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君の瞳にあいたくて  作者: ゆいる
第二章 夏祭りと花火
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(4)


 二度と同じ相手と会うことはしない。

 わたしは〝お付き合い〟をするうえでそれを徹底していた。

 だからこそ、自分でも今のこの状況をあまり実感できないでいた。

「暑いねー」

「うん、暑い。溶けそう」

「あはは、溶けたサユちゃんも美味しそうだね」

「アイスじゃないし」

 手のひらでぱたぱたと顔を仰ぎながら、駅前の雑踏の中を歩く。

 照りつける太陽は徐々に存在感を増し、夏ははっきりとそこにあった。

 中途半端な時間帯のせいか、通学、通勤する人たちの波は落ち着き、通りもいくらか静けさを取り戻していた。

 学校を出てから直接ここに来たわたしの格好は制服のまま。訝しむ人が少ないのは、それだけで気が多少楽になる。

 並んで歩く、というにはちょっと微妙な距離。

 ユウイチは頭の後ろで手を組みながら、悪戯っぽく問いかけてきた。

「ところでサユちゃんさー、あれから俺のことシカトしてたっしょ? メールも電話も、全然反応なかったし」

「うん、まあ、ね。でも、ユウイチだからそうしたってわけじゃないよ」

 アドレスはともかく、伝えた電話番号はデタラメなものだし、当然といえば当然のことだ。わたしは、二度と連絡を取るつもりがなかったのだから。

 もちろん、わざわざそれを教える必要もない。

 それでも、わたしがこうしてルールを曲げてまでこの男と会っているのは、……どうしてだろう。自分でも、よくわからない。

 人恋しかったのは確かだけど、それは別にこの男じゃなくてもよかったはずだ。

 そして同時に、誰でもよかった、つまりはこいつでも――というのも、きっとその通りだ。

 結局のところ、わたしは自分で自分の気持ちを理解しきれていない。

 皮肉なことに、それだけは自信を持って断言できた。

「ふーん。まあ、いいけどね。こうして今日会えたんだし」

 ぞくりと、舐められた耳から鳥肌が立つ。

「っ! ちょっと、今日はそういうのなしって言ったじゃん」

「あはっ、ごめんごめん。溶けたサユちゃんが美味しそうだったからつい、ね」

 人通りが少ないとはいえ、皆無なわけじゃない。わたしは、あまつさえ腰に回されようとしていた手を振りほどいた。

 それに、もともと話をするだけという約束だ。今のやりとりで、こいつにそのつもりがないのははっきりしたけど。

「今度なんかしてきたら、わたし帰るからね」

「ごめんってば。わかった、もうしないよ」

 そんなヘラヘラした顔で言う台詞を、いったい誰が信じるのか。

 言ってるそばから馴れ馴れしく肩に触れようとする手のひらをかわして、歩き出す。

 ……はぁ。やっぱり、こいつに会ったのは失敗だったかもしれない。

 後ろから響いた舌打ちの音は、聞こえないふりをした。




「そういえばさ、サユちゃん。今度の日曜日、花火大会あるの知ってる?」

 映画を見たり、服やアクセサリーのショップを回ったり。

 あれから適当に街をぶらついていると、気付けば結構な時間が経っていた。

 そこでお腹もすいたし、とちょうど目についたハンバーガーショップ。お昼のピークを過ぎているせいか、店内はそれなりの静けさだった。

 そんななかで二個目のチーズバーガーをぺろりと平らげながら、ユウイチは軽い調子で訊いてきた。

 どちらかというと小食なわたしは、一個どころか、セットのポテトとドリンクだけで結構お腹いっぱいなんだけど。

 こういうところでも、いちいち男女の違いを見せつけられた気がして、ごまかすようにストローを啜った。ベッドの上で、支配欲をひけらかしてくる。そんなかつての記憶ごと、ずぞぞと飲み込んでいく。

 芳沢ならどうだろう。私の勝手な想像だけど、あいつもそんなにたくさん食べるイメージじゃないよね。

 と、そこまで考えて、自分が質問されていたことを思い出した。

 ていうか、なんでそこであいつが出てくるかな。いったい、どうしたんだわたし。

「サユちゃん? 聞いてる?」

「……ん、聞いてる。花火大会でしょ? もちろん知ってるよ」

 もちろん、嘘だ。初耳である。

 そんなものに興味はない、というとそれも嘘になるけど、なんにしても、わたしには縁遠いものであるのは確かだったから。

 ああいうのは、もっときれいな人たちが楽しむべきだ。

 わたしに、そんな資格はない。

「なら話が早いや。よければ、一緒にどう?」

「いかない」

 こいつがそんなことを言い出した時点で、狙いは見えていた。

 だからこそ、わたしの答えも早い。

「他に約束でもあるの?」

「ううん、べつに」

「ならいいじゃん。いこうよ。絶対楽しませてあげるよ?」

「だからいかないってば」

 こいつの魂胆はわかっている。

 どうせ目的は花火大会ではなく、そのあとなんだろう。

 年頃の男と女が、盛り上がったあとにすることといえば、まあお約束だ。

 わたしの反応が芳しくないことに苛立ったのか、ユウイチの瞳が露骨にぎらぎらとした光を帯びはじめた。

 所詮、男なんてこんなものだ。

 言葉で何と言おうと、本心は欲望に直結している。

 この男は、まさにそれを体現していた。

 もちろん、全員が全員そうだというつもりはないけどね。

「ていうか、今日会ったのだってトクベツなんだからね。わたしとユウイチは、もうこれで終わり。どうしてもいきたいなら、誰か別の女の子でも誘ってあげなよ」

 こいつなら、誘えばそれなりについてくる女の子はいるだろう。見た目だけは悪くないのだから。

 ユウイチは無言のまま、わたしをじっと見ていた。

 その瞳は昏い光に染まり、危うさを隠しきれていない。

 だけど、そんな相手に怯むくらいなら、そもそも援助交際なんてしていない。

 リスクも、痛い目も、わたしは十分に承知している。

 想像だけじゃない現実の体験として、わたしは、男とその欲望を知っている。

 そう、思っていた。


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