私と彼の初めて 菫&薫 後編
前編の続き。これで今シリーズは終わり……かな?
「すう、ケーキを食べようか?」
「薫君、コーヒーは?」
「大丈夫だよ。カプチーノ入れたから。こっちにおいで」
薫君の持つトレーからカプチーノの湯気が漂っている。
薫君に促された私は、リビングのソファーに移動する。
「すうは、そこでいいのか?」
薫君がにこやかな笑顔を貼り付けて私に聞いてくる。
薫君の隣に寄り添って座ろうとするのが気に入らないみたいだ。
「だって……」
「だって?何?すう?」
「薫君の膝の上でカプチーノを飲むのは怖いから」
二人で寛ぐ時は、私は薫君の膝の上に座るのが普通になっていた。
薫君は皆がいる時でも俺は大歓迎!!なんて言うけど……私の方が恥ずかしくって、それは今でも達成されていない。
そんな私を見つめて、薫君は触れるだけのキスを一つ落としてくれる。
「確かにそれはそうだな。今日はそう言う事にしておこうか」
そう言ってから、カプチーノを一口飲んだ。納得はしていないという事か。
コーヒーを零すと本当に大変なんだけど……そんな事を思いながら自分の目の前に置かれたケーキを見た。
そこにはいつもの様にフルーツとキャラメルシロップと生クリームでカスタマイズされた初恋ショコラ。その真ん中には、小さな蝋燭が1本立っていた。
「薫君?」
「ちゃんと夫婦になったお祝い。ほらっ、火を付けるから消して」
薫君がマッチを擦って柔らかな灯りが灯る。
私は促されるまま、その灯りを吹き消した。
「これからもすうだけを愛していくよ」
薫君が耳元で囁いた後、私の頬をそっと包み込む。
薫君が近付くのを感じた私は目を閉じて彼を受け入れるのを待つのだった。
「すう?学校はどうするんだい?」
「うーん。卒業までは六条でいることにしたんだ」
私の名前はお昼から竹田菫なのだが、学校では六条で……旧姓でいることにした。
いろいろ作り変えて貰うのもどうかと思ったというのが理由なんだけども。
「そっか。それでは進路は?」
「短大の経営学科に行く。それでね、いっぱい資格を取るんだ」
薫君が淹れてくれたカプチーノを啜りながら言う。
「すうは……確か英検は1級だけだろ?残っているの?」
「面接の英会話には苦労はしないからね」
「国連英検の方は?」
「今はB級の結果待ちだよ。何か取った方がいい資格があるの?」
「ビジネスに特化した英検があるんだけども、俺も取りたいから一緒にやらないか?」
「いいよ。一緒の勉強なら楽しいよね。経営学科に進むんだったら持っていてもいいものだよな」
「そうだな。それと第二外語はどっちを選ぶ予定なんだ?」
「うーん、とりあえずドイツ語かな。イタリアでも国境に近い地域はドイツ語でも問題ないでしょ?もちろん、これからもイタリア語は勉強するよ」
そう言うと、私は初恋ショコラを一匙掬って口に入れる。
それを見ていた薫君が今日の味見をしないと……なんて言って唇を重ねる。
徐々に深くなるキスに私は翻弄されてしまった。
「ううー」
「ごっ、ごめん。つい……」
腰が抜けた私に対して言う。その言い訳もいつもと変わらないと思っていた。
けれども、今日はその先があった。
「これ以上エッチな事をしたら、すうはどうなっちゃうのかな?」
意地悪く目を輝かせて薫君はクスクスと笑いながら私を見つめる。
「えっと……その……あの……」
「安心して?今日すぐに……って事じゃないよ。ひょっとしてあいつ等にそんな事をいわれたのか?」
顔を真っ赤にして俯く私に薫君が問いかける。
私は首を縦に振って答える。
「まあな。今日が初夜だからな。でもさ、ちょっと大人なキスをしただけで腰が抜けちゃったすう相手に全部しちゃうのも……な」
薫君は私の首筋にキスをする。
「えっ、かっ、薫君」
「こんなことにうろたえるんだもん、可愛い。いずれは……そうだな。今年のクリスマスプレゼントはすうが欲しいかな」
「はあ??」
言われる事が分からなくって、頭の中でクエスチョンマークがクルクルと舞う。
「大人なキスで腰を抜かさないとか、互いの下着を見て騒がないとか……そんな所からかな?」
「うっ、うん。頑張るよ」
私はガッツポーズを小さくする。
「力む必要はないよ。俺らは夫婦なのだから。互いに寄り添っていくんだろ?だから少しずつでいいんだ。別にクリスマスイブじゃなくてもいい事だしな」
「じゃあ、なんでその日にしたの?」
「ロマンティックだろ?それだけさ」
シンプルすぎるその理由を言われて呆気に取られる。
「だから、すうから誘ってくれてもいいんだよ?」
誘うって、そんなの絶対に無理だから!!私は必死になって首を横にぶんぶんと振る。
「6年待ったんだから、その位たいしたことないんだよ」
私を宥めるように薫君が私の頭を撫でる。
えっ?6年?ナニソレ?私は意味が分からなくてポカンとしてしまった。
ケーキを食べた後、お風呂に入って今までは自分の部屋に真っすぐに行ったんだけども、今日はリビングのホットカーペットの上にブランケットを被った状態でいる。
ここから先は、どうしたらいいのか分からなくて、私は途方に暮れていてた。
「すう?何している?そんなものを被って?」
「なんかね、一人で上で待つよりここにいたくって」
「成程。すう、おいで」
薫君が両手を広げてくれたから私は薫君の胸に顔を埋める。
今まではお風呂の後は一緒に過ごしていなかったから薫君の体と髪から私と同じ香りがしていて更にドキドキする。
「大丈夫。落ち着いて。俺の心臓の音聞こえる?」
耳を薫君の胸にぴったりくっつけると、私と同じように薫君の鼓動も早かった。
それって私と同じと思ってもいいのかな?
ずっと好きだったお兄ちゃんが彼氏になって、婚約者になって旦那さんになって……あの日からの出来事が、本当は夢なんじゃないかって思える事がある。
シンデレラと同じで、今日の12時に魔法が消えちゃうんじゃないかって……。
「同じだよ。俺もすうも。俺も年がいも無くすうを意識している。すうの始めてを俺が全部貰うのだから。それだけの覚悟も必要だし、いやでも意識するって」
「薫く……んっ……ふあっ……」
全てを言い終わる前に唇が重なる。凄く優しいのに融けてしまいそうな熱いキスに私は股夢中になる。
「さあ、寝ようか?それとも今夜は日付が変わるまで起きていたいか?」
「薫君……どうして?」
「大丈夫。菫はシンデレラじゃないよ。今日は一緒に寝てもいいんだよな?」
「うん」
そう答えて私は俯く。それから先が怖いのとその事を知られるのが更に怖い。
「今夜は一緒に寝るだけだよ。それでも怖い?」
「それでいいの?」
「そこからでいいんだよ。それだって、お前の始めてだろ?」
にっこりとほほ笑んでくれる薫君に私は抱きついた。
「薫君好き。大好き」
「知っているよ。もっと自分に自信を持って。最初は大変だけども俺の全てを受け入れてくれよ?」
「うん、頑張ってみる」
「そこはちょっと答えが違うんだけど……まあいいか」
私の鼻の頭に音を立ててキスをしてくれる。
「さあ、お休み。お姫様。今日は疲れたろう?」
私を抱き寄せて背中をポンポンと叩いてくれる。
最初は寝れるのかなって思ったんだけども、薫君がずっと一緒だよ。起きても隣にいるよってずっと言ってくれたから、私は安心したのか徐々に瞼が重くなるのだった。
お休み。薫君。また明日ね。
-おまけ- ギリギリですが、嫌な方はスルー推奨で。
「薫君!痛い、いたいってば!!」
「じゃあ、止めようか?」
「駄目。やっぱりやめちゃいや」
「困ったお姫様だね。辛かったら背中に爪を立ててもいいから」
「うん」
薫君が荒々しいキスをしながら、徐々に一つに重なりあう。
声にならない声はキスに吸収されてしまう。自然の両目から涙が零れ落ちる。
やがて、薫君は私をきつく抱きしめた。
泪でぐしゃぐしゃの私の顔を掌で包み込んで目尻にキスを落とした。
「これからも菫の事だけ愛するから。俺を全部受け入れてくれてありがとう」
クリスマスイブか分かりませんけどね(笑)




