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気になる気持ちは止められない!  作者: 空橋 駆
2章 助けてくれた誰かさん side:小織
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5話 始まる前に終わる恋

今日もまた長い長い授業が終わって、

いつもみたいにわたしの側へと釉がやって来る。

妙にテンションが高くて、笑顔を浮かべながら……


「小織~」

「え、何でそんなに笑顔なの?」

「うん、甘いもの大好きな小織なら絶対に外せないニュースだよ!」

「えっ?」


一体何があるのかな……


「『初恋ショコラ』って知ってる?」

「えっと、確か……」


名前は聞いたことあるけど、売り切れ続発の……

実は一度も食べたことが無い。


「そうそう、それなんだけど……

 何かね、この周辺のコンビニで大量入荷してたって話だよ」

「そうなんだ……」


そういえば近くで聞こえてくる噂話の中にも、

似たような話があったかな、確か。


「あたしの分も買っといて~」

「買っておくのはいいけど、ちゃんと取りに来てね」

「もちろん!」


そうは言うけど、不安かもしれない。

何せ、釉の事だから……


「部活終わった~って言いながら、

 そのまま帰ったのは何時の話だったかなぁ?」

「え、えへへ……

 先週のお話でした、ごめんなさい」


釉の部活が終わった後、

宿題を一緒にやろうと思ってたのに……

わたしの家に来ると聞いたのに来なかった事があった。


「今回はお金が絡むから、本当にちゃんと来ないと駄目だよ?」

「うん、解った……」


とはいえ、これで約束成立。

物が買えなかったら問題外になってしまうので、

なるべく早く帰宅しないといけない。


(沢山置いてあったら、お母さんの分も買いたいなぁ……)


そう思って、信号待ちの間に財布の中を見る。


(あっ……お財布にお金入れ忘れてた)


そういえば昨日買い物に出てそのままにしてたんだっけ。


(一度帰らないと駄目かも……)


仕方ないので、一度帰宅してから近くのコンビニに行く事にした。

噂が広まっているなら、売り切れていても不思議じゃない……

そう思いながら入店して、急いでそれが置いてある棚へ。


でも、わたしの瞳は……

『初恋ショコラ』よりも先に、存在感のある人を見つけてしまった。


(あの時助けてくれた男の人……)


偶然は、なんでこんなに続いてしまうのかと思いつつ、

わたしは彼が『初恋ショコラ』を二つ手に持って購入している姿を、

しっかりと目撃してしまったのだった。


(見間違いじゃない……よね)


面白い物を見てしまったと思いつつ、目的の品はちゃんと買った。

もちろん、釉の分もあったから買っておいた。


お母さんの分は……

消費期限が切れたら困るので買わなかった。

美味しかったら、退院後に買って一緒に食べればいいかなと思った。



帰宅して、とりあえず買ってきたそれをすぐに食べたいと思ったから……

自分の部屋の机の上に置いて大急ぎで着替えた。


落ち着いたところで、いよいよ……


「それでは、いただきますっ……」


まずはひとくち。


「ん……んっ、美味しいっ!」


思わず声にしてしまうような、美味しさ。

確かにこれなら人気が出て売切れてしまうのも解るかも。

正直、コンビニのスイーツはあんまり食べないのに、

これならもう一度買って食べてもいいかなって……


(思わずその味に恋をしてしまうような……

 だから、『初恋ショコラ』なのかな)


そう思った瞬間。

ふと、あの時助けてくれた男の人の顔が頭の中に浮かんだ。


(今頃、あの人も食べているのかな……

 甘い物が好きそうだし、感想が知りたいかも)


男の人から見て、これは美味しいのかなって……

そんな事を考えていたら彼の姿が頭から離れなくなってしまった。


だけど……思い返してみる。

コンビニで見かけた彼は、確か『初恋ショコラ』を二つ買って……


(もしかして彼女さんがいるのかな……)


そんな事を思って、ちょっとだけ辛くなった。

どうしてそんな事を思ったのか、よく解らない。


結局、その日の夜は考えすぎてなかなか寝付けなくて……

翌日の授業を寝ぼけながら聞いていたのだった。


そしてまた、お母さんのお見舞いに行く日がやってきた。


授業が終わった後は直ぐに学校から出て、

今日もまたいつもの洋菓子屋を目指す。

釉は忙しくてわたしに話しかける暇も無く部活に行ってしまった。


近くにまで来て、洋菓子屋の中が覗ける位の所まで近付くと……


(あっ……)


いつもの洋菓子屋のガラス窓の向こうに居たのは、

楽しそうに話している、店員のお姉さんとあの時助けてくれた男の人。


(もしかして、あの店員のお姉さんが……)


時折、店員のお姉さんが笑顔になっているのを見て、

わたしは現実を受け入れることしか出来なかった。


(『初恋ショコラ』を一緒に食べた相手なのかもしれない)


そう思った瞬間、なんだか少しだけ胸がちくりと痛んだ気がした。

美人さんだし、仲良さそうだし……


(きっと私が恋をしても、あの店員さんには敵わないかも)


とても大きな敗北感のようなものを感じて、

その瞬間から、楽しい気持ちが一瞬で消えていく。


(これが初恋なら、やっぱり初恋は叶わないって噂は本当だったんだ……)


そう思った瞬間、わたしの足は洋菓子屋さんから遠のいて……

そのまま病院へと向かっていた。


「あら……いらっしゃい」

「お見舞いに来たよ」


結局途中で何も買うことが出来ないまま……


「何かあった?

 ちょっと今日、元気が無いみたいね。差し入れもないし」

「えっ……そう見える?」

「うん、見える見える」


始まってもいなかった恋が見事に散りました。

そんな事、お母さんに言えない。


「巷で話題になってた『初恋ショコラ』をこの前食べたの。

 美味しかったからお土産で持ってこようとしたけど……」

「売り切れていたのね。

 それなら、その気持ちだけ受け取ります」


きっとお母さんは、それが理由じゃないことに気づいているかもしれない。

だって、その時のわたしは……目に涙を浮かべていたから。


「退院祝いの時に探してくるからね」

「それは楽しみね」

「その代わり、洋菓子屋にはしばらく行かない」

「あら、どうして?」


理由なんて、話せない。

わたしは、そのまま何の言葉も告げられなかった。


「そうね……少しは甘いものを我慢するのも必要ね。

 小織と一緒に食べてみたいから、早く退院できるように……」

「うん……」


何も聞いてくれなかった事が、一番の救い。


「時間……大丈夫?」

「あっ……」


お母さんに言われて、慌てて時計を見る。

そろそろ帰らないといけない時間だった。


「それじゃ、また来るね」

「待ってるよ」


大急ぎで、走らないように気をつけながら……


(考えないように……しなきゃ……)


泣きそうになる気持ちを堪えて。

あの男の人の事は、一切考えないようにと自分に言い聞かせながら。


わたしは病院を出て、自宅へと帰った。



その日の夜は……

本当に、本当にとても辛くて、哀しくて……


寝る前に、泣いていたのかもしれない。

気が付いた時には朝で、鏡を見て目が腫れていた。


(今日が休みで、良かった……)


もし、こんな姿を釉に見せたら……

また心配をかけてしまうかもしれない。


始まる前に終わった恋は、忘れる事にした。

簡単には忘れられないけど、いつか思い出として笑って話せますように……


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