が剣に変身した?
いや、剣が女の子に変身していたということなのか?
「これが私の本来の姿です。銘はデュランティと申します」
デュランティは剣の形態のまま声を発してみせた。
「へぇ。聖剣や魔剣の類はいろいろ見てきたけど、変身能力があるのは初めて見たわ」
「私も、魔王様との結婚を望まれる人間の方には初めてお会いしました」
「お互い変わり者同士ってことね。じゃ、これからよろしく」
私が手を差し出すと、デュランティは自律して鞘から抜け出し、斬りかかってきた。
避けられないほどのスピードではなかったので、とりあえず半歩後ろに退いて避けた。だが、一歩間違えば左眼が抉り取られていた。
「なに? 四天王倒してもまだ実力示す必要があるの?」
「そうではありません。純粋に、あなたと実際に戦って負けてみたいのです。あなたの力を、強さを、この身に刻んで頂きたいのです」
意図がイマイチ理解できないが、嘘を吐いているようには聞こえない。真剣に向き合ってやった方が良さそうだ。左眼の恨みもあるしな。
「いいよ。相手してあげる」
滞空する抜き身の剣と対峙する。視界の右端にある自分の剣を素早く手に取ると、抜き放って斬り結んだ。
にしても、人ではなく剣を相手に戦うというのは不思議なものだ。そもそも、どうすれば勝ったことになるのだろうか? 破壊するのはもったいないし。
数合打ち合うと、デュランティは距離をとった。すると、ナイフよりも小さいサイズにまで縮んだ。大きさまで変幻自在というわけか。これは予想以上に厄介だ。
ナイフは縦に高速回転し、手裏剣のようにこちらへ飛んでくる。
このサイズなら弾き飛ばすことは容易い。
と思ったのだが、デュランティは回転しながら徐々にその大きさを増していく。やがて、2mほどはある長大な剣となって襲い掛かってきた。
自分の剣で受け止めるが、重い。私の愛剣【レディレイ】はそれなりの名剣だが、果たして耐えきれるかどうか分からない。ならば、
「剣技【断山裂空】」
意図的に脳のリミッターを外し、全身の筋肉を弛緩させる。そして、一気に力を込め、横薙ぎの一閃を放つ。
2m余りあるデュランティは弾き飛ばされ、壁にめり込んだ。
「これで終わりね」
デュランティを手に取り、鞘に戻そうとする。
「油断しましたね」
デュランティは瞬時に人間態に戻り、私の首に蹴りを叩き込もうとする。
だが、遅いな。
私の正拳突きの方が速く決まり、デュランティは昏倒した。
全く。
面倒な剣だ。




