One special day 特別な一日
In other words…の創&ちいの二人です。この二人は本編ではカップリングになりません。なので、完全なパラレルです。状況等は本分で創が説明してくれます。
「ケーキとぼくのキス……どっちが好き?」
課題をやりながら流しているラジオから聞こえる聞きなれたキャッチコピー。
冬に発売になった初恋ショコラのものだ。
丁度これが発売になった時、俺と彼女は付き合い始めた。
俺にとって彼女は初恋の相手そのもの。俺はずっと彼女を見ていたけど、彼女は違う男と付き合ったりしていた。
何度か諦めようと思ったけど、そこまで思いきれないでずっとそばにいて見守る続けること12年ようやく彼女に俺の気持ちが通じたのだ。
誰からも愛される彼女……校内でも告白もされただろう。俺が知っているだけでも少なくても高校でも5人は彼女に恋をしていたはずだ。
今でも俺の手を取った事が実は夢だったんではないだろうか?と思う事もある。
そんな彼女と急な展開とはいえ、結婚して一緒に暮らしているだなんて……世の中不思議なものだ。
俺達は、今は同じ大学に通っている。俺は法律学科で彼女は会計学科。
会計学科は推薦入学制度があり、彼女はそれを利用して秋には合格を決めていた。
彼女の学力なら受験しても受かったと思うけど、俺とどうしても同じ大学に行きたいからって先に進路を決めたみたいだ。
受かってからは、俺の受験勉強につっききりで付き合ってくれた。
合格したんだから勉強する必要ないのに、一緒に4年過ごしたいから頑張ろうって励ましてくれながらの受験勉強。
その頃の彼女は、本当は一番大変だったらしい。全てを清算する為に、推薦入試に切り替えた事を俺が合格してから聞いた。
彼女の清算方法は、本当に徹底したものだ。私情を一切挟まなかった事だけは俺でも分かる。
中学の頃からあった彼女の周辺のトラブルはそれ以降は起こっていない。けれども完全に清算は終わっていないそうだ。
そんな状態を俺は気にするが、彼女は平和でしょう?ならいいじゃないってどこ吹く風だ。
開き直ると人間怖いものが無くなると言うが、それは本当にそうなんだなぁと痛感する。
今日は、俺の誕生日だ。夜にお祝いをしたいから……ご飯の支度ができるまで勉強部屋にいてねと言われて隔離されている。
彼女は両親を事故で亡くしている。それ以来、叔母夫婦と暮らしていたのだが、いろいろあって、中学の頃からある程度の自炊をしていたと言う。
高校からは完全に食事を一緒に取る事も無くなった……生活リズムが合わないのだから当然なのだが、その事が彼女の家事能力を向上化する結果になった。
俺達……彼女と親しくしている連中は、彼女が心配だからと称して叔母さん達がいない時によく泊めて貰ったが、彼女が用意する食事はおいしかった。
和食・洋食……中華は少し苦手らしいが、彼女に胃袋を掴まれたのも同然だった。
今日も、朝からケーキを焼くんだと言って材料をそろえる為にスーパーに買い物に行った。
俺達が付き合っている事は地元でも知られてはいるんだけども、俺達が結婚している所まで知っている人は両手でも余る位だ。
早速スーパーでも同級生の親に会ってからかわれたけど、俺達が夫婦って言ったらどうなるんだろう?って二人で囁きながら買い物をするのは楽しい。
俺は深夜に生まれたのだが、その瞬間に彼女が俺にキスをしてくれた。
何かをしてくるとは思っていたけど、キスは俺の想像を超えていて……真っ赤になった俺の姿を見られてしまってそこから彼女を抱きつぶしてしまったのはここだけの話。
起きてすぐに、頬をぷくっと膨らませて怒っていたけど……それすら可愛いと思う俺は彼女に溺れているようだ。
学校はまだ夏休みで、俺は提出する課題の確認をしている。
確認していたら、レポートの清書が終わっていないものを見つけたので、清書を始めることにした。
このレポートは、前期の成績に加算されるもの。彼女も手伝って資料を集めてくれて二人で検証して結論を決めた。
彼女の方も課題は全て終わっているようで、学校の教科書を片手に予習をしている。
彼女は秋に資格試験を控えているので暫くはそっちに専念するって言っている。
6月の資格試験は既に全教科合格通知が来ている。普通科卒のはずなのに、商業高校出身者と同じ位資格を所持している。
かつてのアルバイト先の弁護士事務所を今は辞めて、予備校の事務のアルバイトをしている。そして俺が彼女の後任として事務所でアルバイトをしている。
予備校のアルバイトがない時は、事務所に来て世間話をしながら手伝ってくれる。先生も呆れているが黙認しているようだ。
「創?おやつにしない?」
勉強部屋のドアを開けて彼女が俺を呼ぶ。
「倫子。そんな時間か。少し休もうかな」
俺は彼女に促されておやつを食べる為にダイニングに移動する。
俺達の今の家は、俺の実家だ。俺の両親が、地元の親の世話をしたいからと高校卒業時に決まった転勤と共に引っ越した。
その頃は付き合い始めて3カ月の俺たちだったが、彼女の方も自宅にいるのを嫌がっていたことから一緒に暮らすことにした。
和風作りの彼女の家に比べたら部屋数は少ないが、子だくさんではなければ十分な広さだ。
二人で話し合って決めて、両親が引っ越す前に相談したら、それなら結婚したら?あなた達がそれでいいのならと親に言われて、翌日には婚姻届にサインをしていた。
だから、結婚式も結納も一切ない。本当に最低限の手続きのみで夫婦になった俺達を周囲は驚いていたが、経緯を説明すると皆納得してくれた。
俺も彼女も、お互いにずっと一緒にいたいから結婚した。それ以外の理由がなかったから。
彼女は実家で飼っているビリーという黒猫を連れてきた。雄猫なのだが、怖がりなので俺達が見える庭しか外に出られない。
網戸にしても開けることすらしない。小柄でスラリとした体は彼女に似ているなぁと感心するほどだ。
基本的には、引っ越すときに持ってきた、大きめな籐の籠の中に入っている。
猫っていうのは気まぐれだと思っていたのだが、こいつと暮らし始めて違う事が分かった。少なくてもビリーは甘えんぼだ。一人でいる事をとにかく嫌がる。
「はい、どうぞ。ビリーもあるわよ」
ダイニングテーブルには、見慣れた初恋ショコラが置かれている。
そしてビリーの餌置き場に小皿に小魚を3匹ほど置いた。
ダイニングテーブルは4人掛け。たまに友人どもがやってくるから実家のモノをそのまま使っている。
コーヒーを入れたマグカップを持って俺の隣の椅子に腰かけた。
「バースデーケーキって……これ?」
「まさか。ちゃんと作ってあるわ。今は冷蔵庫で冷やしているから」
キッチンを見ると、ある程度片付けられている。もう下拵えは終わったみたいだ。
「今夜のメニューは?」
「ビーフシチューとマカロニグラタンとピラフとシーザーサラダ」
彼女が作ってくれるもので俺が好きなものばかりだ。9日前にあった彼女の誕生日は彼女の好きな和食が並んだっけ。
「それは楽しみだな。お前も食べるか?」
俺は初恋ショコラを指差す。
「私の中では、これは創のケーキってイメージなの。創は今日勉強したんだから当分補給して?」
そうやって言われると、食べないわけにはいかない。俺は一人で初恋ショコラを食べ始める。
「いつも通りの味……だな。違ったら困るけど」
俺が呟くと、彼女は微笑む。
「そうね。創のお陰で私はここにいるんだと思ってる」
「倫子……。それはなぜ?」
結婚してから、俺は幼いころからのニックネームだったちいから彼女の名前と呼ぶことに決めた。
でも、たまにちいって呼ぶのはご愛嬌だ。12年呼び続けたんだから仕方ないだろう?
「うーん、彼らと恋をしなければ、創の良さが、創に想われてた事が分からなかったと思うから」
マグカップと両手で持っていたのに、テーブルに置いてから、俺の方を向く。
「それはどうかな?俺も考えたことないや」
「普通なら、他の男に目が言っていたら諦めるはずなのに……一定の距離間で側にいてくれたでしょ?普通は無理だよね」
そうやって、俺の恋心をちゃんと掬いあげていく彼女だからずっと想い続ける事が出来たんだと思うけど。
「そうだな。でも一番辛かったのは高校の頃か?離れてても想ってたことで腹を括れたってのが本音」
これは本当。同じ高校じゃないから、友人のままでもと思った事がある。実際にはそうなれなかった。
むしろ想いは膨れ上がる。側で見守れない事がじれったくてどうしようもなかった。
「あの時は……仕方ないって。あの3年は私達に必要な時間だったの。大切なものに気付く為に」
俺は椅子を少し引いてから彼女を抱きよせて膝に乗せる。
「そうだな。互いに想い合いながら言えない時間が長かったからな」
中学の時の大失恋の後に、俺に恋をしていたと告げた彼女。その本音を聞けたのは、彼女が俺に想いを伝えてくれたのは、2学期の終業式の午後だった。
彼女の言う清算の方法が確定したことで、彼女が堰止めていた想いを解放した瞬間だった。
どことなく俺を思ってくれているとは思っていた。彼女からの告白は「離れたくない。ずっと隣にいて」だった。
好きって言われるよりも、彼女らしいと思った俺は分かったと答えて彼女をきつく抱きしめた。
予備校もあったけど、いられる時間は一緒にいることにした。デートらしいデートもない。
一緒に駅まで行って、学校が終わったら駅で互いを待つ。そこから夜遅くなるまで勉強。
普通の恋人とはちょっと違うかもしれないけど、同じ時間を二人で過ごして、離れて過ごすことを考える事ができなくなっていた。
彼女が合格している国立大学の法律学科の試験が終わった時に、始めて一晩を一緒にした。
でもそれは、一晩二人でずっと話していただけ。ちょっと違うな。抱きあってキスをしながら話していたが正しい。
キスはその前にしていたけど、数え切れないほどキスをしたのはその日が初めてで、キスをしすぎると唇がヒリヒリする事を知って二人で苦笑いしたっけ。
合格が決まってからは、学校の卒業式とかあってちょっと会えなかったけど、お互いに落ち着いてからはさっきの通りだ。
婚姻届を出したのは、二人が初めて会った小学校の入学式があったその日にした。その日の夜に俺達は一緒のベッドで眠るようになった。
細かいルールを決めて、たまに喧嘩して、ビリーと川の字で眠ったり毎日が新鮮で24時間では足りない。
こんなに幸せでいいんだろうか?幸せすぎて不安に陥る時もある。
「愛してる。創だけいれば、もう何もいらない」
彼女が俺の首に腕を回して耳元で囁く。滅多に効かないその甘い囁きが俺を少しずつ壊していく。
「俺は、欲張りだからお前と過ごす時間がもっと欲しい」
「それは、私もだけど……」
俺達は目を合わせて笑いあって、どちらともなく唇を重ねる。
「倫子、ケーキとぼくのキス、どっちが好き?」
何度となく聞いてきたこの質問……今日の答えはどっちだろう?この天邪鬼な奥さんはたまにケーキと即答してくれるのだ。
「そうね、チョコレート味のキスが一番好きよ。だって初恋味でしょう?」
ほらっ、また俺を挑発するような発言をする。天然で答えてくるんだから本当に性質が悪い。
「それでは、リクエストにお答えしましょう。それと俺を煽った責任……取ってくれよ?」
俺は彼女を抱きあげて、寝室に向かう。ちょっと明るいけれども、たまにはこんな時間から愛し合ってもいいだろう?
「えっと……夕ご飯の支度がしたいから程々にして下さい」
そうなるよな。でも俺……ご飯よりお前が食べたいからそれには答えられそうにないや。
「皆が呆れる位に愛してる。受け止めてくれるかい?」
「だから……程々に……」
「きっと無理。ごめん」
俺はゆっくりとベットに彼女を寝かせてから耳も後ろに所有の証を刻みこむ。
そして抗議の声を上げようとした彼女の口を塞いだのだった。
単なるバカップルでどうもすみません。とりあえず誕生日おめでとう。




