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引き篭り師弟と、謎の傀儡11-傷つく体と守りたい存在-

※怪我や血の描写があります。苦手な方はご注意ください。


 ひたすら逃げ続けて、どれくらいたっただろうか。

 怖いほど静かな森には、私やフィーニスたちが鳴らす音しか聞こえない。


「はぁっ、はぁ、はっ」


 鳥の鳴き声すら聞こえないのは、走っているせい?


「った!」


 樹の根にひっかけて豪快に転んだ際、軽く捻ったのだろう。右の足首が、熱を帯びている。けれど、状況的にも心理的にも立ち止まる余裕はない。


「あにみゅ、ふぃーにすたち離すのじゃ! 足止めくらいは、できるのぞ!」


 先ほどから、フィーニスとフィーネは自分たちを離すようにと、繰り返し売っててくる。もちろん、頷けない話だ!

 むしろ言われるたびに強く抱いて、決して力を弱めない。


「でしゅの! ふぃーねたち、攻撃魔法も使えるんでし!」


 二人はまだ、攻撃魔法を上手く制御出来ない。元々、二人は優しい魔法の属性らしい。

 それに暴走した魔法は術者に返ってくるって、師匠が魔法の練習中に言っていたもの。そんなの絶対だめだ!!


「しっ! 舌っ、かむ、よっ!」


 アラケルさんとの魔法戦の際は、師匠の圧倒的な力からか戦闘に対する恐怖は感じなかった。いわゆる練習試合みたいな感覚だった。

 傀儡が襲い掛かってきた時も、今思えば魔法戦で実感がわかず、どこか危機感が足りなかったのかもしれない。


「でも、今は、違う!!」


 血の臭いと残忍な様子を目の当たりにし、命の危機を感じずにはいられない。

 私はなにもできなくて、普段から師匠たちに頼りっぱなしだけど……それでも、二人だけは絶対に守りたい!


「わっ!」

「あにむちゃ!」


 急に現れた崖を、滑り落ちてしまった。幸い、浅い崖だったので足に切り傷程度で済んだ。暗くて傷が見えないのも助かる。白いブーツに色がついているのはなんとなくわかるけどそんなの無視だ。見えなければ平気!!

 フィーネとフィーニスを抱く腕だけは、絶対に解かないようにはしないと。


「へいき。えっと、あっち、いけば、いいかな。たっ」


 尻餅をついていた体をあげようと膝に力を入れる。と同時に、ずきんと捻挫以上の痛みが襲ってきた。恐る恐る視線を下ろすと、目に入ってきたのは割とひどい傷だった。

 ぎゃっ! ずりむけてる!

 しかも、落ちた瓶が割れて破片が散らかっている。膝に割とぶっささってるし! 落としどころが悪かったのだろう。それとも、瘴気しょうきに当てられてしまったのか。傷口が真っ赤にじくじくしている。


「必殺、見ない振り!」


 大きく頭を振って、立ち上がる。どこんじょうだよ!!

 フィーネとフィーニスが腕の中から涙目で見上げているのがわかった。おそらく、枝で切った顔の傷を見ちゃったのだろう。


「だいじょうぶ。ししょー、すぐ、来てくれるよ。ウーヌスさんたちだって、もう、きっと、傀儡なんて、やっつけてる。だから、もうちょっとだけ、頑張って、逃げるね」


 にかっと笑っても、二人の表情は曇ったままだ。

 傷が見えないように空いた片腕で覆い囲む。


「ふぃーにすたちが、ちっちゃいから、頼りにならないのぞ?」

「全然。むしろ、怖いから、一緒いて、欲しいの」


 ふーと、肺から全部息を吐き出す勢いで深呼吸をする。

 誤魔化しなんかじゃ無くて、本当のことだ。

 とはいえ、当然のことながら納得いっていない様子のフィーニスに、もう一度微笑みかける。


「おにごっこはーたのしいなー」


 結構近い距離から奇妙な音程の鼻歌が聞こえてきた。あの気持ち悪い臭いも伴って。


「いこっ!」


 心の中で、自分に大丈夫だと言い聞かせる。胸元にある、師匠にもらったネックレスに勇気を貰って足を踏み出す。

 怪我をした足では、あまり早くは逃げられない。どこか逃げ込める洞窟どうくつ――は駄目か。袋のねずみだ。樹を登るのもこの足では無理だろう。


「ねぇ、フィーニスとフィーネ、ししょーのとこまで、飛んで、助け、呼んできてくれるはどう?」


 あの変な人の狙いはあくまでも私。

 小さな体の二人なら、上手いこと隠れながら師匠の所にたどり着ける可能性は高い。万が一、師匠が苦戦しているとしても、師匠とラスターさんが揃っていれば、現状よりは何万倍もましなのは間違いない。


「いやにゃのー! あにむちゃ置いて、ふぃーねたちだけが、あるじちゃまのとこ行くは、だめでちょー!」


 フィーネが前足を私の腕から抜いて、ぶんぶん振り回しだした。


「うにゅにゅ。したら、ふぃーねは、あるじ探しにいくのじゃ! あにみゅは、ふぃーにすが守るのぞ」

「やーん! ばらばらは、余計に危険なのでしゅよー! しょれに、ふぃーねだけ逃げるは、めー! なら、いっちょ、いるのー!」


 踏ん張ると、逆にがくんと力が抜けて座り込んでしまった。

 なんかよく見たら、いつの間にか左の足もざっくりいっているし。傷口を見た瞬間、全身から力が抜けてしまった。しまった。

 なんか、呼吸も苦しい。えーい、私の軟弱者め!


「あにみゅ!」

「ごめ……ん。ちょっと、息、苦しくて」


 ついに二人を抱く腕まで解けてしまった。

 可笑しい。確かに傷は痛むけど、へたりこむ程ではない。人一倍血に弱いわけでもなく、むしろ平気な方なのに。


「あつ、い。いたいより、あつい」


 傷口が焼けるようだ。天を仰いで冷たい空気を吸い込もうと試みるけど、意思とは真逆の方へ顔は垂れていく。

 フィーネとフィーニスが、私の膝に手をついて見上げているのが、ぼんやりと見える。


「ふたり、撫でないと。心配かけちゃだめだ」


 そう思うけれど、激しくなっていく動悸と歪んでいく視界が、それを許してはくれない。

 二人に伸ばしたはずの腕は地面に吸い寄せられていく。


「ふぃーにす、あにむちゃ変でしゅよ!」

「うな! あにみゅ、ちょっと我慢するのぞ!」


 フィーニスの声を認識するのと、膝の傷口を舐められたのとほぼ同時だった。

 湿ったざらついた感触に、つい「いっ!」と声があがってしまう。慌てて口を押さえようと腕に力を入れるけど、もはやソレさえも適わない。


「毒なのぞ!」


 フィーニスの目が、かっと見開いたのがなんとなくわかる。


「しょんな馬鹿なでしゅ! 南の森、毒もってる怖いこわいな植物、ないでちょ?!」

「ふぃーにすだって、知ってるのじゃ。けど、間違いないのぞ!」


 毒、ですって? そんなの、舐めちゃったフィーニスが危ないよ。子猫サイズなフィーニスと人間の私では毒がまわる早さも違うだろうに。

 自分のこと以外になると、頭の回転は通常運転になる。


「私より、フィーニス、舐めたの、危険。ほら、ぺっして」


 落ちてくる瞼を必死に押し上げて、フィーニスの頬を撫でる。ついで吐かせようと口にぐっと指を押し入れるが、すぐに地面に落ちてしまった。

 落ちた手をフィーニスが両手で持ち上げようとするのがわかった。目にいっぱいの涙を溜めて、それを堪えている。


「ふぃーにすは式神ぞ! 毒や魔法には強いの、あにみゅだって知ってるのぞ? 相当、毒が回ってるのじゃ」


 あぁ。そうだった。

 でも、つい浮かんでくる心配と事実は関係ない。


「それでもね、心配なの。フィーニスが大事だから」


 へらっと笑うと、フィーニスは怒って目を赤くした。フィーニスの隣で泣きそうだったフィーネが、前足をぶんぶんと振っているのが視界に入った。首を傾げると身体に強い衝撃を受けた。

 あれ、視界が変わってる。


「あにむちゃ! ふぃーね、解毒魔法使うの! うー! みゃぁー!!」


 フィーネが涙声をあげると、真っ白な光が視界の片隅に入り込んできた。

 すると、不思議なくらい身体が涼しくなっていく。ひりひりしていたすねに痺れがなくなった。とは言っても、相変わらず痛みはある。

 飛び上がったフィーネが、頬の土を払ってくれた。


「完全には無理でしゅけど。ちょっと毒は抜いたのでち! でも、ふぃーねはお怪我への治癒魔法は使えないのでしゅ。早く、あるじちゃまに、根っこから治してもらわないと、あにむちゃの身体だと、どうなるのか予想がちゅかないにょ!」

「なのぞ! あにみゅはへらへら笑って、ふぃーにすたちの心配してるばあいじゃないのじゃ!」

「ありがと。だいぶ、楽、なったよ。一刻も、早く、ここ離れよう」


 と、漂ってきた臭いに、吐き気がわき上がってくる。胃から上がってくる気持ち悪さ。

 フィーネとフィーニスが、私を庇って前に出る。

 何とかしなければと思うのに、だるくて重い体は全く意思を反映してくれない。


「おんしがあにみゅに毒をつけたんじゃな!」

「せーかい。さっき、こーんなに薫香に、むせたよねー? 臭いと俺が持っていたモノに気をとられて、足に毒針が掠ったのに気がつかないでいたんだねー大魔法使いウィータの一番弟子くせに、まるっきり普通の人間みたいに脆弱なんだーなぁ。ウィータってやつも大したことなさそうだなー」


 師匠の名前を耳にした途端、かっと全身が燃えてきた。

 弟子の火事場のくそ力だ! 自分はともかく、師匠をばかにされるのは我慢ならないよ。立ち上がれ、私!


「ししょーを、ばかにするは、ゆるさない!」


 うん、大丈夫。さっきフィーネがかけてくれた解毒魔法のおかげで、本当にだいぶ楽になっている。

 少しばかり立ちくらみは起きたけど、問題なく仁王立ちできている。


「へらず口、きいていられる、今のうち、なんだから! ししょー、かかったら、あなたなんて、ぎったんぎったん! ぺっちゃんこ!」


 ここから逃げられない現状。悔しいけど今の私にできるのは、いかに彼から逃げ切ること。相手の頭に血が上るほど、私たちは地の利を使って逃げられる。


「べー、にゃ!」


 フィーネとフィーニスは横で舌を伸ばしている。目の横を引っ張った姿は、迫力よりも可愛さが勝っている。

 ただ、目の前にいる人か傀儡かいらいか謎な人物は、全く興味を持っていない。手に持った刃物だけを眺めている。


「つぎはーね、なに、しよっかなぁー鬼ごっこはねー、飽きちゃったしぃー」


 一見すると、無邪気な子どもが楽しげに零す鼻歌だ。

 けれど、彼――狂人と呼ぶにふさわしい空気を纏った傀儡もどきは、ぐるぐると目玉をせわしなく動かしている。

 奇妙すぎて、ぶるりと体の芯から震えた。


「あれぇ、変だなぁ。あーうー」


 だらしなく口が開いて数秒。傀儡もどきは、ぴたりととまった。これはやばいかも!

 突然、頭をかきむしり始めたじゃないか。


「気持ちよくなるの、きれてきた! 頭、痛い! もういい! お前、とっととやる!」


 ついさっきまでは、上機嫌だったのに。浮かび上がった血管がぶち切れんばかりに叫びだした!

 危険だと思ったところまでは良かった。けれど、形相を変えた傀儡もどきが、自分の頭を樹に打ちつけ始め、驚きのあまり立ち尽くしてしまった。


「あにみゅを守のぞ! ふぃーね!」

「んな! 変な人、嫌なにょ!」

「あっ! ふたりとも、まって!」


 伸ばした手をすり抜けて、フィーネとフィーニスが前に飛び出していってしまった!

 だめだ、絶対にだめ!

 二人を引きとめようと後を追う。けれど、かっと広がった閃光が眩しくて、顔を覆ってしまった。


「お願い、フィーニスにフィーネ! 戻って!」


 必死に目を擦る。

 ぼんやりと映ってきたのは、フィーネとフィーニスが共にひとつの魔法陣を作り出している姿だった。


「だめなの! 魔法つかっては、絶対にだめ!」


 自分で叫んだ言葉に体がギシッとかたまった。これは……デジャブ? 私--あの時も駄目って必死に叫んでいた。そうあの時、私の視線、召喚獣の後ろにいたのは--。


「なんだよー。全然まぶしくないし! めくらましになってないし!」


 傀儡もどきはちっとも眩しくないようだ。落ち着いた光の向こうに見えたのは、にたりと笑いながら首を傾げている傀儡もどきの姿。

 いや、何より今は子猫たちを止める方が先決だ!


「フィーネ、フィーニス! ししょーいない、攻撃魔法使うは、二人が、危ない!」


 返事がない小さな背中に手を伸ばす。

 ばちんと大きな音が鳴り響き、体全体に痺れが走った。めちゃくちゃ傷口が痛い!! でも、とにかく二人を止めないとだ。

 もう一度と土を踏みしめる。


「おまえら、肥えてて、美味そうだなー」

「しちゅれーでしゅの!」


 しゅっと。フィーネが尻尾を振り下ろした瞬間。紅蓮ぐれんの色をした魔法陣から、怒涛どとうの勢いで炎が放たれた!

 後ろ側にいる私でさえ、かなりの熱さだ。風に煽られた炎が、周囲に火の粉を撒き散らす。


「すごい、けど! お願い、二人とも、やめて!」


 もろに炎をぶつけられた傀儡もどきは、ひとたまりもないだろう。

 それでも、フィーネとフィーニスが気を緩めた様子はない。さらに魔法陣に近づき、前足をかざした。


「もっとぞ!」

「フィーニス、おひげ、焦げてる!」

「気にするないのじゃ!」


 いつフィーニスとフィーネの柔らかい毛が燃えだしてもおかしくない状況だ。

 って、思ってる傍から尻尾の先も!


「えいっ! ――っ!」


 ぎゅっと二人のしっぽを握る! 水もないからしょうがない! 掌がちょっと水ぶくれするくらいは我慢だ!

 っていうか、いっ痛いのを通り越してじゅくじゅくするし、じゅわって音がするし! なにこの臭い!! 皮膚が焼けるのってこんなに臭うのか!


「うみゃ?!」


 二人は火に気配に、全く気がついていなかったようだ。握られた驚きはすぐにひき、ぶんぶんと勢いよく顔や尻尾を振り始めた。


「あにみゅ、手がっ!」


 すぐに、はっとして私の掌を一生懸命舐めてもくれた二人。


「ありがと、大丈夫だよ。今のうち、離れよう!」

「んな! あいちゅ、丸焦げに違いないでしゅ!」

「水晶も森、あっちぞ!」


 ちょっとグロい場面が浮かんでしまい、思い切り頭を振る。

 いやいや、動揺している場合じゃない。いつ自分がそうなるのかも知れないんだから!

 再度、掌を舐め始めてくれた二人を抱きかかえ、踵を返す。思いっきり走りたいけど、気力だけでは足は思い通りには動いてくれない。でもでも。足を引きずりながらでも、可能な限り距離をとらないと。


「なんだこれ、美味いな! もっと!」


 炎の轟音をかき消すほど大きな声。

 高揚した声の持ち主を確認する前に。襲い掛かってきた衝撃で、息が止まった。


「――っ!」


 一瞬、自分の身に何が起こったのか、考えることも出来なぁった。視界が真っ暗で、でも、揺れているってわかる。


「あぅ」


 はっと。息を吐き出した一呼吸後。骨が軋んで、悶絶するしかない。呼吸しなきゃと思うのに、すればするほど全身が痛む。目を開かなきゃと瞼を上げるほど、視界が揺れて吐き気が込み上げる。

 それでも地面を掴むと、指の間に土が入り込み、冷たさと違和感で瞼があがってくれた。


「あにみゅ! しっかりするのじゃ! ふぃーにす、わかるのぞ?!」

「息してましゅ? いたいいたい、でしゅよね! やーん、変な人のばかばかー!」


 瞼を開けると、泣いているフィーニスとフィーネがいた。よかった。二人に目立った変化はない。元気に泣いてくれている。

 私、もしかして倒れてるんだろうか。起き上がろうと試みるけど、下にある冷たい根っこで頬を擦っただけだった。呼吸をすると、肋骨が痛んで仕方がない。


「けほっ。あぅぅ」


 あぁ、そうか。突風が吹いてきて、樹に打ち付けられたんだ。

 今度は、めまいがしてきた。目を開けていても、閉じていても。気持ち悪い。頭の中がぐるぐるかき混ぜられているみたいだ。


「おまえらも、美味そう。だけど、魔法はもっと好物!! 予定変更だな。もっと炎出せ。おまえらは、切り刻んでおもちゃにするぞ」

「そんな風、言われて、従うやつは、いないのじゃ!」


 頬を撫でてくれていたフィーニスの気配が離れていく。フィーネは額に体を擦り付けてくれている。

 目を閉じると血と焦げた臭いを一層強く感じてしまい、生理的な涙が零れた。


「だめだよ、フィーニス」


 うん。死にそうに痛いけど、まだ意識はしっかりしている。恐怖心が麻痺してくれているのかも。

 でも、離れるフィーニスを止められるほどの力は残っていない。


「おんし、魔法食べるなんて、普通の人間じゃないのぞ!」

「正解だよー俺は元々、火口に住み、炎を主食にする魔物だからねー火加減は全然気持ちよくなかったけどねー味は上質だったぞー! くさっても大魔法使いウィータの式神だな!」

「うそでしゅよ! その一族に人型はいないでしゅ。あるじちゃまが教えてくれたの、ふぃーね、ちゃんと覚えてましゅの」


 根っこからずり落ちたおかげで、地面から傀儡もどきの足音が聞き取れる。うっすら瞼を開けると、傀儡もどきの足自体も認識出来た。なんとか目を転がして、上を見る。


「あははー!」


 何が可笑しかったのか。二人の言葉を受けた傀儡もどきは、高らかに笑い声をあげた。空気が揺れて、全身が軋むのでやめて頂きたい。


「別にいいけどねー信じなくても。でも、ある人がねー身体の構造を変えてくれたおかげでさー炎より美味いモノや楽しいこと知れたんだーご褒美で、魔法の薬もくれるしー」

「だれなのじゃ! そいつが傀儡たちを操ってるのぞ?」

「まーねーでも、どうでもいいじゃん。炎、早くだせよ」


 上機嫌だった口調が、荒々しいものに変わる。いけない。

 ずきんと響いた痛みを堪え、上半身を起こすと。フィーニスが傀儡もどきに握られていた! 缶を握りつぶすように、フィーニスのお腹を圧迫している!


「やっやめて!!」


 声も出せないくらい苦しんでいるフィーニスを目の前に。反射的に、膝元で転がっていた灯りの瓶を、傀儡もどきに投げつけていた。力の限り。


「がっー!!」


 幸い、瓶は傀儡もどきの眼前で栓が外れてくれた。

 もろに、魔法水と花びらを浴びた傀儡もどき。苦しそうに悶え始める。恐らく清浄な魔法が逆に毒になっているのだろう。

 いやいや。どうでもいい。とにかく、逃げるチャンスを逃すまい!


「フィーニス、こっちでしゅ!」


 フィーネが咳き込んでいるフィーニスの手を引っ張った。

 ばさりと、フィーネの羽が音を立てた矢先。傀儡もどきが足元の枝に手を伸ばした!

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