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めいど・いん・はうす  作者: 池田 真奈
第一章 大剣使いの冒険者と小さな侍女ライリ
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第69話 路地裏での出会い

「あの馬鹿弟子が女を引き連れて故郷に凱旋とは未だに信じられんな…… 一体アイツの何処に惚れたんだか不思議で仕方がない」


ご主人様の師匠だと言う初老の男性の呟きを耳にしたライリは思わず笑みを浮かべてしまう。

似ていると言われてご主人様は嫌な顔をしていたけど、そっくりだと皆が言っている事がおかしくて仕方が無いのだ。

何処に惚れたかなんて部分的なモノでは無く、全てだとライリには断言出来る。


(きっとご主人様は知らないでしょう。 私が侍女として訪れる前に、既にご主人様と出会っていた事を…… でもその事はこのまま自分の胸の中に秘めて内緒にしておくつもり。 あの汚らしい姿をしていたのが自分だったと知られたくは無いから)







「お腹空いたね…… これっぽっちじゃ足りないよ」

「やっぱり、お腹いっぱい食べたいよね」


そんな話をしている子供達の着ている服は着古した服は継ぎ接ぎだらけで、傍目に見れば見すぼらしい物だったが着られる物があるだけでも幸せだと思うしかないのが今の孤児院が置かれている状態だった。

普通の家庭なら雑巾にでもしてしまうボロを纏うしかない貧困状態が続いている。


「良かったらコレを食べていいからね。 私はお腹一杯だから」


そんな子供達が暮らす経営難の孤児院では毎日の食事も満足に出せる訳では無い。

こんな少ない食事量で育ち盛りの子供がお腹が一杯になる筈も無いけど食べらるだけで幸せだと思わなければ悲しくなるだけだった。

そんな毎日を送っていても自分より小さな子供達にひもじい思いはさせたくは無い。

最年長の自分が我慢しなければならないと、その少女は己の心に言い聞かせていた。

その少女の名はライリ。

まだ10歳にも満たない幼い娘だったが甘えを聞いてくれる者はおらず、この状況を自分で何とかするしか無いと考えていた。


「やったぁ! ありがとう、ライリお姉ちゃん! じゃあ、僕達が貰っちゃうからね」


「ちゃんと半分こだよ!」


幼い子供達が自分が残した食事を取り合うように食べているのを見たライリは、僅かな食べる物さえ口に出来ない者さえいるのだからと自分達が置かれた状況を悲観する事は避けている。

そうでも思わなければ耐えられなかった。







「貴女が侍女(メイド)組合へ加入したいと言うライリさんですね。 提出して貰った書類には家事全般はこなせると書かれていますが、身元を証明出来る方はいるのですか? 私達の仕事は信用が第一ですから、ハッキリとした身分証明が必要になるのです」


自分が働いて皆を食べさせなければと考えた時にまだ9歳の子供でしかない自分に何が出来るのかと言えば家事全般しか無かった。

侍女(メイド)組合の存在を知ったライリは最後の望みとばかりに縋るような思いで訪れている。

だが着ているボロ布のような服は良い印象を持たれる筈も無いだろうと歯痒い思いに苛まれていた。


「私は孤児ですから身分を証明しろと言われても無理があります。 祖母が三年前に亡くなってからは誰一人身寄りが無いのです。 お願いです、私をここで働かせて下さい! 私には他に働ける場所が無いのです」


ライリの必死の願いを聞いて最初は困ったような顔をしていた組合長だったが、ここで自分が断わった場合に少女がどのような人生を送る事になるのかと思い悩む。

孤児院で暮らす子供達のために働きたいのであろう少女が、社会に受け入れられ無かったとした時、次に考えるのは犯罪行為なのでは無いだろうか? 生きていくためには仕方が無いと思うに至る可能性が高い。


「分かりました。 でしたら私が保証人になりましょう。 明日から侍女として働くための研修を行います。 毎朝遅れずに来るのですよ」


彼女の強い意志は絶対に良い方向へと導いてやらねばならないと組合長は考えたのだ。

そして目の前にいる小さな少女の嬉しそうな笑顔を見て自分の判断が間違いでは無いだろうと確信するのだった。


「では侍女として働くための服や靴をお渡しするので明日からはそれを着用して来なさい。 それと僅かばかりですが、支度金をお渡しするので身の回りの必要な物を買い揃えておくのです。 侍女として恥ずかしく無い姿を心掛けなさい」


渡された真新しいメイド服を見た少女の顔は、まるで花が咲くかのように綻んでいた。

この白と黒を基調としたオーソドックスなスタイルのメイド服は、王侯貴族の子弟に仕える年少の侍女の物として用意されている上質な物で、正直に言えば彼女に与えるのは不相応な代物だが、それでも構わないと思わせる何かを少女は持っていた。


「はい! 誠心誠意、一生懸命頑張ります!」


ライリは夢を見ているかのような思いに駆られていた。

渡された支度金で孤児院への帰り道に露店で髪を整える櫛と長い髪を縛る可愛らしい紐を買ったライリは嬉しくて自然と頬が緩んでしまうのを感じていた。

気が緩んでいたのだろう、普段なら通らない裏路地に入り込んでいた事に気付いたのは何者かに前後を塞がれてしまってからだった。


「通して下さい! 大声を出しますよ!」


気丈にも下卑た笑みを浮かべながら自分に近寄って来る男達に向けて警告したが、思わず声も震えてしまう。


「生意気なガキだぜ。 こんな所に来る奴なんかいるかよ。 汚ねぇガキだが露店で買い物をしてるのを見たからな。 金を持ってるんだろう? 有り金全部渡せば乱暴はしないでやるぜ。 あと買った物や手にしている荷物も置いて行けよ、売っぱらえば金になるからな」


「おいおい、黙って返しちまうのかよ。 ガキだが女だぜ? 俺は楽しませて貰いてぇんだがな」


どうしてこんなことになってしまったのか?

やっと孤児院に暮らす小さな子供達にご飯を食べさせてあげられると思っていた矢先の凶事に思わず涙が込み上げてしまう。

先程までの幸せな思いが吹き飛ぶかのような出来事にライリはただ震えるしか出来なかった。


「おいおい、テメエらガキ相手に何やってやがる? 情けねぇ奴らだな…… 恥を知れ恥を!」


突然現れた人物に驚いたのはライリだけでは無かった。

ライリを襲おうした二人の男達も驚いたようで、声を掛けて来た背の高い大柄な男性を睨み付けていた。

背中に大剣を背負っている所を見ると冒険者と言う職業の剣士なのだとライリには思い浮かぶ。

何でも屋的な職業だと認識していた。


「何なんだテメエ! 俺達に喧嘩を売ろうってのか?」


懐からナイフを取り出してチラつかせる男には目もくれずツカツカと歩み寄ると太い腕で男の手を捻り上げる。


「い、痛っ! 離しやがれ!」


「俺は今かなり機嫌が悪いんだよ…… 昨日漸く依頼を終えて家に帰ってみればベッドはカビだらけで寝れやしねぇしよ…… 何で疲れてるってのに床で寝なきゃなんねぇんだ!」


捻り上げた腕は不自然な方向に曲がり悲鳴を上げた男が地面を転げまわる。


「て、テメエは何者だ! 俺達に楯突くとはタダじゃおかねぇからな!」


その言葉を聞くや否や、威勢の良いセリフを吐きながらも後退る相方の男へと無言のまま突進して殴りかかる。

顔面を殴られた男は口から歯や血反吐を吹き出しながら飛んで行く。


「全く…… 俺もソコソコ名が売れて来たと思ったんだが、まだまだみてぇだな。 こんな奴らにケンカを売られるとはよ」


冒険者の男が手に付いた血を振り落としながら自虐めいた言葉を口にする。


「おいっ、こんな所にガキが来るもんじゃねぇぞ。 この辺りにゃ悪い奴しかいねぇからな」


震えているライリをチラリと見て男はニヤリと笑う。


(悪い人だけじゃありません、だってアナタが来てくれました……)


ライリはそう思いながら彼に視線を送る。

ボロ布みたいな服を着てボサボサの髪のままな自分が急に恥ずかしくなり思わず俯いてしまう。

普通の女の子として見て欲しかった。

そんな事を考えてしまった後は彼の事をまともに見る事が出来ない自分に気付くのだった。


「ほらっ、さっさと行け! また悪い奴らが来ると行けねぇからな。 大通りを行けよ!」


突然の出来事に動揺していまい、ただ小さく頷くだけのライリは彼の言う通りに路地裏から大通りへと歩き出す。

でも助けてくれた彼にお礼も言っていない事に気付き慌てて振り返ると、彼が露地の反対側から自分を見ていたのだ。

きっと私が無事に路地裏から抜け出したか心配してくれたのだと思い浮かぶ。


「ありがとうございました」


そう言いながら慌ててお辞儀をしたが、果たして自分の声は届いただろうか?

不安になっていたライリの思いを知らない彼は背を向けて向こう側へと歩き出し、ライリは心に一抹の寂しさを感じていた。

だが彼が背を向けながらもライリに向けて右手をゆっくりと上げて、別れの合図をしてくれた事に思わず心の底から喜びが込み上げて来るのを感じるのだった。



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