20話 いずれ二人は結ばれる
わたしと智樹さんは、やっと恋人未満の関係になれた。
だけど、釉にはなかなかその話を切り出せていなかった。
ただ、クリスマスの日に予定があると伝えたら……
「おめでとう、藤山と仲良くね。
でも、時々でも良いから、お買い物とか付き合ってね」
「うん、ありがとう。
その辺は前と変わらないと思うから、これからもよろしくね」
釉は、笑顔でわたしのことを激励してくれた。
と同時に、わたしと智樹さんの関係は悟られてしまったのだった。
「やっぱり、予想通り付き合っちゃったかな……ってね」
「え?」
「会い続ければ、仲良くなるって思ったからね。
まさか本当に付き合ってくれるとは思わなかったけど……」
「あはは……大半が千佳さんの策略かも」
「うん、納得」
それだけで納得する釉を見ていると、
千佳さんって本当に色々と桁違いな人なのだと理解したのだった。
さて、そんなこんなで今日はクリスマス。
遊園地デートとかそんな感じになるかなって思っていたけど、
午前中はお母さんの所へお見舞いに。
残念ながら、智樹さんにも一緒に来てもらいたかったけど、
智樹さんは智樹さんで色々大変な事になると溜息をついていたので、
仕方なく一人だけで病院にやってきていた。
「お母さん、メリークリスマス!」
「はい、メリークリスマス。
あら……小織、ちょっと……」
「ん、どうしたのお母さん」
わたしの顔を見て、お母さんは何か気付いたみたい。
お化粧とか色々と千佳さんに教えてもらったから……
「ふふっ……素敵な人でも見つかった?」
「えっ……あっ……そっち?」
「隠したって駄目。
間違いなく以前よりも良い笑顔になったからね」
お母さんがわたしの頬を撫でながら言ってくれる。
隠す気は無かったけど……
「はい、好きな人ができて……
今、その人と付き合っています」
「良かったわね、おめでとう。
家の事も大切だけど、彼氏さんの事も大事にしなさいよ」
「はい、解りました」
わたしは笑顔で答える。
お母さんも、喜んでくれた。
「今日はクリスマスだし、その人とどこかに遊びにいくのね」
「うん……」
「それなら、その彼氏さんと一度で良いから早いうちに会わせて欲しいわね」
「うーん、それはまだ難しいかも……」
「残念ね、気長に待つとするわ」
本当はまだ恋人同士の一歩手前のようなそんな所だけど、
お母さんが退院するまでに来てもらえる自信は無い。
「それなら早く行かないとね。
彼氏さんと昼食を食べに行くとかなら……待たせたら悪いわよ?」
そう言われて、わたしは時計を見る。
「あっ……うん」
確かにその通りだった。
「行ってらっしゃい。しっかりと楽しんできなさいよ」
「うん、ありがとう」
お母さんに見送られながら、わたしは病院を出た。
待ち合わせ場所に着いた。
まだ三十分くらい早いのに、既に彼はそこに居た。
「お互い、少々早く着きすぎたみたいかな」
「うん……」
一応私達はまだ学生なので、
豪華な昼食……なんてことはできるはずもない。
「義姉さんと兄さんの企みは凄まじかったなぁ……
危うくとんでもなく豪勢な食事に連れて行かなければならない状態に……」
「わたし達まだ学生なのに、
フランス料理のフルコースは斜め上すぎるよね……」
デートプランをお姉ちゃんに相談したら、
それはもうとんでもない物になっていて……
結局、その案を片っ端から却下して納得させた上で今日の日を迎えた。
「今年のクリスマス、時間的な余裕が無いのを良い事に、
自分達の願望をこっちに押し付けて来るとは……」
「うん……あれは困った」
受験直前の晴樹さんとお姉ちゃんは、今日もひたすら勉強中です。
「というわけで、自分達の出来る範囲で今日は楽しもう」
「そうだね、それが一番!」
昼食はわたしのお勧めのレストラン。
ちょっと早い時間に行ったので、クリスマスでも問題なし。
「美味しかった、なかなか良い店じゃないか。
また一緒に来てみたいけど、いいかな?」
「うん、喜んで!」
どうやら、とても気に入ってもらえたみたい。
その後は、映画館で最近話題になった映画を見て、
お買い物に少しだけ付き合ってもらって……
本当に、一緒にお出かけしただけなのに充実した一日。
一緒に回るだけで、彼の好みとかも色々と知る事ができた。
これを傍から見たら、きっとデートにしか見えないと思う。
わたしだって、デートのつもりでいた。
だけど……
(まだ、彼はわたしを恋人として見てくれてないのかな……)
心の奥で、小さな不安が引っかかり続けていた。
この辺りは、わたしもよく来る場所。
近くには喫茶店があって……
「少し寒くなってきたから、喫茶店に入ろうか。
丁度、温かいココアが飲みたくなってきた」
「わたしも……」
喫茶店に入って、店員さんが来る。
わたしと彼は、揃って温かいココアを注文していた。
「毎度毎度、美味しいなここのココアは」
「心の底から温まれるからいいよね」
「ああ」
何故か、わたしの目をずっと見続けている。
ちょっと、照れてくる……
「えっと……わたしの方をじっと見て、どうしたの?」
「この笑顔をずっと傍で見れるのならば……
楽しいのかもしれないな」
「ん、何か言った?」
「いや、何も……」
聞こえていたけど……
わたしはあえて、誤魔化した。
こんな周りに人が居る場所で告白されても困る。
「さて、本来ならこれでお開きの予定だったけど……
少し話したい事があるから、場所を変えよう」
「うん……」
喫茶店でお会計を済ませる前にそんな事を言われて、
喫茶店を出てからわたしはずっと緊張していたのだった。
そして、公園の中心でわたしと智樹さんは向かい合って立っていた。
わたしが最初に告白した時と、全く同じ状況だった。
「この流れなら大体判るとは思うけど……」
「そうだけど、ちゃんと言って欲しいよ。
良いなら良い、悪いなら悪いって言ってくれないと、
誰も理解なんか出来ないんだから」
「その通りだ」
だけど、そう言った本人こそが……
その結果を一番聞きたくないと思っている。
今日が終わると同時に、
傍から見れば恋人同士という関係すら終わってしまうかもしれない。
怖い……けど、向き合わないといけない。
「結論から言えば、完敗。
意地を張っても理屈を並べても仕方ない」
「それだけだと、どちらの意味にも取れるよ?」
都合の良い解釈をして、落ちるのは嫌だ。
「もっとしっかりと言おうか。
今日から、恋人として正式に付き合ってほしい。
いいかな?」
「はい、ありがとうございます!」
わたしは思いっきり、彼に抱きついた。
「嬉しいよ……
ちゃんと言葉にして聞けたから、凄く嬉しい……」
「抱きついてくれるのは嬉しいんだけど、
落ち着いて、少しだけ離れてくれないか?」
「えっ……」
智樹さんって、くっ付くのは苦手なのかな……
ちょっとだけ残念に思いながら、わたしは一旦離れた。
「恋人同士になった記念に、渡したい物があるんだ」
そう言うと、智樹さんはポケットの中に手を入れて……
何かを取り出した。
「手を差し出して欲しい」
「はい」
わたしは、その手を差し出す。
「受け取って欲しい」
手に、何かのアクセサリーの感触が……
恐る恐る、それを見てみた。
「ブローチ?」
「ああ」
ちょっと高そうな……
いや、これは間違いなく本物の……うん、高いやつ。
こんな大切そうなものを貰って大丈夫かなと心配になった。
「元々は母親の物だったらしいけど、
似合いそうだから小織ちゃんに贈るよ」
「そ、そんな大事なもの貰えないよ……」
わたしは慌てて、返そうとするけど……
「問題ない。
大切な人に贈るからこそ、意味がある」
「そ、それって……」
大切な人……今、大切な人って言ったよね?
「いつかは、もっと進んだ関係になれるように。
まだまだ色々と、学ばせてくれないか」
「うん、一緒に……ねっ」
嬉しくて、もう一度抱きつきたくなったけど……
この時期の公園で立ち止まっていると、流石にちょっと寒くなってきた。
「そろそろ、帰ろう?」
「ああ、そうしよう。
あまり遅くなると家族の人が心配する」
そして、歩き出そうとした時……
そっと、わたしの手が握られる。
「途中まで、手を繋いで帰ろう」
「うん、そうしよう」
「まあ、兄さんと義姉さんがやっているのを見て、
ずっと羨ましいと思っていた」
わたしはそれを見た事は無いけど……
きっと、傍から見ても羨ましくなるくらいの光景が思い浮かぶ。
「途中までで離れるのは、ちょっと寂しいな……」
「いや、小織ちゃんをちゃんと家にまで送り届けていくから心配しないで」
「うん……ありがとう」
帰り道を進んでいく中で、わたしと智樹さんの横を見知った人がすれ違った気がした。
思わず、わたしと智樹さんは立ち止まった。
「今の……もしかして」
「間違いないな、兄さんと義姉さんだ」
恐る恐る振り返ってみると、全く同じ反応をしていたであろう二人の姿。
わたしと智樹さんが手を振ると、向こうも手を振り返してくれた。
そして、二人仲良く手を繋いだまま……
自分達が歩いてきた方向へと歩いていってしまった。
「多分、勉強の合間の気晴らしだと思う」
「お姉ちゃん達、大変そうだね……」
わたしと智樹さんも、いずれ経験する道かもしれない。
だけど今は、こうして恋人同士の時間を過ごしたい。
「さて、帰ろうか」
「うん」
そしてそのまま、わたしの家の近くまでやってきた。
「智樹さん、もうすぐわたしの家です。この辺で……」
「解った」
繋いでいた手が離れる。
ちょっと、寂しい。
「今日は、楽しかったかな?」
「はい、とても楽しかったです。
そして、とても幸せな一日になりました」
本当に、本当に……
きっと、今日の事はずっと忘れない。
「次は……年明けにでもなるかな。
千佳さん辺りが初詣とか計画しているかもしれない」
「十分にあり得るよね……」
本当にただのお節介焼きだけど、一番頼れる人。
お互い、きっと千佳さんには感謝してもしきれないと思う。
わたしと智樹さんを結んでくれて、ありがとう。
「それでは、また今度ね」
「年内は会える機会が無いと思うから、
先に言っておく。良いお年を!」
「こちらこそ、良いお年を」
そう言って別れると、
わたしが家の中に入るまで、彼は遠くから見守っていてくれた。
きっと、これからもこうしてさりげなく……
わたしの事を気にかけて、護ってくれるのだと思う。
その気遣いが嬉しくてしかたなかった。
こうして、わたしと智樹さんは恋人同士になって……
それから、お姉ちゃんや晴樹さん、千佳さんと関わって……
わたしの毎日は、きっとこれからもっと賑やかになる。
楽しい事や辛い事、色んな事を経験しながら……
いつか、お姉ちゃんと晴樹さんみたいになれますように。




