その三
廃部騒動から数えて十日目の昼下がり、踊り場で永田とすれ違った。
「おい」
その背に、ぼくは声をかける。
「なによ?」
壁紙への落書きをとがめられた三歳児のような顔をして、永田はふりかえった。
「お前、なにそれ?」
「なにって、ただのごみ袋よ。わたしが、サンタクロースかなんかにでも見えましたかね」
永田はポリ袋を背負い込む。中身は大量のアルミ缶で、からからと軽い音を立てた。サンタクロースというよりは、これから回収業者へ足を運ぶホームレスのようにも見える。
「……そんなに、金に困ってるのか?」
その無駄にでかい乳を使えば、金の稼ぎ方だっていろいろとあるだろうに。
「困ってないわよ! 本気で不憫そうな顔するのは止めてくれる⁉」
「じゃあ、なんだっていうんだよ。掃除時間でもあるまいし」
「なんだって、いいでしょう。べつに」
お前に答える義理はないとばかりに、そっぽを向く永田。
「そういえば、廃部になるんだってね。文芸部」
代わりに、返す刀でそんなことをいいだした。
「誰から聞いたんだよ」
「教頭から聞いた」
「まだ、廃部が決まったわけじゃない。今月中に活動実績提出すれば、万事解決だ」
「それも、教頭から聞いた。でも、どうせ無理だっていってたよ。ノベルゲームの提出なんか文芸部の烏合の衆なんかにできっこないって、皆にふれまわってた」
よっぽど九条の宣戦布告に腹を立てていたんだろうよ。
それにしたって、自分の高校の生徒を烏合の衆呼ばわりか、腐ったミカンのほうがまだ表現がポップなぶんマシに聞こえるくらいだぞ。
「教頭に吠え面かかせてやるからな、期待してまっておけ」
ぼくは、永田の眉間にびしっと人差し指を突き付ける。
「……まあ、適当に頑張りなさいよ」
それじゃあね。
つまらなそうに手をふる永田から視線を外して、内心、ぼくは溜息をついた。
なんだって、ひとがやる気を出し始めた途端に、廃部騒動だなんて邪魔だてがはいるのだろうか。
「──いいか、息子よ。悪いことってのはつづくもんだ」
ふと、親父がそう言っていたことを思いだす。
なんでも、ジャグラーのゴーゴーランプが光らず、四パチのへそに玉がはいらず、万馬券がただの紙屑になってしまう。そんな一日はだれにでもあるもんだ、と。
親父の場合はただの自業自得といえるが、しかし、親父がはなったその言葉自身に間違いはなかったと後々ぼくは気づかされることになる。
なにが言いたいかというと、事態は廃部騒動だけに留まらなかったのだ。




