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気になる気持ちは止められない!  作者: 空橋 駆
2章 助けてくれた誰かさん side:小織
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4話 すれ違いの洋菓子屋

※ここから暫く、ヒロイン視点で進みます。

 1章と時系列が若干前後していますのでご注意ください

授業が終わって、わたしの側に釉がやって来る。


「小織は確か、日直だよね」

「うん、急いでやって早く帰らないと。

 釉はこの後部活だっけ?」

「ん~、今日はお休みだよ。

 顧問の先生が体調不良で先に帰っちゃったから」

「あらら……

 風邪でもひいたのかな?」

「そうみたい」


軽く話すと、わたしは急いで日直の日誌を書き上げた。

終わるまで、釉はずっと待っていてくれた。


「一緒に帰ろう?」

「途中までしか行けないけど、良い?」

「いいよ、毎週の事だもんね」


校門を通り抜けて、いつもと同じ通学路を歩く。


「小夜子さんは、順調に回復しているの?」

「一応、順調みたいだけど……

 まだもう少しかかるって言ってたかな」

「そうなんだ、早くよくなりますように」

「ありがとう、一緒にお願いしてくれるのは嬉しいよ」


自分の事ではなくても、応援してくれるのは嬉しかった。

そんなこんなで、途中の分かれ道まであっという間に到着。


「それじゃ、気をつけて行ってきなよ」

「うん、それじゃあね~」


いつもなら、一緒にこのまま家の近くまで行く。

だけど今日は、お母さんのお見舞いに行く日。


途中でちょっとだけ寄り道をして、

お馴染みの洋菓子屋さんに立ち寄る。


幸い、入ってみるとお客さんは居なかった。


「いらっしゃいませ。

 あら、あなたはいつも来てくれる娘、かな?」

「あ、覚えていてくれたのですね。

 ありがとうございます」

「いえいえ」


毎週のように買いに行くから、

店員さんにいつの間にか顔を覚えられてしまっていたみたい。


ということで、わたしはいつもと同じように……


「このケーキと、これを……お願いします」

「ありがとうございます」


お母さんの大好きなケーキと、

わたしが食べたいと思ったケーキを一つ頼んで……

後は、お会計を済ませればいいよね。


「いらっしゃいませ~」


そう思っていたら、お客さんが入ってきた。


(あれ、この人……)


見覚えのある、男の人。


「言われた通り、来ましたよ?」

「約束、忘れてなかったのね」

「そう簡単に忘れませんよ、普通」

「それもそうね。

 取りに行くから、少しそこで待っていてくれる?」

「なるべく早く頼みますよ?」


わたしの商品のお会計……

それよりも先に、この男の人の注文の方が優先された。


(わたしの会計、早く来ないかな……)


そう思いながら、改めて男の人を見る。


(きっとこれ、偶然だよね……)


ちょっとだけ、緊張する。

怖い人じゃないことは知っているけど、逃げ出したくなる。

見つかったら、何を言われるのだろう。

とにかく、この場所から離れてしまいたい……


だけど、声も掛けられないしこっちを向いてもくれない。


(もしかして、覚えてないのかなぁ……)


それなら、それで良いのかもしれない。

だって……


その男の人は、少し前にわたしを助けてくれた人。

お財布にもらったお釣りを入れそこねてしまい、

落としてしまったお金を拾ってくれた……


(見かけた事だけなら、何回もあるのにね)


これまでにも幾度か、このお店ですれ違っているし……

わたしの家の近くにあるコンビニにもよく来ているのを知っている。

というか、デザート買ってる瞬間を見ちゃった事もある。


(偶然、なんだよね?)


先日助けてもらったのも偶然だとしたら、

ほんの少しだけ運命のような物を感じてしまう。


「お会計の方~」


男の人を応対した店員さんが居なくなったので、

別の店員さんがわたしを呼んでくれた。

気になるけど、そのままお金を払って店を出た。


(わたしが居た事、気づかれていたのかなぁ……)


ほんの少しだけ、さっきの出来事を思い出しながら。



この近辺ではちょっとだけ大きいかもしれない病院。

そこに、わたしのお母さんは入院している。


深刻な病気では無いって聞いているけど、

ちょっと長い期間、入院を続けている。

調子が戻るまではもう少しの間このままらしい。


「お母さん、お見舞いに来たよぉ~」

「あら、いらっしゃい……

 手に持ってるのは、いつもの?」

「うんっ、お母さんの大好物!」

「いつもありがとね」


お母さんの笑顔を見て、わたしは安心した。

今日は調子が良いみたいなので、

少し長めに話していても大丈夫かな。


「お父さんにはもう話していたのだけど、

 退院はもう少し先になりそうって、聞いた?」

「うん……

 何か悪いこと、起きたの?」

「違うわよ、そういう事じゃないの。

 検査結果は異常無しだったけど、

 様子を見るためにもう少し入院するの」

「ふーん……」

「大変かもしれないけど、家の事はお願いね」

「大変なのはお母さんの方でしょ?」

「そうね……」


入院が決まった時は大変だったけど……

少し慣れてきたので今はあまり問題ないかもしれない。

もちろん、負担が増えたと言われるとその通りかも。


「で、今日は早く帰りなさいよ」

「ん……あ……」

「この前来てくれた時の事だけど、

 寄り道して遅くなったってお父さんから聞いたわよ?」

「そ、それは……

 ごめんなさい」


帰りにコンビニに寄ろうとしたらあの男の人がいて……

思わず素通りして別のコンビニにまで行ってしまったから。


だって、助けられたけどその理由が恥ずかしかったし……

ううっ……


「何があったのかは聞かないでおくけど、

 あんまり遅くなってもいけないから……」

「うん、そうするね」


その後、少しだけ最近あった事を話してから……


「それじゃ、また来るね」

「お土産も待ってるわよ?」

「もう……」


本当は週に一回だけにするはずだったのに、

いつの間にか週に二回買って持っていっている。


「欲張るのは、退院してからにしてね」

「そうね、今太るわけにはいかないから」


笑顔で答えるお母さんの顔を見ていると、安心する。

あまり動けないんだから、太るくらい沢山ケーキ食べるのは駄目だよ……



帰り道。片手にはケーキの箱。

お土産として渡した物以外はこうして持って帰る。

これが楽しみだから、週二回になっていた。


「あれ……小織?」

「あ、釉だ。まだ帰ってなかったの?」

「パパから連絡があって寄り道してたのよっ」

「何かあったの?」

「それがね……」


釉は、左手に持っていた袋を軽く掲げてくれた。

その中を覗き込むと……


「プリン?」

「試食して欲しいって渡された。

 小織も食べる?」

「うん、もちろんだよ!」


と、わたしは片手に持っていた箱のことを思い出す。


「ごめん、一度家に戻ってからでもいい?」

「それ、置いてくるの?」

「うん」

「それだとちょっと時間的に遅くなるかもね……

 また今度にしようか」

「残念」


試作品のプリンはちょっと気になるけど、

早めに感想が欲しいと思うから諦める事にした。

うーん、本当に食べてみたかったなぁ……


「また明日ね」

「うん」


少しだけ悔しい思いをしながら、帰宅した。



(やっぱり、気になるなぁ……)


結局、寝る前になっても……

買ってきたケーキの味より、試作品のプリンが気になって仕方なかった。


だけど、知らなければ良かったということもありまして……


「あのプリン、食べなくて正解だったよ?」

「え?」

「材料の配分が間違ってるらしくって甘みが全然なかったの!」

「あらら……」


翌日感想を聞いて、助かったと思ってしまいましたとさ。

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