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unlimited  作者: 轟号剛


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1/16

謎の人物

「チューズくん起きてる? 多分起きてないよね。仕事の時間になるので起きてくださーい!」


頭の中に響く女性の声で、俺は勢いよく飛び起きた。


「うおっ!?」


心臓が跳ねる。


毎回思うが、パシーさんのテレパシーは体に悪い。


「今日は火曜日なのでチューズくんだよね。可燃ゴミ処理場の仕事だから急いでね! フレイさんとゴクウさんにはもう連絡してあるから!」


一方的に言いたいことだけ言うと通信は切れた。


「相変わらずだな……」


頭を掻きながらベッドから降りる。


今日は火曜日。


つまり今日の俺はチューズ・ウィークだ。


俺たちウィークは少し特殊な人間だ。


一つの身体を七つの人格で共有している。


月曜日はマン。


火曜日は俺、チューズ。


水曜日はウェン。


曜日が変わるたびに人格も顔も髪色も能力も変わる。


昨日までこの身体を動かしていたのは月曜日担当のマンだ。


ナルシストで嫌な奴だが強さだけは本物。


対する俺は火を操る能力を持つ。


単純な火力なら七人の中でもトップクラスだ。


「よし!」


赤髪をかき上げながら立ち上がる。


今日も全力でいくか。



身支度を終えた俺は首都ベゴニアの通りを歩いていた。


「あっ! チューズじゃん!」


聞き慣れた声が飛んでくる。


声の主はアブ・カインズ。


俺たちカインズのリーダーだ。


小柄な体にショートカットの黒髪。


見た目だけなら子供に見えるが、立派な二十歳である。


「おうアブ。朝から元気だな」


「そりゃリーダーだからね!」


胸を張るアブ。


相変わらず小さい。


色んな意味で。


「聞こえてるんだけど?」


「ははっ」



アブと別れた俺は街を抜け、海岸へ向かった。


そこには大量のゴミが積み上がっている。


超能力者が活躍するこの国でも、ゴミ問題だけはなくならないらしい。


「おせぇぞチューズ!」


声をかけてきたのはフレイ・ドフメイン。


俺の師匠だ。


身長は二メートル近くあり、真っ赤な髪をした大男。


炎能力者としてはこの国でもトップクラス。


豪快で酒好きで頭は悪い。


「すみません」


「がっはっは! なら働け!」


フレイは両手から炎を噴き出した。


積み上がったゴミが一瞬で燃え上がる。


負けじと俺も炎を放つ。


赤い炎が腕を包み込み、ゴミを次々と焼き尽くしていく。


立ち昇る黒煙は全て空へ吸い込まれていった。


「終わったか?」


上空から声が降ってくる。


雲の上に座っていたのはゴクウ・スモウィルだった。


煙を自在に操る男。


黒煙を圧縮し、小さな球に変えて腰へしまう。


相変わらず便利な能力だ。



「よし! じゃあ稽古するぞチューズ!」


フレイが笑う。


「お願いします!」


俺が頭を下げた、その瞬間だった。


『緊急連絡!!』


パシーの声が頭に響く。


『中央広場で乱闘騒ぎ発生! ムサシさんが正体不明の人物と交戦中! 近くのチームは援護に向かってください!!』


空気が変わった。


フレイの表情から笑みが消える。


「……聞いたな?」


「ああ」


ムサシは弱い人間じゃない。


そんな男が援護を必要としている。


つまり――。


「面倒な奴が現れたってことだ」


フレイが炎を噴き上げる。


俺も拳に炎を纏わせた。


そして二人は中央広場へ向かって駆け出した。


――十五分前、中央広場。


首都ベゴニアの中央広場は、いつものように人で賑わっていた。


屋台の呼び声。


焼けた肉の匂い。


子どもたちの笑い声。


その平和な空気を壊したのは、酒樽を片手にふらつく大男だった。


「おい、お嬢さん。ちょっと一杯付き合ってくれねぇか?」


男に絡まれた女性が、怯えた顔で後ずさる。


「す、すみません。急いでいるので……」


「このリーザス様の酒が飲めねぇってのか?」


リーザスは乱暴に女性の肩を掴んだ。


その瞬間。


「ハハ。やめておきなよ」


背後から、場違いなほど明るい声が響いた。


振り返ったリーザスの視線の先にいたのは、ピエロだった。


派手な水玉模様の服。


赤いアフロ。


白く塗られた顔。


紫に縁取られた目元。


そして両目の下には、赤い涙のマーク。


「なんだテメェ。ヒーロー気取りか?」


「違うよ。僕はピエロさ」


ピエロは赤いアフロを撫でながら笑う。


「僕を見た人には、笑ってほしいんだ」


そう言って、女性を見る。


「でも、彼女は笑っていない」


空気が変わった。


「その手、離してあげなよ」


「生意気言ってんじゃねぇ!」


リーザスは持っていた酒樽をピエロへ投げつけた。


だが、樽はピエロに当たらない。


次の瞬間には、ピエロの姿はリーザスと女性の間にあった。


「じゃあ、剥がしてあげるね」


銀色の刃が走る。


リーザスの右手が宙を舞った。


「ぐあああああああっ!?」


悲鳴が広場に響く。


女性が腰を抜かし、周囲の人々が一斉に逃げ出した。


「テメェ、何しやがる!」


リーザスは痛みに顔を歪めながら、残った左拳を振り上げる。


「ハハ。まだ分かってないんだ」


ピエロは笑ったままナイフを構える。


「じゃあ、左手もいらないね」


刃が振り下ろされる。


――キィィン!


金属音が響いた。


ピエロのナイフを受け止めたのは、一本の刀。


「やりすぎだぜぃ」


ちょんまげ頭の男が、ピエロの前に立っていた。


黒髪を後ろで結び、腰には二本の刀。


超能隊、チーム・ファイターのリーダー。


ムサシ・ミヤ。


「これ以上は見過ごせねぇな」


ムサシはナイフを弾き、リーザスの服を掴んで後方へ投げ飛ばした。


「俺が悪かった! 酔って気が大きくなってただけなんだ! 許してくれ!」


リーザスは右腕を押さえながら、震える声で謝る。


ムサシは刀を構えたまま、ピエロを睨んだ。


「あいつも謝ってる。ここまでにしとくんだぜぃ」


「ハハ」


ピエロは嬉しそうに目を細めた。


「ムサシさんですね」


「……俺を知ってるのか?」


「もちろん。二刀流のムサシ。五感強化の超能力者。努力家で、刀好きで、好戦的」


ピエロはナイフをくるりと回す。


「会いたかったんだ」


次の瞬間、ピエロが地面を蹴った。


「速っ――」


ナイフがムサシの首元へ迫る。


ムサシは即座に刀で受け止めた。


火花が散る。


「おいおい。お前、あの女を助けたかったんじゃねぇのかよ?」


「助けたよ?」


ピエロは笑う。


「だから次は、君と遊ぶ番だ」


ピエロの腕に力がこもる。


ムサシは刃を受け流し、逆に斬り返した。


だが、ピエロは紙一重でかわして後ろへ跳ぶ。


「ハハ、危ない危ない。やっぱり強いね」


ピエロは軽快なステップを踏みながら、右手を前に出した。


「レッドボール」


その手の中に、赤い球体が現れる。


「レッドパワー」


ピエロが球を握り潰す。


直後、赤いオーラが全身を包み込んだ。


「身体能力強化か」


ムサシは目を細める。


「なら、こっちも少し本気を出すぜぃ」


ムサシは二本目の刀を抜いた。


二刀流。


それを見たピエロの笑みが、さらに深くなる。


「ハハ! 見たかったんだ、それ!」


赤い残像が走る。


さっきまでとは比べものにならない速度で、ピエロが距離を詰めた。


その刃がムサシへ届く直前。


「面白そうなことやってんじゃねぇか!」


上空から声が降ってきた。


雲に乗った男が、棒を振り下ろす。


ゴクウ・スモウィル。


煙を操る、元ホープの怪物。


ピエロは咄嗟にナイフで受け止める。


だが、押し返せない。


「ハハ……あなたはゴクウさんですね」


「おう。俺とも遊んでくれよ」


ゴクウは棒を肩に担ぎ、楽しそうに笑った。


「ゴクウ、今いいところだったんだぜぃ。邪魔すんなよ」


「ケチくせぇこと言うな。面白そうな奴は早い者勝ちだ」


二人の超能隊を前に、ピエロは肩をすくめた。


「ハハ。さすがに二人相手は、楽しくなさそうだ」


赤いオーラが消える。


「今日はここまでにするよ」


「逃がすと思うか?」


ムサシが刀を構える。


ゴクウも棒を握り直した。


ピエロは笑顔のまま、右手を掲げる。


「ピンクボール」


手の中に、今度はピンク色の球が現れた。


「ピンクカーテン」


球が潰れる。


次の瞬間、ピエロを中心にピンク色のカーテンが円形に広がった。


「逃がさねぇ!」


「逃がすかよ!」


ムサシとゴクウが同時に飛び込む。


刀と棒がカーテンを裂いた。


だが、その中にピエロの姿はなかった。


残されたのは、奇妙な笑い声の余韻だけ。


「……何だったんだ、あいつは」


ムサシは刀を鞘に収めながら呟く。


ゴクウは倒れているリーザスを雲の上に乗せた。


「俺はこいつをストロングのところに連れてく。ムサシ、後から来る連中への説明頼んだわ」


「おい、面倒くさい役目押し付けんなぜぃ!」


「じゃあな!」


ゴクウは笑いながら、雲に乗って飛び去っていった。


ムサシは深いため息をつく。


「ったく……面倒なことになったぜぃ」



その頃。


何もない部屋の中央に、ピンク色のカーテンが現れた。


円形に開いたカーテンの中から、ピエロが姿を現す。


「やぁ。遅かったじゃないか」


部屋の奥。


椅子に座って本を読んでいた青年が、ゆっくりと顔を上げた。


腰まで伸びた銀髪。


整いすぎた顔立ち。


細く開いた瞳には、どこか人を見下すような冷たさがあった。


「コピさん、すみません」


ピエロは笑顔で頭を下げる。


「超能隊と少し遊んでしまいました」


「超能隊と?」


コピは本を閉じる。


「まだ姿を見せるつもりはなかったんですがね」


ピエロは悪びれもせず笑う。


「ハハ。ムサシさんもゴクウさんも、すごく面白かったですよ」


「……まあ、いいでしょう」


コピは立ち上がった。


「時間は待ってくれませんからね」


銀髪が揺れる。


その口元に、不敵な笑みが浮かんだ。


「そろそろ、私たちも動き始めましょう」

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